第18話 治癒剣士の能力

 カイリに与えられた治癒剣士の回復スキルは、≪神魔半刃≫というパッシブスキルだ。パッシブスキルではあるが発動に条件があり、カイリはその発動条件をあえて満たさないように戦っていたので、今までヒールが発動することはなかった。

 しかし今回、カイリはその条件を満たして戦った。だからヒールが発動し、アンデットに大ダメージを与えることができた。

 ≪神魔半刃≫の発動条件は一つ、右手に武器を装備することだ。右手に装備した武器で攻撃スキルを発動させた際、本来受けるべきダメージがそのまま回復に書き換わる。

 カイリが今までずっと左手に剣を持って戦っていたのは、そうしなければダメージを与えられないからだ。

 ただしこのスキルを持つ治癒剣士には、ある特殊な制限が課せられている。それは双剣装備の禁止だ。

 双剣という装備を可能にした場合、治癒剣士は攻撃能力と回復能力を両立させ、ゲームバランスを崩す存在になるという懸念から課せられた制限だ。

 両手剣ならば装備可能だが、その場合は≪神魔半刃≫が発動する設定になっている。

 この世界に存在する六つのヒールスキルの中でも、最も扱いが難しいのがこれだ。利き手という概念が存在しているこの世界では、このスキルの使い勝手は決して良いものではない。

 だが幸運か偶然か、カイリはこの世界でも非常に珍しい両利きだった。

 最初こそカイリ自身も自分が左利きだと思っていた。しかしこのスキルを試してみて、右手も左手と大差なく使えることに気付いた。

 そして剣士であると同時に、ヒーラーとしてもハイレベルな能力を手に入れた。

 本来、剣士は自身を攻撃するスキルを有していない。それは治癒剣士であっても例外ではなく、カイリは他者を回復することはできても、自身を回復することは不可能だ。

 このことから治癒剣士は敵からの攻撃を防ぐため、防御を固めるのが基本のスタイルになる。軽武装で攻撃手段もないまま敵に接近して攻撃を受ければ、致命傷になりかねないのだから当然だ。

