第3夜 霊界と神臓と硝子
ある日、私が狂夢店に行くと部屋が真っ暗で店主である狂魔の姿は無かった。
「なんで真っ暗なの?狂魔いないの?」
狂夢店の明かりは何処にあるかは知っている。私は奥に進んでスイッチを押した。
「いない...。狂魔どこ!?」
「硝子、そこにいるの?」
狂魔の声!水鏡の倉庫から?
「狂魔!」
私は倉庫の扉をを開けた。
「入っちゃだめだ!」
「え、狂魔その羽根...」
「早くしめろ!」
「はっはい!」
私はびっくりして勢いよく扉を閉めた。
自分で起こしたバタン!という音が体に響いた。びっくりした...。
一瞬だったけど、狂魔のあの姿はきっと彼の本来の姿だ。背中に生えた漆黒の羽根と、いつもと違う瞳の色。
いつもの金色の瞳じゃなくて、血みたいに赤い瞳だった。悪魔の姿...。
「どうしていきなり...」
でも、きれいだったな。
「ねぇ狂魔?」
「ごめんね硝子。今日は帰って。」
「あのさ!」
私は少し声を大きく張り上げて扉の向こうまで聞こえるように言った。
「私別に怖くないよ?入っちゃだめ?」
「だめだよ。」
「なんで?」
「入ってきたら硝子はぼくの気にあてられて溶けてちゃうから。」
「溶ける?」
「本当は契約を結んだ相手にはすぐに言わなくちゃいんだけど、すっかり忘れてたなぁ。」
狂魔は一呼吸して自分のこの状態の事を説明してくれた。
「発病する年齢は個人差があるんだけど、ぼく達悪魔は年に一度体の中にある毒が多くなる日があるんだ。その日になると自分でもその毒を制御できなくなり、周りの生き物を溶かしてしまう。人間の硝子が今のぼくに触れたら一瞬でドロドロになるだろうね...」
それを聞いた私は泣きそうになった。
きっとそういう日はお仕事できないから辛いだろうな。いつもめんどくさがってるけど持病のせいで接客出来なかったら狂魔、結構落ち込みそう。
「わかった。でも、それでも私は貴方といたい。顔が見れないくらい我慢するから。」
明るい声でいつと扉の向こうから
「ありがとう。」
とかすかな声がした。
「ねぇ、ずっとそこにいるならきっと暇でしょ?何かお話ししようよ!」
「何かって何?」
「んーと、ほら。私達出会ってから結構忙しかったし、あんまりゆっくりお互いの事とか話してないじゃない?ずっと一緒にいたからあんまり気にしてなかったけど、知りたいから教えて欲しい!」
「いいけど...」
「じゃあ質問。誕生日とか血液型とかプロフィールを教えて!」
「誕生日は7月8日。左利き。」
「左利き?私と一緒だね。」
「それはよかった。君とデートした時にわざわざ席を気にしなくて済むね。」
デート。この悪魔と?どこによ。
「血液型は人間でいうB型。ぼくの場合、悪魔と人間の混血だから特殊な血なんだ。」
「人間と悪魔の混血⁉︎狂魔の親は人間なの!?」
「ぼくの母は霊界を束ねる女王をしている凄い悪魔なんだ。父親はぼくが幼かった頃にとある戦争で死んでしまったからよく覚えてないよ。」
「せっ戦争...。霊界にもそういうのあるんだ。」
やだ...急にしんみり。
「もう70年くらい前のことだしきにしないでよ。」
「70年って...あんたいくつなの?」
「160歳だけど?ぼくが90歳くらいの時父親死んだから。」
「あ、悪魔って長生きなんだね。でも見た目は私と変わらなくない?」
「それは悪魔と人間じゃあ歳とるのも違うしね。」
「そうなんだ。色々あるんだね。」
「硝子。次はぼくから質問。なんでここに来る時いつも制服なの?」
「そういえばなんでかな。わかんない。現実で寝てる私の体はパジャマだよ?」
「そうだね。あの日のパジャマ可愛かったよ?」
あの日というのはドロップの訪問してきた日の事である。
「夢はその人の欲を見せるって言うからね。硝子がその改造した制服を気に入ってる証だよ。」
「へー。」
私は着ている制服を眺めた。
それから私達は沢山質問しあって沢山お話しした。
「あとは?もう質問ないの?」
私が言うと狂魔は
「好きな食べ物は?」
と質問してきた。
「んー、カレー!オムライス!ハンバーグ!」
「何それ。」
「え?狂魔もしかして人間の食べ物食べないの?てか悪魔って...」
何食べてるの?
