第16話 side カナタ

なさけねえことに、こぼれはじめれば弱音はあふれるように

喉元へと押し寄せてくる。

噛みしめた唇が逃げ場を求めていて、どうしたらいいのかもわからず

オレはハルカを見る。

「な、何・・・」

ハルカは目を丸くして身を竦めてる。


「お客さん、どの辺?」

いちゃついてるめんどくさい客だと思ってるんだろう、

運転手がぶっきらぼうな言葉をミラー越しに投げかけてきた。

あー・・・オレはなぜだかちょっとほっとして、

見慣れた道の行き慣れたコンビニの前でタクシーを止めた。


走り去るタクシーを見送って

オレはハルカと目を合わせずに言った。

「帰りてえなら、帰ればいいし。」

あたりが明るくなるまでせいぜい30分、

コンビニにいれば危ないこともないはずだ。

そのまま踵をかえして歩き出す。


「えっ?えっ?」

背中で慌てたような呟きが聞こえて、小走りの足音がついてきた。

そのまま足音はオレを追い越すことも隣に並ぶこともせず、

すこし後ろで小さく聞こえている。

ついてくんのかよ。

目的の建物に着いて、

ちょっとだけ歩調に手加減をしながら、エントランスを抜ける。

扉に挟まったりしてねーだろーな。

相変わらず足音はついてきている。


「うわっ」

エレベーターのボタンを押そうと立ち止まったら、背中にハルカがぶつかった。

「いーのかよ」

「何がですか?」

四角い箱が届いて、目の前のドアがスライドする。

オレがのりこむとハルカもそれに従った。


ドアの前でもう一度だけ聞いた。

「いーのかよ?」

黙ったまま、ハルカがそっと指先をこちらに向けてきた。

その手首を左手で掴んで、オレは右手でドアを開けた。

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