第21話 次なるステージへ
ヒーラー在籍ギルドが天岩戸と化して十日目、カイリのイライラは最高潮に達していた。
再三にわたる会談要請を完全に無視され、遊びたいのに遊べない引きこもり生活を余儀なくされているのだ。
「こうなったら俺に付きまとうストーカー共を、モンスターと一緒に蹴散らしてやろうか? うん、面白い」
「何不穏なことを言ってるんですか、彼方は?」
チェス、将棋、トランプといったあらゆるゲームをやりつくしてしまった二人は、ついにはふて寝するようになった。
紗姫はカイリのように引きこもる必要はないのだが、何を思ってかずっとカイリに付き合っていた。
その間はレベルを上げることもせず、≪鉄の旅団≫の戦闘メンバーとしては一番レベルが低くなってしまった。
それでもカイリの傍を離れようとしない。カイリにとっても一人でいるよりずっと心地よいらしく、特に何も言わずにいた。
「だってよ、もう引きこもりには飽き飽きだぜ。ひと暴れしたいんだよ、もう限界なんだよ」
「はいはい、でも我慢してくださいね。ここで大暴れなんかしたら、私達完全に悪役になってしまいますからね」
「元々正義の味方のつもりなんかないんだけどな……」
「悪役をやってるつもりもありません。≪鉄の旅団≫戦闘部隊副隊長として、勝手なことは禁止です!」
「あ~あ、ヒラメンバーは辛いな」
自ら望んでヒラメンバーになったというのに、こういうことになると非常につまらなく感じる。身勝手なことではあるが、こうも退屈が続いては仕方ないだろう。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ、早く面白いこと起きろや! というか起こせや、管理者!!!」
ついには管理者すら巻き込もうとするカイリ。個人の退屈に管理者が関与するなんてあるわけないと分かっていながら、それでも言わずにはいられなかった。
そんなカイリの願いが届いたとでもいうのか、けたたましいアナウンスが周囲に響く。
「な、何だ? いったい何だ?」
「わ、分かりませんよ!」
『喜びたまえ、インコンプリーター諸君! これよりエクストライベントを行う!! それ拍手ぅぅぅぅぅ!!』
アイ・ワールド開発者の一人である白衣の男の声が、辺り一帯に響く。
突然のことにカイリと紗姫は言葉を失う。カイリと紗姫だけではない、このゲームに参加している大半のプレイヤーが言葉を失っていた。
ゲーム内がここまで静まり返ったのは、ゲーム開始直後のチュートリアル以来ではないだろうか?
『だが折角のエクストライベントだ、アナウンスだけで説明を済ませるのはもったいない。ゲームのスタートフィールドに転移させてもらう』
その言葉の直後、周囲の空間が歪む。突然の事態に驚いている間に、カイリとシアはゲームのスタート地点であった広場に座り込んでいた。
周囲はカイリや紗姫と同じように、驚愕の表情で固まっているプレイヤー達で埋め尽くされている。
「とりあえず、何か面白いことが起きるってことでいいのか?」
「カイリさん的にはそうかもしれませんね」
カイリと紗姫はゆっくりと立ち上がり、これから起きる何かに意識を傾ける。
『さて、これで全員この場に集まったね。それじゃあエクストライベントの説明を行わせてもらうよ』
ゲーム開始時と同様、空中に巨大なウィンドウ画面が現れる。ウィンドウ画面には白衣の男が映し出されている。
白衣の男は楽しそうに笑みを浮かべながら、これから始まるイベントについて語り始める。
『今回開催されるエクストライベントは、今この世界に存在する自称ヒーラー七人の中に含まれた偽ヒーラーを探し出すというものだ』
イベント内容を聞き、カイリは薄らと笑みを浮かべる。
当分は動かないと思っていたヒーラー騒動が、今この瞬間ついに動き出したのだ。
イベントというからにはただ『偽ヒーラーを探せ』で終わるはずはない。
いったいどんな趣向が凝らされている? どんな楽しみが待ち受けている? カイリは心躍らせる。
