第11話
ああ、谷口さんとの別れが辛い。
私はきっと、ずっとこの想いを持ったままライブに通って、キラキラ輝き続けるガラス瓶のメンバーを応援し続けるんだろう。
今、サイダーの泡は途切れることなく弾けていくつも浮かんで消えていく。けれど、いつしか全ての泡が浮かばなくなって、ただの水とも区別がつかない、ただの甘い甘い汁になってしまうなんて、悲しすぎる。
ならばいっそ言ってしまえば?
その考えが浮かんできたと同時に谷口さんに声をかけていた。
「あのっ…谷口さん」
あなたのその笑顔が、力強くギターを弾くその手が、広く響き渡る優しい声で歌うあなたが、楽しそうにステージでジャンプするあなたが。
何も知らない、名前と年齢しかわからないあなたに一目惚れしました。
ぶわ っとぱちぱちキラキラ、泡がまたはじけだす。今言わなければ、一生の後悔ランキング1位だ。
「すきです…あなたが。一目惚れしちゃったんです」
ごめんなさい、ファンだけど、電車の中で会った時からもう惹かれていたんです。
ぼろぼろと涙が大粒の雨のように溢れ出る。サイダーの泡は依然としてわたしの心でたくさんの音を鳴らしている。
谷口さんからの返事はない。
急に告白して勝手に泣いた、迷惑なファンでしかなくて、どう対処したらいいかもわからずに立ちすくんでいるに違いない。
長い沈黙、いや10秒ぐらい。
涙を隠した方伏せていた顔を恐る恐るあげて谷口さんを見る、と。
谷口さんの顔は真っ赤で。顔を見られた谷口さんは大きい手で顔を覆う。
状況が理解できない。まじまじと顔を隠した谷口さんをみていると
「ごめんなさい、僕も一目惚れしました。あなたに、電車の中で」
だから、嬉しいです。本当に。泣かないで、笑っていてください。
谷口さんから降る優しい言葉が、嬉しすぎて、信じられなくて、幸せで。
「改めて、付き合ってください」
たくさん首を振って情けない鼻声で返事をする。幸せそうな谷口さんの笑顔、私たちもう恋人なの?
あっ、それと、これ、と手渡されたのはトークアプリのID。
「もともと、今日渡そうと思っていたんです。いつでも連絡して?たくさん話したいんだ」
「敬語はなし、ね。あと、泣き止んで?」
「谷口さ…」
まこと。唇に人差し指を当てられて訂正される。
「…誠、さん。すきです…うぅ」
カップルなんですよね、恋人なんですよね。
本当に、幸せで信じられなくて。
そう言って彼氏となった誠さんに笑いかける。
私のサイダーは、飲み干されることも、炭酸が抜けてしまうこともなく、これからもずっと注がれ続けていくようです。
夢のようなぱちぱちとキラキラ、しゅわしゅわが一体となった幸せのサイダーが私を包んで、まるで浮かぶような気持ち。
私、絶対忘れない。
このサイダーの、淡くてあまい、恋の味を。
チェリーインサイダー 真珠 @fairytale
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