第6話 side カナタ

DJであるシノとのリハーサルは夕方には終わっていた。

リハとは言っても機材があるシノの家で、今夜やる曲とその順序

それから曲に入るまえのちょっとしたフリみたいのを、確認するだけだ。

「ん、じゃあそんな感じで」

「わかりました」

「まだこんな時間かーシノ、飯でもいく?」

「いえ、オレもうちょっと今夜のセット練っておきたいんで」

「そっか」

シノは別にオレの専属バックDJってわけではなくて、

昔事務所に所属してたときの後輩で、その頃もちょくちょく頼んでたから

そのまま今もやってもらってるっていうだけだ。

オレの曲のトラックもだいたい持ってるし。

今夜のイベントではDJとしてのレギュラーでもあり、60分の持ち場を

任されている。


「…カナタさん」

「んー?」

「最近、リハ短いっすね」

玄関先で屈んで靴ひもを結んでいたオレは、ゆっくりと立ち上がって

振り返った。

シノの犬っころみたいな目が、こっちをじっと見ている。

「そう?」

オレはかぶってた帽子のつばをちょっと直すと、笑って答えた。

「だってオレ、ベテランだし」

自分で言いますかってシノがツッコミをいれたけれど、

とりたててうまい返しだとは思わなかった。

シノは、どこかで感づいているのだろうか

…音楽以外のことにはおおむねうすぼんやりしてるのに。

物言いたげなその表情が妙に気になって、八つ当たりをする。

「シノのくせに」

「えっ、なんですか」

「なんでもねえよ。じゃ、あとでな」

「お疲れ様っした」


ドアを閉めて外に出て、そういえば雨だったと思い出した。

…めんどくせえなあ。



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