『勿論、ただ偽ヒーラーを見つけ出して終わりじゃない。見つけ出し、戦闘不能にした時点でイベントクリアとなる』
(なるほどね。そうなると、間違えて本物を戦闘不能にした場合、何かペナルティがありそうだな)
偽ヒーラーを見つけ出すだけでなく、わざわざ戦闘不能にしなければならないとなれば、本物のヒーラーを戦闘不能にした場合に何かしらのペナルティがあると考えるのは、不自然なことではない。
そしてカイリが導き出したこの推測が当たっているかどうかは、すぐに分かることになる。
『そしてこのエクストライベントを盛り上げるため、いくつか面白い趣向を用意させてもらった。まず一つ目は報酬についてだ。このイベントをクリアした者にはエクストラスキル≪デュアル・クラス≫を与える。これはメインジョブ以外で一つ、ジョブ適正を得ることができるスキルだ。本来は別のイベントのために用意していた報酬だが、折角の機会だからここで使わせてもらうことにしたよ』
(へぇ、ってことはもしも俺がこのイベントをクリアしたら、別のジョブ……例えば魔法使い適正を得ることも可能ってことか)
そう、本来たった一つしか持つことができないジョブ適正、それを増やすことができれば、戦闘の幅は大いに広がる。
カイリも高速回避以外の選択肢を得ることができるようになる。唯一無二といえば聞こえは良いが、カイリの戦闘スタイルはただのワンパターンだ。
ここでクリア報酬を得ることができれば、もっとバリエーション豊富な戦い方ができるようになる……のだが、
(正直、特別欲しいって程のスキルでもないな……)
何がどうなっても、カイリの戦い方は変わらない。躱して斬る、ただそれだけだ。それは新しいジョブが手に入っても変わらない。
多少戦闘の幅は広がるかもしれないが、それもたいした変化にはならないはずだ。
なによりカイリの最大の武器は速度だ。選ぶべき選択が少ない方が、判断にかかる時間も少なくて済む。
(まぁ、報酬なんて関係なく、このイベントには全力で挑むけどな)
ずっと待ち望んでいた戦いに挑めることで、カイリのテンションは最高潮となっていた。何より溜まりに溜まったストレスを発散させる、絶好のチャンスだ。まるで悪役のような笑みを浮かべながら、カイリはウィンドウを注視する。
『二つ目はヒールスキルの完全封印だ』
ヒールスキルの封印。そう言われもピンとこないプレイヤーも少なからずいたが、カイリと紗姫はすぐに理解した。
(つまり、偽物を見つけるまで俺を含む本物のヒーラーは、ヒールスキルを使えないってことか)
そう、ヒールスキルの封印とはその言葉の通り、イベント中は一切のヒールスキルが使えなくなるというものだ。
元々ヒーラーが六人しかいないアイ・ワールドだが、ヒーラー不在になるというのは意外と大きい。特にヒーラー在籍ギルドにとっては大きな損失だ。
今までヒーラーの存在に依存してきたのだから、いざヒーラーがいなくなったとなれば、その影響は計り知れない。
(……まぁ、俺はヒールが使えなくても全然構わないけど)
実際にヒールを使ったのはリビングデッドとの戦いのときだけであり、元から戦闘タイプとして戦っていたカイリにとって、ヒールが使えないからいって大した問題にはならない。
ヒールスキルが封印され、ここまで影響の少ないギルドは≪鉄の旅団≫ともう一つ、……偽ヒーラーが所属するギルドだけだろう。
『三つ目、誤って本物のヒーラーを戦闘不能にしてしまった場合、そのヒーラーはヒールスキルを失う。そしてもしも偽ヒーラーが本物のヒーラーを戦闘不能にした場合、そのヒーラーの持つヒールスキルを手に入れることができる。そして本物のヒーラー六人が全て戦闘不能となった場合、クエスト不達成として偽者にクリア報酬を与え、イベントは終了する』
このペナルティを聞いた直後、カイリの表情が一変、楽しそうな笑みを浮かべる。
(おぉぉ、これも随分と面白い趣向だな!!)
