断章:駆ける──竜也の場合

『俺の友人にはとんでもねえのが二人、いる。

 やっぱあーいうのって超能力、っつーんだろうな?

 あの二人、人外魔境とコミュニケーション取れやがるんだぜ? 信じられっか?』

 



 転生を繰り返す幾許いくばく魂魄こんぱく

 終わらない戦い、勝敗のない戦い────。

 それでも彼らは生まれ落ちる。

 歪んだ空間おもいに生じるアヤカシたちを一掃するそのために────。





 ほかに誰もいない陸上競技場。ラバートラックの赤と緑。白く伸びたライン。芝生の緑。投擲場。砂場。メインスタンドにはプラスチックの椅子が設えられていて、オレンジ色に連なっている。今はなにも映してはいないため真っ黒なフルカラー電光掲示板。照明。放送席。写真判定室……。

「……あー……」

 後頭部に手をやって、少し困ったような声を出す。足を進めて、彼は芝生の中に足を踏み入れた。ゆっくりとあたりを見回す。そして、彼は芝生の上に大の字に寝転んだ。

「……そりゃ、いろいろあったさ」

 所々に白い雲を抱えた水色の空を見上げながら、誰にともなく淡々と呟く。

 それからぽつぽつと、今までを思い出しているためなのか途切れ途切れに、言葉を吐き出していく。

「小六の時にこっち来て……それからずっとびっくりしてばーっか」

「……あの二人……あいつらのおかげで、俺やっと自分のこと見つめれたんだと思うし……」

「じいちゃんにも、迷惑かけて……心配もかけて」

 突然勢い良く上体を起こし、今度は胡坐をかいて座る。自棄くそのように大きく溜息を吐いた。

「……で……結局……」

 彼はこうべを垂れた。それを両手で、額を覆うような形で支える。表情が見えなくなる。

「……っ! 最初から、俺が逃げてなけりゃ……!」

 いつの間にか辺りの光景が転じていた。もうここは陸上競技場などではない。ただ黒い、黒いだけの空間。

「……悪りぃ……ッ!」

 彼は、果てしない後悔の中に居た。

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