興味本位で聞いてみたけど。
「え?知りたいの?知りたいなら教えてあげてもいいけどトラウマになっても知らないよ人間さん。クスクス」
うっ。久しぶりに聞いたなこういうセリフ。
「さてと。そろそろ毒素も消えたみたいだし、今そっちに行くよ。」
扉がゆっくりと開き、現れたのはいつもの貴方。
「こんばんは。って、もう朝になるけど。」
「おはよう硝子。そばにいてくれてありがとう。」
「どういたしまして!じゃあ私は学校行ってくるね!お昼休みにまた来るから!」
私はさっきまで彼がいた部屋に入り水鏡に足を入れた。
「じゃああとでね。」
この生活に慣れた私はすっかり水鏡に入るのを恐れなくなった。
硝子が学校に行っている間、狂魔は他の人と繋がれる魔手鏡という魔具を使って、とある人物と連絡を取り合っていた。
「そうか。核魂はもうそんなに集まっているのか。助かるよ
「うん。杏奈が色々助けてくれるから順調だよ。」
「杏奈?」
「ぼくの魔憑かいで学校で図書委員っていう本を管理する仕事をしている女の子だよ。」
「じゃあ奈落華の魔憑かいにぴったりのパートナーだね。」
「狂魔の魔憑かいはどんな子なの?」
「硝子っていう泣き顔が可愛い女の子だよ。」
「泣き顔...結局そこなの?」
「それもあるんだけど、彼女は特別な力を持っている。」
「特別な力?」
「初めて会った時、あの時1番魔力を高めてあった魔具、毒薔薇の気配に気付いた。」
「魔具に惹かれたって、客を魔憑かいにしたの!?」
「あの子は純粋な狂夢店の客じゃない。求めるものはないと言っていた。」
「まさか!」
「硝子は
「神臓が自ら惹かれて狂夢店に?」
「おそらく、ね。また連絡する。」
ぼくは通信を切った。話していた相手は奈落華。
霊界の王子として生まれたぼくの双子の弟。奈落華もまた、ぼくと同じように魔憑かいと契約し、崩壊の危機にある霊界を救おうとしている。
ぼくの役目は狂夢店で働きながら霊界の中心「神臓」の予備を探して守っておくこと。神臓がないと霊界は崩れてしまう。神臓はずっと昔から人間の女の子と決まっている。
....硝子は。
硝子は神臓の予備なのかな。
だから狂夢店が硝子を呼んだ?
霊界の中心、神臓になったら霊界の特別な大きな籠にに閉じ込められてそこで何百年と生きなくてならない。
「もし本当に硝子が霊界の神臓、眠り姫になる人間だとしたらぼくは...」
その時だ。
ぼくのなかで彼女との思い出が蘇ってきた。
「嫌だ...ぼくは硝子と一緒にいたい!」
「え?」
「あ...硝子。」
気づくと後ろに硝子がいた。
「え、えっと...」
顔を赤らめあたふたしている。
「狂魔どうしたの?」
「別になんでめないよ...」
いや、なんでもなくない。
話さなきゃ。硝子に話さなきゃ。
でも、怖い。
「狂魔どうしたの?震えてるよ?」
心配そうにぼくを見る硝子。
あーあ、なんで好きになっちゃったんだろう。硝子が神臓かも知れないなんてはじめから感じていたことなのに。
「何かの病気?お薬ってあるの?座った方がいいよ。」
硝子はぼくの手をひいて客席に座らせてくれる。
こんな優しい子を神臓にできるわけないじゃないか。
「狂魔大丈夫?何かあったの?」
だめだ。
「硝子。っ...ふっ...ぅ..」
「え?狂魔泣いてる。ほんとに平気?」
理由も言わないで泣く男とかかっこ悪いな、ぼく。
「よしよし。大丈夫大丈夫。私が側にいるから悩みを話してごらんなさいよ、店主様。」
硝子はそう言ってぼくを後ろから抱きしめてくれた。
肩に置かれた彼女の顔。
頬を擽る髪からシャンプーの香りがした。
「硝子。ぼくずっと君の事について確かめずにいた事、黙っていた事が、あるんだ。でも君が聞いたらもうここには来たくなくなるかもしれない。」
ドクドクと脈打つ鼓動。でも、その嫌な感覚をかき消したのは
「大丈夫!」
という彼女の明るい声だ。
「大丈夫だよ狂魔!今までだって色んな事あったでしょ?今更何が起きたって...」
「だめだ!」
思わず叫んでしまった。
「え...何が?」
硝子、びっくりしてる。それでもぼくの体から離れない。ほんとに優しい。
決めた。話す。
「硝子。落ち着いて聞いてほしい。」
ぼくは静かに口を開き説明した。
ぼくの説明を彼女はただ黙って聞いていた。
霊界にいる神臓少女。通称、眠り姫。
霊界は代々人間の女の子を生贄にして神臓にする。
神臓にされる女の子は贄籠と呼ばれり檻に入れられて一生を過ごす。
神臓は霊界を支える動力だから、亡くなると霊界が崩れる。
そのため霊界に住む死神達が魂を集め、少女に注ぐ。
しかし、ぼくの妹である闇花が自分勝手な行動をおこし、神臓に魂が入っていない状態で今の神臓は崩壊寸前。
一度壊れた(死んだ)神臓はもう使い物にならない。
新しい神臓になる人間の女の子の体が必要になる。
そして。その予備が鏡硝子。
いっへに沢山話してしまったけれど、大丈夫だったかな。
そっと後ろを見ると彼女はポカンとした顔でこっちを見ている。
やっぱり難しすぎたかな?
「で?なにも心配ないじゃない。要は今の神臓を維持できればいいんでしょ?」
「でも、それは凄く難しいんだ!このままじゃ硝子はいずれ...」
「ねー、狂魔。私ね、最初あんたに会った時凄く怖くて。でも、狂魔と色んな人達と接してきて楽しくて。ずっと一緒にいようって思ったの。怖くていい。怖くていいから、何かあったら...」
「貴方が守って。」
彼女の言葉はぼくに強く響いた。
そして数日後。
硝子はいつも通りに狂夢店に来てくれて仕事の手伝いをしてくれる。
あんな話をしたのに楽しそうに仕事をしてくれている。
「硝子。」
彼女が振り向くとぼくは無意識に柔らかい笑みを浮かべていた。
「ありがとう。」
「なに、いきなり。」
いつまでもずっと側にいる。
ぼくも誓うよ。
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