ヒールスキルを失うというのは、ヒーラー所属ギルドにとっては大きな損害となるが、それ以外のプレイヤーにとっては大した損害にはならない。
他のヒーラーのヒールスキルを手に入れるということにしても、偽ヒーラー以外には何の魅力もない話だ。
事実、この場にいる多くのプレイヤーは、このペナルティによって起きうるカイリを心躍らせる状況に気付いていない。
ヒーラーを有するギルドのプレイヤー達が、ヒーラーが失われるのを黙って見ているはずはない。そしてヒーラーを有するギルドは、この世界におけるトップギルドだ。相手にするには巨大すぎる。
偽ヒーラーを有するギルドにしても、偽者か本物かを知っているに限らず、自称ヒーラーが倒されるのを易々見逃すはずはない。
偽者だと知らなければヒーラーを守るため、知っていても本物のヒーラーを得るため、全力で戦うだろう。そして偽ヒーラー所属のギルドも、トップギルドであることに変わりはない。
つまりこのエクストライベントを終わらせるには、どうあってもトップギルドを相手にしなければいけない。
……ただ一つの例外、ヒーラーを有する生産系ギルド≪鉄の旅団≫を相手にする場合を除いて。
強力な武器を有し大型戦闘系ギルドを傘下に置き、さらには銀狼の異名を持つトッププレイヤーを有するギルドとはいえ、≪鉄の旅団≫は生産系ギルドだ。他のヒーラーを有する戦闘系ギルドと比べれば、総合的な戦闘力で圧倒的に劣る。イベントを終わらせることを目指した場合、真っ先に狙われる対象になるだろう。
特にカイリは今までヒーラーであることを隠していた、最も怪しい存在だ。狙われる理由も十分すぎる。
これは≪鉄の旅団≫がヒーラーを有するトップギルドと、イベントクリアを目指すプレイヤーから狙い撃ちされるという、普通の神経をしていたら逃げ出したくなる過酷な状況を作り出すルールだ。
(実際にヒールを見せて証明することもできない状況で偽者を探し出して、倒される前に倒せってことだろ? いい趣味してんじゃねぇかよ!!)
ギルドお抱えとなっているヒーラーの多くは、ギルド関連以外の戦闘には殆ど参加していない。そうなると過去の情報から推理するというのは非常に困難だ。
唯一、アンリだけは一緒にボス討伐に参加し、高確率で本物であるといえるだけの材料を得ている。
(まずはアンリが所属するギルドと交渉して、同盟を結ぶってのがセオリーか。どうせなら六つのギルドを全部敵に回してみたいんだけど、さすがに許してもらえないだろうな。それに俺一人ならともかく、≪鉄の旅団≫の皆を危険に巻き込むのは気が引けるしな……)
今までにもカイリの勝手で、ギルドを危険に巻き込んだことはある。だが今回は規模が違う。
勝率が全くないわけではないのだろうが、それでも細い綱を渡るような話だ。そんな戦いに自分勝手に巻き込むのは、さすがに気が引けた。
それにこれはゲームが開始されてから初めての大型イベントだ、楽しむのならギルドメンバー全員で楽しみたい。
個人対ギルドではなく、ギルド対ギルドだからこそ楽しめる舞台というのもある。カイリはそんな風に思っていた。
『そしてこれが最後、特定の条件下において、安全圏でのPK行為を解禁する!』
これまでに提示された二つの条件のときとは全く異なり、白衣の男の言葉を聞いたプレイヤー達が騒めく。
それはそうだろう、何せ安全圏が安全圏でなくなるのだ。
たとえ条件付きとはいえ、そんなことを聞いて落ち着いていられるものは少ない。
カイリはというと……、夢見る無垢な少年のような笑顔を浮かべていた。
(すげぇ……、すげぇぞこれは!!)