 だというのにカイリは、攻撃は全て躱せばいいと防御系の装備の一切を排除し、高速回避型という特異なスタイルを手に入れた。

 勿論、ヒーラーとしての自分を優先したわけじゃない。高速型のキャラクターとして回避技術を磨いた結果だ。

 カイリは最初のときと同様、アンデッドが繰り出す攻撃を全て躱し、ヒール効果を付与されたスキルを叩き込んでいく。

 今までの苦戦が嘘のように、アンデッド達はその身を散らしていく。

 高速型であるカイリはスキル回転率も良く、途切れることなく攻撃を繰り出す。

 大軍勢だったリビングデッドも、既に半数が倒された。もはや決着はついたと、誰もが思った。

 が、終盤戦に入りリビングデッドの動きが突如として変わる。

 ボスモンスターの中には、戦闘の途中の姿や性能が変わるタイプのモンスターがいる。

 リビングデッドもそのタイプのモンスターであり、数が半分を切ると今まで好き勝手に動いていたアンデッド達が連携プレーをするようになる。

「やっべ……」

 不穏な気配を感じたカイリはバックステップでその場を離れ、アンデッド達の様子を伺う。

 今までとは全く違う機敏な動きで、アンデッド達はカイリを取り囲もうと猛追してくる。

「おいおい、マジかよ……」

 カイリは距離を取りつつ、アンデッドに的確に攻撃を加えていく。

 が、さっきまでとは打って変わった機敏な動きに翻弄され、決定打を与えることができない。

 しかしカイリは無茶な攻めはせず、一定の間合いを保って戦っている。

 少しでも油断したらあっという間に取り囲まれ、防御の術を持たないカイリは早々に倒されてしまうだろう。

 それが分かっているからこそ、無茶な攻めを避けている。そしてその間に、また多くのプレイヤーが倒されていく。

 しかしここで焦っては全滅は免れない、それほどまでに現状は切迫している。

「カイリさん、避けてください!!」

 紗姫の声が響きわたる。紗姫はそれしか言わなかったが、カイリは紗姫が何をしようとしているのか理解した。

 カイリは迫りくるアンデッドから距離を取り、そこで立ち止まる。

 そんなカイリを取り囲もうと襲い掛かるアンデッド達。その瞬間、

「≪呪界・縛歩≫」

 紗姫はカイリに対して呪術を発動し、カイリは瞬時にその場を離れた。

 今までカイリが立っていた場所を中心として呪術が発動され、カイリを取り囲もうとしていたアンデッド達の動きが封じられる。

「ナイスだ、紗姫!」

 そのセリフの直後、カイリは不敵な笑みを浮かべ、力強く地面を蹴る。その速度は今までと変わらず、消えたと錯覚するほどだ。

 紗姫が取った作戦はいたってシンプルなものだ。

 高速で動き回れていては呪術の発動までにラグにより、動きを縛ることができるアンデッドの数が制限されてしまう。

 だから動きを止めたカイリを中心として呪術を発動させ、カイリを取り囲もうと迫るアンデッド全てを呪術の対象になるようにした。

 本来ならカイリも呪術の対象になってしまうはずなのだが、カイリは範囲型呪術すらも躱すことができる速度を持っている。それを利用した作戦だ。

 もしも呪術の発動とカイリの回避動作のタイミングがずれれば、カイリは呪術の影響を受けて最大の武器であるスピードを失うことになる。

 そうなれば瞬く間にアンデッドに囲まれ、戦闘不能に追いやられるだろう。

 そんな作戦を実行できるカイリと紗姫、互いに信頼しあっているからこそできることだ。

 呪術によって動きが鈍ったアンデッド達を、カイリが連続攻撃で切り伏せる。

 ヒールを帯びた斬撃によって、アンデッド達がその場で霧散し、消えていく。

「次、いきますよ!」

「オーケー!」

 紗姫の合図でカイリは前線へと駆け出し、アンデッド達のヘイトを集める。

 ヒールは元々ヘイトを集めやすいスキルであり、かつ大ダメージを与えるとなれば自然とアンデッド達はカイリへと集まることになる。

 あとは同じように紗姫が呪術を発動し、動きが鈍ったアンデッド達をカイリが倒せばいい。

 この作戦を上手く使えば、この戦いにも勝機はある。

 カイリと紗姫は連携して次々とアンデッドを倒していく。数も既に四分の一を切り、これなら勝利は時間の問題だろう。

 この光景だけ見れば簡単に戦っているように見えるが、カイリという存在がいてこそそう見えるのだ。

 規格外の反応速度とスピード、そしてMPに依存しない≪神魔半刃≫というスキルがあるからこの作戦が成立している。

 既にアンデッドは数える程しか残っておらず、勝利は目の前となる。しかし五十人いた攻略メンバーも半数近くが脱落している。

 カイリがいなければ……、いや、カイリが≪神魔半刃≫というヒールスキルを持っていなければ、この戦いに勝つことはできなかっただろう。

 カイリは右手に持った剣を振りかざし、最後に残されたアンデッドを切り伏せる。

 この瞬間、カイリ達の勝利が決定し、五人の功労者が選出される。

 当然と言ってしまえば当然だが、功労者のランキング一位に選出されたのはカイリだ。

 ノーダメージで戦闘を終え、与えたダメージもトップだった。これで一位にランクされないはずがない。

