冒険者登録をする

第9話

 現代の日本人のほとんどは、整備された道を歩いて生きている。

 歩くよりも自転車や自動車、交通機関等を使って遠出する事の方が圧倒的に多いだろう。

 しかし、この世界の道は整備されている事は殆どない。

 人が歩き、馬が通る事で慣らされた物を道と呼び、そこを行き来するのが普通なのだ。

 平坦な道を歩き慣れている現代人にとって、この道を歩くのはかなり辛い。

 知識があろうとも、体験して知るのとは違うのだ。

 息を切らしながら、志希は必死で足を動かす。

 事前にカズヤが言っていた様に、彼らの歩く速度は緩まない。

 この中で一番足が短いと言えるベレントですら、平然とした表情で一番足の長いイザークについていく。

 カズヤはこの世界に来て、七年経っている。

 イザークより小柄だが、息を切らしもせず着いていっている。

 その姿に、なんと無くカズヤの嫉妬したい気持ちがわかった気がした。

 飄々としたその姿には、一瞬だけ妬ましいものを感じてしまう。

 だがしかし、実際の所は彼が身に付けた物の一つにしか過ぎないと悟るのであった。

 志希は必死で足を動かし着いていくのだが、結局見かねたらしいイザークに抱えられて移動する事となってしまった。

 その後は皆、殆ど無言で周囲を警戒しながらの道程となった。

 森を出たのは、陣を出てから三日後の事だった。

 出て少し離れた所に砦が立っており、ここが妖魔との最終防衛線だと教えられた。

 一旦その砦に入り、クルトがライルとベレントを連れて何処かへ行ってしまった。

 カズヤはその間に街へと降りる補給の馬車があるかを兵士に聞き出しており、イザークは志希を椅子に座らせて足の手当てをしてくれた。

 履き慣れない靴とそれを縛っていた紐のせいで、志希の足は靴ずれを起こしていたのである。

 靴ずれに傷薬を塗ってから包帯をして、靴を履く。

 その頃にはクルト達も戻ってきており、カズヤも補給の馬車に乗せてもらえるように交渉したと教えに来てくれた。

 補給の馬車が直ぐにでも出ると言う事で志希達はそこから近くの町へと移動し、一泊してからすぐさま乗合馬車に乗って町を発つ。

 どうやら、クルト達は砦で何かの書簡を受け取って来たらしく、それをこの国の首都に届けに行かなくてはならないそうだ。

 急ぎと言う事で、乗合馬車の運賃や諸経費を前金で貰っていると言うのを教えられた。

 乗合馬車を乗り継ぎながら首都についた時には、志希がこの世界に来てから十日ほど経過していた。

 首都についてから、パーティはいったん解散してしまった。

「一度、宿に行くぞ」

 イザークは志希にそう言い、カズヤを見る。

「そうだな。オレとイザークの荷物を預けたら、志希の服と靴を買ってやらねぇと」

 カズヤの言葉に、志希はきょとんとした表情を浮かべる。

「え?」

 思わず声を上げる志希に、カズヤは呆れた表情を浮かべる。

「シキの足に合った靴をかわねぇと、歩く時辛いだろ。服だって、俺が貸してる二着だけだしな」

 女性としては、中々辛い事実である。

「でも、私お金無いよ?」

 志希はカズヤにそう告げると、彼は苦笑する。

「道中、シキがクルトの代わりにずっと周囲を警戒してただろ。その御褒美って事で、クルトからお前の身の回りのもん買って来いって金もらってんだ」

「えぇ!? それは、悪いよ!」

 志希は思わず声を上げるが。

「クルトなりの親切だ。貰うのが悪いと言うのであれば、仕事をして返せばいい」

 イザークはそう言って、志希の背を押して歩き出す。

「で、でも……」

 戸惑った声を上げる志希に、カズヤが苦笑する。

「今無一文なんだから、有り難く受け取っておけって。気がすまねぇンだったら、イザークの言うとおり。稼いでかえしゃ良い」

 カズヤの言葉に、志希は小さく唸ってから頷く。

「取り敢えず、オレ達が根城にしてる宿があるんだ。ギルドでも認定されてる場所だから、安全面は保証付きだぜ」

 カズヤの言葉に、志希は一瞬考える素振りを見せてから、頷く。

「それは安心だね」

 志希の言葉に、だろうとカズヤは頷く。

 ギルドと言うのは通称で、本来は冒険者ギルドと言う。

 冒険者たちの活動を支援し、補佐をする機関だ。

 そも、冒険者と言うのは迷宮などに潜ったりする者達の総称だ。

 しかし、近年は民間や貴族、国からの依頼を受けて活動するモノ達も冒険者と呼ばれている。

 ギルドはそれらの依頼を取りまとめ、書類として形に残す機関である。

 それぞれの国の首都や、大きな町には出張所が必ずある程広まっている物だ。

 このギルドに登録する事によって、各国共通の冒険者証明証が発行される。

 そして、この冒険者ギルドに認定される宿屋は様々な特典が付いている。

 手数料込みでお金を預ける事が出来、ここではない他の認定された宿屋へ行ってもお金を引きだす事が出来る。

 無論、その際には冒険者証明書が必要だが。

 また、一つ一つの部屋は清潔な上に鍵が付いており、荷物の盗難等を心配しなくても良い様になっている。

 その分、冒険者ギルドや宿屋で問題を起こせば部屋を借りる事も出来なくなる事がある。

 一般の宿屋よりもギルド認定宿屋は値段も手ごろなのだが、それは冒険者にしか当てはまらない。

 冒険者ではない人間も宿を借りる事は出来るのだが、冒険者よりも少々割高になってしまう。

 志希はそれを思い出し、イザークとカズヤを見上げる。

「でも、私は冒険者じゃないよ?」

 志希の言葉に、イザークは頷く。

「ならば、冒険者になれば良い」

 あっさりとした返事に、志希はきょとんとした表情を浮かべてしまう。

「大体にして、世界を見て回りたいんだろ? それなら、冒険者やってた方が都合良いに決まってんじゃねぇか」

 カズヤは何言っているのだと言う様に、志希を見る。

「登録自体は直ぐに済む。終わってから、買い物に出ても支障はなかろう」

 そこまで言ってから、イザークはふっと志希を見下ろす。

「それとも、止めておくか?」

 静かな金の眼が、問いかけてくる。

「いえ、やります。だって、冒険者にならなくても結局は生きる為に何かしなくちゃいけないもの」

 志希はそう答え、イザークはそうかと頷く。

 金の眼に、若干満足そうな色が浮かんでいる。

 どうやら、志希の答えに満足したようだ。

「話は決まったな」

 イザークの言葉に、志希は何となく誘導された様な気持ちになるがまぁ良いかと頷く。

 志希にとっては悪い事ではないし、世界を見て歩くと言う理由があるのなら冒険者である方が都合の良い事は確かなのである。

「んじゃ、宿に荷物置いてから行こうぜ」

 カズヤの言葉に、イザークと志希は頷き歩き出した。

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