邂逅の歯車
父の転勤による転校。そんなものはよくある話だ。
元住んでいた土地と遠いことも、よくある話だ。
小学六年の春、
それまでの全てを捨ててきたような感覚。たとえ携帯アプリケーションがあろうとも、絶望的な距離がかつての友との間に低くない壁を作っている。
けれどそんな重い気分も、転入先のクラスがかなり友好的だったことで多少払拭された。
転校初日、担任に言われた訳でもなくクラスメイトたちが校内を案内したいと言い出し、放課後それは決行されることになる。
部活や用事のない児童のうち活発そうな者たちが彼を案内してまわってくれた。
学校には新校舎と旧校舎があり、両者の趣はガラリと異なる。
旧校舎の使われていない部屋まで案内し、怪談話まで吹聴してくれたクラスメイトたちだったが、さすがに空が暗くなり始めると案内を終わらせることにしたようだった。
「帰るかぁー」
クラス委員の男子が伸びをしながら言った。
「りゅーやはどこ住んでるの?」
彼は既に竜也を呼び捨てにしている。誰にでもすぐ打ち解けそうなタイプだ。
「地区の名前まだ覚えてないや……北門? から帰る方向だよ」
竜也が門のある方角を指さすと、クラス委員は一人を指さして言った。
「んじゃ高槻と同じ方向なんじゃないかな?」
その人物は何故ついてきたのだろうというくらいほとんど喋らなかった女子だった。彼女はクラス委員のその科白で視線を竜也に向けてきた。
「……一緒に帰る?」
こちらをうかがうように首を傾けて聞いてくる。仕草は可愛いように見えるが表情がなにもないので少し怖い。
竜也が迷う様子を見せると、彼女は安心しろとでも言うように科白を続けた。
「一組に幼馴染の男子がいる。紹介してみたい」
「直人かー、いい奴だよ。一緒に帰ってみれば?」
クラス委員はにこにこと二人を送り出した。
「ナオ」
彼女が一組の廊下から名を呼ぶと、直人は読んでいた本から顔を上げた。
「うちのクラスの転校生。北門らしいから一緒に帰らない?」
「いいよ」
直人は席を立つ。帰りの支度は既に済んでいたらしく、読んでいた本を鞄に入れるだけで彼は教室を出た。
昇降口に向かう間に、三人は名前を紹介し合った。
「門出て即逆方向、とかじゃないといいけど」
直人がいたずらっぽく笑っている。
「そういうのはフラグと言うらしい」
対して高槻という女子(名前は悠とかいてはるかと読むらしい)はなんだかよく分からないツッコミのように聞こえる
直人が苦笑する。
「シズ兄……ハルの兄貴なんだけどさ、あの人がよく言うんだ。妙なこと言った時に限ってその通りになっちゃうとかなんとか」
「へえ~……何かのスラングかな?」
竜也が言うと直人も悠も首を傾げた。
「すらんぐ?」
「んー、なんて言ったらいいんだろ……? 俗に言う、みたいなのかな……自分で言っといて説明できねえ」
今度は竜也が苦笑した。
「あ、俺こっちなんだけど、向こう?」
直人と悠が進む方向が自らの家路と違うことに気づき竜也が声を上げる。
「あ、ここ左? そっかー。……今日何か用事ある?」
直人が聞いてくる。
「宿題以外は特にないぜ」
「一緒に宿題やらない?」
「おう! どこで待ち合わせる?」
竜也は早々に友だちができそうで気分が軽くなった。
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