まだみたことのないあのセカイ(残酷描写有り)

プロローグ  アサダチの手記

野朝のあさ達夫たつおの手記を読んだ、椎野しいの美波みなみ。彼女はこの手記を公開することにした。

それにあたって、


1.決して面白可笑しく公開するのではない。

2.達夫から手記を送られた。

3.“好きにしていいから” 最後にそう書いてあった。


3.の一文に目を通してから、10年が経つ。


なぜ彼は美波に手記を送ったのか。

それは彼が幼なじみである美波に思いを伝えたかったから。

口べたな彼は、声で表せない気持ちを美波に文字で伝えたかったのだ。

小学生の頃に書道を習っていたおかげなのか、形の整った、かつとても滑らかな字体。


だが彼は美波に手記を送った後、忽然と消えた。

S中学校に通う美波がそれを知ったのは数日後。


美波が、大手進学塾で同じ教室に通っていたT中学の女子から聞いた話では、誰も彼の事を心配するでもなく。

彼のいたT中学校3年3組では『アサダチ失踪事件』と皆で持て囃していた。

イカクサチンカス君がいなくなって清々すると一部の男子が笑っていたらしい。


信じられなかった。

かつて彼の通っていたS中学校では、彼のことを嘲笑するものなどいなかった。


美波はフリーライター。この公開する手記が彼の目にとまることを願っている。


いまだに彼の所在は不明。













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