第2話 side カナタ

ショッピングモールの入口にはファストフード、

そうだよね、外を眺めながら食うハンバーガーうまいだろうね

それにつられて客も入るっつー相乗効果ってね…

んで、ちょうどメシ時じゃん、っつかこいつらなんで

ファストフードに並んでるわけ?ファストの意味どうしたよ?


…ぞろぞろと並んでる人々から、裸足を見咎められているような気になって

意味もなく毒づいてみる、アタマん中で。

なあ、そう思わね?と隣を見やると、わあとかなんとか小さくつぶやきながら

でもなんかどことなく楽しげに、弾むような足取りで床を踏んでる女。


オレの視線に気づくと顔をあげた。

「カナタさん」

「なに」

「こういうところの床は、裸足で歩くようにはできていない」

「…そりゃそうだろ」

「ふふ、歩きにくいもんですねー、でも」

訝しげなオレを見あげて

「なんか楽しいです、ね?」

…変な女。


「あぶねーぞ」

ろくすっぽ前も見ずに走ってくるガキどもの進路から

手を引いてこちらに寄せてやる。

思ったよりも手ごたえが軽くて、おやっと思った瞬間

「ひっ」

「あ、悪ぃ」

べちゃっと女がコケた。

いやいやいや、オレちゃんと受け止めるつもりだったし。

伸ばした手から明らかに逃げた、結果。

「オマエなー…」

なんなんだよ、オレの腕の中より床を選ぶってどういうこと?

「だって」

「だって、なんだよ」

女はむっくりと起き上がって言った。

「チャンスに見せかけたピンチかもしれないし」

「は?ナニソレ」

…やっぱ、変な女。


靴屋の店員は、オレが裸足であることにはなぜか触れなかった。

レジで金を払う前にちらっとのぞいたら、

さっきまで店の向かい側にあるソファで所在なげにしてた

女の姿がなくなってた。

帰ったのか?迷子っていうのか、こういう場合?

探す義務があるだろうか、って思ったところで

…名前もきいてなかったわ、そういや。


あーでもこれでフツーに帰れる、さっきあの女が座ってた場所に陣取り

買ったばっかの靴に足を…入れようとしたまさにその時に

ソファがぼよんと跳ねた。女が飛び込んだおかげで。

「待って待って」

「…何」

がさがさと音を立てて女が袋から取り出したのは、ウエットティッシュ。

「おお!やるじゃん」

さすがにトイレで裸足っつーのもね

「外になら洗えるとこあったんですけど…」

「そうなの?」

「犬の」

「犬用かよ!」

「水、冷たかった…」

「犬用でいいのかよ…」

力なくツッコミを入れて、見れば女の足元はもう裸足じゃなかった。

作り物みたいな白い指はもう見えていない。

ちょっと残念な気持ちになったっぽいのを、オレ自身どう捉えようかと…

っつか、なんでそんなふうに思ってんだ?


戸惑ってるオレの目の前にさっきのとは別の袋がさしだされた。

「あげます」

簡素だけど一応リボンが結ばれた袋には靴下とプリントしてあった。

「金、払うよ。いくらだった?」

女は首を横に振って、そのリボンの端っこをつまんで言った。

「いらない。代わりにこれください」

くださいもなにもオマエが買ってきたんだろ…と思いつつも

解いて渡してやる。

ふふ、と女が笑った。

「カナタさんからもらった」

「はあ?」

「それじゃ、わたし帰ります」

「あ?…おい、待てよ」


履きかけの靴では追いかけることもかなわず、オレはその場に取り残される。


…なんだったんだ、一体。

とりあえずもう一度ソファに腰を下ろし、もらった袋を開けてみる。

クレイジーボーダーのド派手な五本指ソックスが出てきた。

…わざとだな。

オレは(不慣れなせいで)結構苦労してそいつを身に着けた。

マジで変な女。

そういや、名前聞いてねーし。


外に出たら抜けるような晴天が眩しかった。

理想の青空だ、と思った。

女のペディキュアともあのリボンの色とも、

似てるかもしれない。



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