竜歴403年6月 ニーナ509歳 梅雨/Rainy Season
「暇ね……」
ざあざあと降りしきる雨を窓から眺めながら、ニーナはごろんと転がって私にもたれかかる。
「こんなに雨が続くのは珍しいね」
六月といえば梅雨、というイメージはまだ私にもかろうじて残っている。しかしそれは遠い遠い故郷での話だ。ヒイロ村の辺りは一年を通して気候は安定していて、梅雨のように連続して何日も雨が続くというのは珍しい。
「みんな、お腹減らしてないと良いけど」
まだ農耕は始まってないから作物の心配はいらないけれど、こうも雨が続くと狩りも大変だろう。
「まあ、氷室の備蓄もあるし大丈夫でしょ。それよりやることがないのが問題よ」
本気で暇を持て余しているのだろう。
何時になくニーナはぐいぐいと私に持たれた背中で押してくる。
「うーん。じゃあ、昔話でもしようか。昔々あるところにおじいさんとおばあさんが……」
「なんであんたの話っていつもおじいさんとおばあさんが出てくるの?」
うんざりとした口調のニーナの言葉に、私は答えに窮する。
そもそも今の時代、おじいさんとおばあさんになれる人間が少ない。その前にだいたい死んでしまうからだ。アイのように、髪が全て白くなるほど長生きした例は他になかった。
桃太郎も浦島太郎も多分舞台の時代は古代とかその辺りで、少なくとも鉄器がある時点で今のこの世界よりも遙か未来の話だ。全然昔じゃなかった。
「まあまあ、ある種のお約束みたいなもんだよ。それより、聞いてくれ」
「はいはい」
とは言え今回に限って言えば、その辺りの事情は関係ない。
「おじいさんはおばあさんのことをとても愛していましたが、おばあさんは先に亡くなってしまい、おじいさんは一人ぼっちで毎日悲しんで暮らしていました」
ぴくり、とニーナの背中が震える。
「けれどおじいさんは本当には一人ぼっちではありませんでした。その側には、いつも見守ってくれている、優しいもう一人のおばあさんがいたのです」
ニーナの背中に自分の背中をくっつけて、私は語る。
「おじいさんは、ずっと見放さずに励まし、元気づけてくれたおばあさんにとても感謝しています。……本当に、ありがとう」
落ちもなければ山もない、本当に、ひどい昔話。
「……そのおじいさんは元気になったの?」
「そうだね。まだ、悲しい時もあるけど……前よりはずっと」
「そう」
澄んだ声で、ニーナは答え。
「誰がおばあさんよ!」
遅れて、蹴りが放たれた。
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