第7話

 沙耶ちゃん!沙耶ちゃん!


 よく見えなくて、声だけが聞こえる。目をごしごし擦ると教室の白い蛍光灯をバックに沙里ちゃんの顔がぐっとどアップになる。びっくりして椅子をガタッと揺らして仰け反ってしまった、びっくりしたぁ。


「なーに、沙里ちゃん。どうしたの?」


沙里ちゃんにそう問いながら口によだれがついてないか口元を触ってみる。カピカピしてないから多分大丈夫だな、こんなガサツだから彼氏できないんだな。


まだ眠たくて机に突っ伏そうとする前に沙里ちゃんの顔の次にどアップになったのは沙里ちゃんのスマホの画面だった。

動画サイト「ぷー」、まさか新曲⁉︎


「新曲⁉︎」


「違う!バンド名とライブ!」


「は⁉︎」


教室ではどうにもうるさくなりそうなので屋上へ。昼休みも終わりそうだけどしょうがない、初のサボりだ!


 それにしても今日発表だなんて聞いてない、告知もなかった。バンド名、ライブ会場、一つ一つ沙里ちゃんが読み上げてくれるようだ。

 私が応募したあの名前、透き通った瓶に注がれるサイダーを思い浮かべたあの名前。


どきどき、どきどき。いつもの倍ダイレクトに耳に届く心臓の音。


どくんどくん、どきどきどきどき、どくんどくん、どきどきどきどき。


「バンド名…」


沙里ちゃんの顔が、輝く。ほころんでとても嬉しそうに。体育祭で勝った時より、彼氏ができたときよりも綺麗な綺麗な笑顔で。


ガラス瓶。沙里ちゃんは確かに、そう言った。

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