第12話 side カナタ
なんつったってオレ、べた褒めされてるわけで。
女の話は心地よかった、はじめのうちは。
オレが音楽始めた頃のあんまり知られてないマニアックな曲から、
そんなに人が入らなかった(ゆえに覚えてる)ライブまで
いろいろ知っていて。
女はオレのライブやリリックやステージで話したことや
なんかのインタビューで答えたこととかを連ねていって、
最終的にオレの音楽がスバラシイみたいな結論をつけた。
女の言ったことについては、当人であるオレにしてみりゃ
そんなこと言ったっけ、みたいなこともあったし
そういうつもりじゃねえけど、ってこともあった。
そもそも論点がずれてる気もする。
話が熱を帯びるにつれ、オレはカナタサンからカナタクンになり、
女はそれに気づいていなかった。
話がおわったとき
オマエがオレを好きなのはわかった、と言おうとしてやめた。
女はそれにも気づいていないかもしれない。
代わりに聞きたかったことをもう一度聞いた。
「終わってないよ!」とそいつがちょっとムキになって答えて
オレは理由を問うた。
「カナタさんの終わりはカナタさんが終わるんだもの」
女の耳が、うっすら赤く染まっている。
なんか、アレだ、高校ん時とか放課後の教室で告られるみたいな
あんな感じ?
「そっか」
やっぱり、オレが決めなきゃかー。
「ありがと」
耳元でそう伝えると、女は弾かれたようにこっちを見た。
「あ、えっと、わたしのほうこそ」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとうございました」
あー、さっきのアレか。
「あんま、あぶねーことすんなよ?」
「だって!」
「ほんと、変わってんのな、オマエ」
「・・・忘れてたくせに」
たしかに思い出さなかったけど、忘れてはいなかった。
「オマエだって」
「なに・・・」
「名前、教えるの忘れてんだろ」
「・・・」
そっぽを向いたままの唇が動いたが
DJがなんかいいやつかけたおかげでフロアがわっと盛り上がって
その声がかき消された。
「きこえねー」
腕をひっぱったらまた転ぶんだろーから
背中から覆いかぶさって無理やりこっちに顔を向けさせた。
見開いた瞳が、オレを捉えて揺れる。
「もっかい、言って?」
「・・・ハルカ」
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