 二位はアンリ、アンリも後衛に陣取りノーダメージで戦闘を終えた。そしてヒールによって的確にダメージを与えていった。

 しかしバトル終盤でMPが尽きてしまった。HPとMPには自然回復があるが、その回復量は大したものではない。

 これによって総合的なダメージ総量はカイリに及ばす、二位という結果に終わった。

 三位は紗姫、紗姫もまたノーダメージで戦闘を終え、呪術による的確な支援が評価されて三位にランクされた。

 四位はリーサで五位はゼス、敵に与えたダメージ総量と受けたダメージ、スキル発動数などを考えれば順当な順位だ。

 結局のところ、功労者として選出されたのは当初の予想通りの五人だった。

 功を焦って突っ込んだプレイヤーにとっては、全く面白くない結果だろう。

 自業自得とはいえ、危険を冒して突っ込んだというのに、結果を得ることができなったのだから当然だ。そしてその怒りの向かう先は一つしかない。

「銀狼! さっきのはいったい何だ!?」

 カイリはこの世界で六人しか使うことができないはずのヒールを使った。

 七人目のヒーラーが現れたのか、それとも特殊な効果を宿した武器を作り出すことに成功したのか? 何にせよカイリがヒールを使えることを隠していたのは事実だ。

 それを使って功労者一位を攫っていったのだ。内心穏やかでいられずとも仕方のないことだ。

「何って、俺のヒールスキルだよ。治癒剣士が持つ唯一のヒールスキル、≪神魔半刃≫」

 周囲の怒りを涼しげに受け流し、カイリは楽しそうに言い放った。カイリにとっては、この状況すらも楽しいものなのかもしれない。

 しかし今のカイリのセリフによって、周囲の怒りはさらに増すことになった。

「ヒールだと!? ふざけるなよ、何でお前がヒールを使える!?」

「そうだ、ヒーラーは六人だけのはずだ!!」

 数々の暴言をぶつけられるが、それでもカイリは涼しげな表情を崩すことはない。

「だから俺がその六人の内の一人なんだよ。……つまり、今現在認知されている六人のヒーラーには最低でも一人、偽物がいるってことだ。最高に面白い状況だろ?」

 カイリによってさらなる爆弾発言が飛び出したことにより、暴言が止み周囲が静寂に包まれる。

 いや、爆弾発言によって静まり返ったというより、カイリの楽しそうな態度に言葉を失ったと言う方が正しいかもしれない。

 本来ならヒーラーとして脚光を浴びるべき立場にいながらそれを放棄し、それどころかその状況を面白いと言い放ったのだ。普通ならば考えられない。

 しかしそれがカイリなのだ。この場でカイリのことをよく知る二人、紗姫とシアは『いつものことだ』と言いたげにしている。

 だがそんな中、紗姫の表情には何か陰のようなものが見え隠れしている。しかし周囲の意識はカイリに向けられており、そのことに気付く者は一人もいなかった。

「だとしても、どうして自分がヒーラーだと黙っていた? まさか『面白い』だけじゃないだろうな? ちゃんと説明してもらうぞ」

 カイリは小さくため息をつき、つまらなそうに口を開く。

「最初のあの時、あの状況で俺がヒーラーだと名乗っていたら、いったいどうなっていた?」

 周囲のプレイヤーのほとんどは、カイリが何を言っているのは分からないといった様子で首を傾げている。

「あの場面で七人目が現れれば、八人目や九人目……いや、数十人の自称ヒーラーが現れる可能性があった。もしそうなったら、混乱なんてものじゃなくなっていたぞ」

 と、カイリはもう一つの建前を語る。建前ではあるが、十分にあり得る可能性なのだから、他の者達も納得せざる得ない。

 もしもこの場で『回復役に徹するよりも、前線で戦闘役をやっていたかった』なんて本音を言おうものなら、周囲からは大バッシングを受けただろう。

「まぁ、そういうことだ」

 カイリは小さくそう呟いてこの話を終わらせようとするが、それを許さない者もいた。

「それでもお前がもっと早くさっきのスキルを使っていれば、他の連中がやられることはなかったはずだ! どうしてあの状況になるまで隠していやがった?」

 戦闘不能になたプレイヤーのギルドメンバーらしき男が、そう言ってカイリに食って掛かる。『もしカイリが最初からヒールスキルを使っていれば、仲間がやられることはなかった』と、そう思っているだろう。

「作戦無視して突っ込んでおいて、よく言うな」

「なんだと!?」

 カイリに食って掛かったプレイヤーが、さらにカイリに詰め寄る。

「やめてください!!」

 が、紗姫の一括によってその動きも止まる。

「彼方はカイリさんが魔法使いだとでも思っているんですか?」

「おい紗姫、人狼は魔法が使えないぞ」

「カイリさんは少し黙っていてください」

 紗姫の今までにない気迫に押され、カイリはしばらくの間黙ることにした。

「カイリさんが攻撃を受けずに戦えるのは、別に魔法でも超能力でもありません。カイリさんは戦う際、相手を見ることできる場所に立って戦っているんです。当然です、正確に攻撃を躱すには、敵の攻撃を直接目で捉えなければいけませんから」