今回のイベントで真っ先に狙われるのは、まず間違いなくカイリだ。そんな中で安全圏がなくなり、常に狙われることになるというのは、普通ならば歓迎できることではない。
そう、普通ならば。普通じゃない者は大歓迎するのだ。
(いいねいいね! モンスターみたいな単調な戦闘じゃなく、ちゃんと考えて動く連中を、合法的に相手にできるなんて最高じゃねぇかよ)
紗姫も言っていたことではあるが、カイリが神業的な回避行為を行えるのは別に魔法でもなんでもない。れっきとした技術だ。
そしてその技術を支えている要因の一つは、このゲーム世界のモンスターの多くが、プログラムされた単調な行動をすることにある。
身体が覚えるとでも言えばいいのか、カイリは戦っている間にモンスターの行動パターンをある程度学習し、回避行動に活かしている。
勿論、考えて動く相手だからといって、全く読めないというわけじゃない。
好き嫌い、得手不得手によって行動に偏りができるのは不思議なことではなく、結果として先の行動を読むことは十分に可能だ。
だが窮地に立たされたとき、考えて動く者は思いがけない行動を取る。それはプログラムされた動きには決してない、起死回生となる一撃を生む。
カイリはそんな戦いの中に身を投じたいと、そんな風に考えていた。
「私、カイリさんが今何を考えているのか、何となく分かります」
呆れたように紗姫が言う。
「だって超面白いだろ! それに引きこもり生活で物凄く鬱憤が溜まってるんだよ、この機会に一気に発散させてもらわないとな!」
「やっぱり、カイリさんはカイリさんですね」
「当然だろ、俺はどうなったって俺にしかならないさ」
『さて、それではPKが可能となる条件を説明する。一回しか言わないからよく聞いていてくれたまえ』
さっきまで満面の笑みを浮かべていたカイリだったが、この時ばかりは真剣な表情に変わる。
そんなカイリの姿を見て、逆に紗姫が呆れを含む微かな笑みを浮かべた。
『何人かは予想していると思うが、偽者を含めた七人のヒーラーが関わった場合のみ、PKが可能になる』
ヒーラーを戦闘不能にするイベントなのだがら、ヒーラーが関わった場合のみというのは当然といえば当然だろう。
カイリもそれは予想していたようで、表情も変えずに詳細な条件が語られるのを待つ。
『七人それぞれを中心として、半径五十メートル以内は安全圏ではなくなり、PK行為が解禁される』
(へぇ、そうきたか。……本当に面白いことしてくれるな)
このルール、ヒーラーを中心に半径五十メートルというのは、一見するとヒーラー、そしてヒーラーと一緒にいる者が危険に晒されるというように見える。
だが、このルールはそんな生易しいものでなく、もっと恐ろしくて危険なルールだ。
何故ならヒーラーと一緒に行動していれば、無関係なプレイヤーをPKすることができるということなのだから。
ヒーラーとその仲間、ヒーラーを狙う者達だけではない。このゲームに参加している全てのプレイヤーを巻き込んだ最高に危険なイベントだ。
カイリは考える。このイベントを制覇するのにいったい何が必要なのかを、作戦を、戦い方を。
それを考えている中で、ある一つの真実に思い至る。
(間違いない。あいつ……、あの白衣の男は俺と同類だ)
リビングデッドとの戦いで同じことを紗姫に言われ、その時カイリは否定した。
あんなイカれた奴を同じ扱いを受けるなんて、あの時は許せなかった。でももう否定することはできない。
あの男のやることは、カイリが心躍らせることばかりだ。
そして画面越しにプレイヤー達を見つめる白衣の男は、カイリと同じように子供のように無邪気な笑みを浮かべている。
カイリと白衣の男の視線が画面越しで交差する。向こうからこちらの光景が、どのように見えているのかは分からない。
もしかしたらただの気のせいかもしれない。だが、カイリは確信にも似た感情を抱いた。
(今、あいつも俺を見ている)
本当にカイリを見ていたのか、しばらく無言でいた白衣の男は僅かに視線を逸らし、高らかに宣言する。
「それじゃあ始めよう! エクストライベント、スタートだ!!」
その宣言と共に、プレイヤー達は臨戦態勢に入る。
特にカイリの周囲のプレイヤーは殺気を漲らせながら、カイリを見つめていた。
が、カイリは涼しい顔をしてその視線を受け流す。
「カ、カイリさん!!」
紗姫も臨戦態勢を整え、周囲に視線を走らせている。
「大丈夫だよ紗姫、まだ始まっていないから」
