幕間
少年は、久方ぶりに人と会話をした事に機嫌が良かった。
何年ぶりなのかすら思い出せない位、人と会っていない。
久方ぶりに会った同族、異世界からの『神凪の鳥』。
自我を洗い流されない魂は強く、大樹の懐に抱かれて目覚める魂は更に大きな力を持つ。
凝縮された力を持つ魂は、『神凪の鳥』と言う種族へと変質して往くべき道を定めるのだ。
大半は、神と共にある事を望んでいく。
しかし、極稀には地上に行く事を望む『神凪の鳥』も居る。
久方ぶりに会った『神凪の鳥』は、地上へ行く事を望んだ。
志希と言う名前の、本当は黒髪黒目だった女性。
『神凪の鳥』として覚醒すると、その姿は今まで見た者達より小さくなっていた。
凝縮された力が、それほど大きいからこその現象なのだろう。
煌めく金の瞳は蜜のように甘い色で、青く輝く銀の髪が良く似合っていた。
右手に描かれた雌の『神凪の鳥』の証は大きく、ハッキリと志希の存在を右手の甲に翼を広げ、その力の強さを掌に刻まれていた。
彼女の額にある『神凪の鳥』のもう一つの証は光を反射し、鮮やかな虹色に輝く。
一瞬、つがいになって欲しいとお願いしようかと思ったほど、綺麗だった。
けれど、彼女は道を地上に見出している。
己は大樹の側で、何時か溶けあえる事を願って流れを見守る事を役目とした者。
だからそれを言い出す事はせず、志希を地上へと送り届けたのだ。
彼女の前の『神凪の鳥』も、地上を選びこの地を去った。
彼の末裔と何時か出会う事もあるだろうと、少年は目を細める。
穏やかに、平穏なこの楽園で少年は想う。
志希と言う『神凪の鳥』の行く道が、平穏である事を。
遥か遠い記憶の中から、自身の名前を思い出させてくれた彼女が幸せである様にと。
人や亜人、妖魔からも狙われる事が無い様に。
神々からの過多な干渉が無い様に、志希が思う通りの人生を歩く事を祈ってから目を閉じる。
湖が揺れる音と、大樹が鳴らす梢の音を聞きながらアルトと言う名前を持つ『神凪の鳥』はひと時の微睡に身を委ねた。
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