第4話 side ハルカ
ショッピングモールの外に出たら、見事な晴天だった。
ただし、気づいたのはだいぶ経ってから。
「………!!!」
声にならない気持ちが押しあがってきて、叫んでしまいそうだったのを
我慢しながらの帰り道。
どうしてだかわからないけど、耐えているうちに歩みが速くなる。
次第にスピードは増していき、なぜわたし走ってる?
何かを振り切りたいのか、何かから逃げ出したいのか、
それが自分の中の何かなのか、カナタ君なのか、わけがわからないまま
走って走って、駅についたときには息が切れていた。
…ちょっと落ち着こう。
壁にもたれて、一つ呼吸を置いた。
握っていた手をひらくと、青色のリボン。
カナタ君にもらった。
あんなの、もらったなんて言わないか。それでも
「うれしかったんだから」
つぶやく口元が緩んでるって、自分でもわかる。
ベンチに座ってるカナタ君を見つけて、ほんとうはすごく焦った。
会えるなんて思ってもみなかったし、もし会えたらどうするなんて
想像もしてなかった。
だってカナタ君はわたしを知らない。
クラブで偶然近くにいたとしても、話しかけることはしない。
ファンに声をかけられても、カナタ君は気さくに振る舞っていて
邪険になんてしないし、写メだって握手だって
笑って応じているらしいことは、なんとなくわかってるけど
カナタ君の音楽を好きなことと、そういうふうにすることは
なんか違うと思ってたから。でも、今日は。
「…あの曲」
ライブの3曲目がとてもすてきだったことをどうしても伝えたいと
思ってしまった。
カナタ君に声をかけて、ファンなのって聞かれて。
ファンだって宣言してしまえば、曲への想いが溢れだした。
早口にまくしたてちゃって…びっくりしてたなあ、カナタ君。
それから後のことは夢みたいだ。
並んで歩いて、話して、靴下あげちゃったりもしたんだっけ。
うっかりコケたし、言い訳がましいこと言ったし…
いまさらながらじんわりと恥ずかしくなって、思わずうつむく。
自分のつま先が目にはいり、そもそもの発端を思い出す。
…そういえば、どうしてカナタ君裸足だったんだろう?
聞きそびれたけれど、まあいいか。
帰ることに決めて、改札を通り抜ける。
手の中のリボンを確かめる、あれは夢じゃなかった。
ホームに立つと、眩しい日差し。目を上げればよく似た青色の空。
…いい天気だなあ。
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