掌編集「ひとめぐり/Circulation」
竜歴11年1月 アイ10歳 正月/New Year's Day
「ニナ、アイ。あけましておめでとう!」
「……なにそれ?」
「け、まして……おめで……と? です」
年始の挨拶をする私をニナは不審そうな目で見据え、アイは覚えた始めたばかりの日本語で辿々しく答えてくれた。
「一年、っていうのはわかるだろ?」
「花が咲いて、葉が茂って、赤くなって、枯れ落ちて。また花が咲いたら、一年でしょ?」
エルフらしいニナの例えに、私は頷く。
「うん。その一巡りの、最初の日が今日。一月一日、お正月っていうんだよ。そしてお正月の朝には、無事新しい一年を迎えられたことをお祝いして、あけましておめでとうと挨拶するんだ」
「ふーん……よくわかんないけど、じゃあ、アケマシテオメデトウ」
あまり興味なさそうに聞きながらも、ニナは私の言葉を繰り返す。
「でもそれって何の意味があるの?」
ニナの言葉に、私は返答に詰まった。暦というのは元々、農業を営むために発展してきたものだ。一年が何日なのか分かればあと何日で春が来るのかわかり、種をまくべき時期、作物を収穫するべき時期がわかる。
けれど狩猟採集に頼る原始的な生活をする今では、あまり意味がない。せいぜい冬が近づいてきたら食料を備蓄しておくくらいだろうが、この辺りは気候も温暖で一年を通して食料は豊富に取れるから、そんな必要性もあまりなかった。
「ええと……そうだな……例えば私がニナに初めて出会ったのは、二月七日だから……今から一ヶ月と六日後。一月は三十四日あるから、あとちょうど四十日経ったら、出会って丸一年経ったってことがわかるね」
苦し紛れにそんな説明をする。とはいえ、そんなことがわかったって……
「わ、わたしはっ!?」
と思ったら、アイがものすごい勢いで食いついてきた。
「わたし、は、なんがち、ですか!?」
「なんがつ、ね。ええと……アイと会ったのは……」
私は彼女と出会ってからの月日を指折り数え、頭の中で計算した。
カレンダーもないから日付は普段意識しないが、竜の優れた記憶力なら簡単に算出できる。
「七月の終わり。七月三十四日だよ」
「なながち……さんじゅう、よ」
アイはまるで宝物でも受け取ったかのように、嬉しそうに呟く。
月が上手く言えないのも微笑ましい。
「じゃあ今日は誰と会った日なの?」
ニナの鋭い指摘に、私はうっと呻く。
一年という区切りを感じるために、私が適当に設定した日だ。
とは言えまったくの無作為というわけでもなく、それは、つまり――
「この世界と、だよ」
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