カイリの言葉の意味が理解できず、紗姫は困惑の表情でカイリを見つめる。
それを隙と捉えたのか、二人を取り囲んでいたプレイヤーが一気にカイリに襲い掛かった。
ヒーラーと関わりを持たない者達にとっては、ヒーラーが減ろうがどうということはない。彼等にとってこのイベントは、報酬を得るためのものでしかない。
だから報酬を得るため、問答無用でヒーラーに襲い掛かる。三百六十度敵に囲まれた状態では、いかにカイリといえど全ての攻撃を躱すことなどできない。
絶体絶命、紗姫はそう思った。……が、プレイヤー達が放った攻撃は光の壁によって弾かれた。
プレイヤー達は何が起きたのか分からず、茫然としている。
『と、思ったがこの場で決着がついてしまってはつまらない。だからこのイベントのスタートは、明日の正午にするよ。ではインコンプリーター諸君、頑張ってくれたまえ』
その言葉の直後、甲高い笑い声と共に白衣の男が映し出されたウィンドウが消える。
紗姫を含むプレイヤー達は、どういうことか分からずに立ち尽くしている。
「な、言ったろ。まだ始まっていないって」
「ど、どうして……」
どうして分かったのか、最後まで言葉にならなかったが、紗姫がそう聞こうとしていることはすぐに分かった。
本当は答えたくなかった。『あの男と同類だから、考えていることも理解できた』などとは。でも、お互いに隠し事はしないという約束がある。
カイリは小さくため息をつき、紗姫から視線を逸らしながらゆっくりと口を開く。
「さの男が言った通りだよ。この場で決着がつくなんて、面白くないだろ?」
紗姫は納得できない様子だが、この場は大人しく引き下がる。
追及したところでどうなるというものでもないし、今はそれ以外にやるべきことがある。
「そうですか。それで、これからどうするんですか? 準備時間は短いですよ」
「アンリが所属するギルド、≪白星≫と同盟を結ぶ」
「……びっくりです、カイリさんがそんなまともな作戦を立てるなんて」
「それもそうだな、んじゃ変えるか。≪鉄の旅団≫単独で特攻、ヒーラー所属の六ギルド全部ぶっ潰す!!」
冗談めいた口調で言うが、カイリならば本当にやりそうだから怖い。
「や~め~て~く~だ~さ~い!!」
「はははは、冗談だって。さすがの俺も、そんな無謀なことはしないよ」
「いえ、やる気でしたよね? 私が止めなければ絶対にやるつもりでしたよね?」
「どうかな。まぁ、誰も止める奴がいなければ、本当にやっていたかもな」
「それで勝つ自信があるんですか?」
「さぁな。まぁ、楽しむ自信ならある」
「全く、困った人ですね。でも、それでこそカイリさんです」
紗姫は呆れたように、それでいて嬉しそうに笑う。
「んじゃまとりあえず、アンリを探すか。状況が状況だし、さすがにもう無視もしないだろ」
「そうですね」
カイリと紗姫は二人並んで歩き出す。
今までやってきた戦闘とは違う、新しい戦いに身を投じるために。
≪鉄の旅団≫のキレ者コンビがいったいどんな戦い方を見せるのか、知る者はまだいない。
「……このイベント、名前を付けるとしたら、差し詰め『インコンプリーター探し』ってところか」
突然そう呟くカイリ。それを聞いた紗姫は、ムッとした表情でカイリに視線を向ける。
「なんですか、それ?」
紗姫がムッとしたのは、カイリがインコンプリーターという言葉を使ったからだ。
当然だろう。インコンプリーターとは、この世界に生きる彼等にとっては忌むべき名前なのだから。
だがカイリはそんなことを気にした様子も見せずに笑っている。
「インコンプリーターっていうのは、中途半端で不完全、そして存在しない者って意味を込められた名前だ。なら、今回のイベントで探すべき偽ヒーラーは正にそれだろ?」
紗姫はカイリの言っている意味を理解した。
偽ヒーラーはヒールスキルを使えないが、ヒーラーとして認知されている中途半端で不完全な存在だ。そして本来ならばこの世界に存在しないはずの存在。ならば偽ヒーラーがインコンプリーターと呼ばれるのは、決して間違っていない。
「そうかもしれませんね」
七人の中に紛れ込んだインコンプリーター、『絶対に俺が見つけ出してやる』と、カイリは自らに誓う。
なぜならこのイベントは、自分の同類が用意した最高の舞台なのだから。
仮想世界の快楽主義者 不時一稀 @ITK24
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