第11話 side ハルカ

…最悪だ。

よりによってこんな場面で言葉を交わすことになるなんて。

カナタ君が思い出さないのなら、そのままの方がよかったかもしれない。

どうしてわたし、わざわざヒントなんか…

「なあ」

ぐるぐる考えていたわたしの思考を、カナタ君の声が停止させる。

「オレっておわってんの?」

「おわってないよ!」

思わず大きな声がでてしまい、周りの人がわたしを見る。…さらに最悪だ。

そんな視線などおかまいなしに、ふうん、とカナタ君はつぶやいて

わたしの顔をのぞきこんだ。

「オマエは知ってるの?」

「何を?」

「オレのこと」

「どういう意味、ですか?」

「…いや、何でもない。んで?おわってないんだ?」

「おわってないです。だって」


不意に腕をつかまれ、驚いて言葉が途切れる。

ついてきて、と唇が動いて腕をとられたまま人混みをすりぬける。

あのままの場所だったら、たしかに早々に声が枯れていたかもしれない。

…気を遣ってくれたの?

バーカウンターからもステージからも離れて、会話がかなり自由になった。


「つづき、聞かせてくれる?」


いざあらためて、しかも当の本人を目の前にして、カナタ君の音楽について

どこをどんなふうに好きか語るなんて…

ある意味これって非常事態だし、そんなの絶対無理!と思いつつも

話し始めれば言葉はどんどんあふれてきた。

独特の言葉選びがとても魅力的なこと

それらが紡ぎだす世界がわたしには目新しいこと

トラックを変えるとリリックがまた違う色を帯びて見えることを

カナタ君のライブで初めて知ったこと

それらのひとつひとつが、今もまったく色褪せていないこと…

カナタ君は時々うわーとかマジでとか言いながらも概ねきちんと聞いてくれた。

それなのに。


「オマエがオレの真面目なファンだってことは、わかった」

「…へ?」

全然伝わってない!!

「でもおわってるかどうかは」

「おわってない」

「どうしてそういえるの」

「だって」


カナタ君がわたしを見る。

「カナタさんのおわりは、カナタさんがおわるんだもの」

どういえば伝わるのか。わたしは少し焦れてカナタ君を見る。

予想外に真剣な瞳がわたしを捉えて、反射的に目を逸らす。

「…他の誰かが決めていいことじゃない」

しばしの沈黙。


それとはわからないくらいのため息がこぼれてのち、

カナタ君のちいさな声が聞こえた。

「そっか」


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