竜歴852年12月 リン二度目の10歳 クリスマス/Christmas
「メリークリスマス!」
「わぁっ」
祝いの声と共に出てきた真っ白なケーキに、十歳の姿をしたリンは瞳を輝かせた。
生クリームで飾られたスポンジケーキの上に、ちょこんと乗ったイチゴ。長年の研究の末、ようやく作り出したショートケーキだ。
「これが、ケーキ……」
ニーナとユウカも目を皿のようにして見つめている。
存在自体は前々から知っていたらしい。
「いえ、食べてみるまではわからないわ」
ケーキを切り分け銘々に配り終えると、ニーナは神妙な表情でフォークを手にした。
「いただきます」
慎重にケーキを切り崩し、口に含む。途端、ニーナの表情が幸せに蕩けた。
「あっまーい!」
「おいしー!」
ユウカとリンにも大好評である。うん。我ながら、素晴らしい出来だ。遠い前世の記憶にある市販品に比べても遜色のない……むしろ勝るほどの美味しさだ。
「まさか、ケーキが実在してたなんてね……」
はぁ、と満足げな息をついて、ニーナが呟く。
「そういえばなんで皆ケーキを知ってたの?」
「あんたが話したんじゃないの」
素朴な疑問を口にすると、ぎろりと睨まれた。
「あんた、酒を飲むと妙なことばっかり口にするのよ」
うっ……酔っ払った時にそんな事を話してたのか。
「まさかチョコとか言うのも実在するんじゃないでしょうね」
「そのうち作りたいとは思ってるよ」
「もしかしてプリンも?」
「それはもう作れそうだなあ」
「じゃあ、サンタも!?」
リンの質問に、私は答えに詰まる。
下手にいると言ったら、精霊として実在してしまいかねない。
「目の前にいるじゃない」
だから当たり前のように言うユウカに、私はびっくりした。
「せんせー、サンタなの?」
「そうだよ」
ユウカは真顔で頷く。
「一年の始まりに生まれて、靴下に白いお菓子を入れてくれて、桜の花が好きで、お魚を空に泳がせ、雨の日が嫌いで、海遊びを考え、いつも空から見守ってくれて、月を愛で、人を寒さから守り、子供の成長を喜ぶ、真っ赤な姿のおじいさん。サンタさんでしょ」
それは断じて私の知ってるサンタクロースじゃない。
けれど……それはきっと、ヒイロ村の人たちが想像し作り上げた、サンタ像なんだろう。
「じゃあプレゼントも?」
「勿論、用意してあるさ」
私は微笑みながら、三つ箱を取り出す。
こんな準備までしてたんだから、言い訳しようもない。
春が過ぎ、夏を超え、秋を経て、冬を迎え……
そしてまた、春は来る。
来年もまた、幸多からんことを。
私はそう、願った。
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