 そう、カイリは相手が一人であれ多数であれ、常に相手の全体像が視界に収まるようにして戦っている。一対一であれば至近距離まで詰め寄ることもできるが、多数を相手にする場合は背後を取られたり囲まれるリスクを回避するため、一旦離れて敵の動きを確認しなければならない。

 事実、エルメイルとの戦闘では至近距離で決して離れずに戦っていたが、今回の戦いでは距離を詰めてもすぐに離れている。それにカイリは、紗姫が背後から放った蹴りを躱しきることができなかった。

 つまりカイリの回避術は、大部分を視覚に頼っているということだ。

「もしもあの時、カイリさんが回復を優先して敵の真っただ中に飛び込んでいたら、あっという間に取り囲まれて、攻撃を回避しきれずに倒されていました。そうなったらこの戦い、絶対に勝てませんでしたよ」

「さすがは紗姫、俺のことをよく分かっているな」

 カイリの茶化すような言葉を完全に無視して、紗姫はプイッとカイリから視線を外す。何やら怒っているような感じだが、カイリは紗姫を怒らせる原因が思い当たらず困惑する。

 周囲のプレイヤー達も納得せざる得なかったのか、一様に黙り込んでいる。そんな中、リーサが静かに口を開いた。

「今回の件は仕方のないことだっていうのは分かったわ。……それにあれを見たら、彼方がヒーラーであるってことにも納得するしかない。でも偽者がいるとして、二ヶ月もの間、自分をヒーラーだと偽装するなんてできるの? もしかして最初からヒーラーは七人だったんじゃ?」

(なるほど、その可能性も確かにあるな。……偽者がいるって状況が面白すぎて、その可能性を失念してたぜ)

 そう、現在認知されている六人のヒーラーは、この二ヶ月間自分がヒーラーであると周囲を信じ込ませてきている。他の役職ならともかく、ヒーラーななんて特殊な職種を偽装するなんて本当にできるだろうか?

 この世界を作ったと思われる五人、そのリーダー格だと思われる男は特に人を食ったような性格の持ち主だった。ならば六人と言いつつ、最初から七人を選出している可能性は十分に考えられる。

「可能性としては考えられますけど、そんな面倒なことを管理者側がするメリットがありません。……まぁ、あの白衣の人がカイリさんみたいな人だったら、『面白そう』って理由でやるかもしれませんけど」

「……嫌なこと言うなよ、紗姫」

 カイリは目覚めた直後、あの白衣の男と実際に対峙し、その歪んだ性格を間近で見ている。自分が普通ではないことは自覚しているが、あの白衣の男を同じだと思われるのは心外だった。

「とにかく、『七人全員が本物』なんて楽観的に考えるより、『一人偽者が混ざっている』って考えた方がいいです。何かあったときの対応が取りやすいですから」

「そうだな、俺としても七人全員が本物ってよりは、偽物が混ざっているって方が面白くていい」

「カイリさんは少しの間黙っていてください! 話がややこしくなります」

 カイリはさっきから紗姫の言葉に棘があるような気がして、どうも落ち着かなかった。何かしてしまったのかか考えるが、特に何も思いつかない。

「……なぁ紗姫、怒ってるのか?」

「別に怒ってませんよ」

 そうは言うが、紗姫はカイリと視線を合わせようとはしない。いつもと違う紗姫の態度に、カイリはどうすればいいのか分からなかった。

「なら、偽者がいるとして、そいつはどうやって自分を本物のヒーラーだと思わせているの?」

 尤もな疑問をリーサは紗姫とカイリにぶつける。ヒーラーが六人しかいないというなら実際の問題として偽物がいて、その偽者は自分の役職を偽っているということになる。

「まぁ、組織的に隠ぺいしてるってのが一番可能性が高いだろうな」

「……組織的?」

 カイリの返答に周囲のプレイヤー達は首を傾げる。

「例えば回復アイテムの使用をヒールだと偽って、自分をヒーラーだと思わせるとかな。これは回復アイテムの収拾とかの問題があるから、一人じゃまず無理だ」

 アイテムの収集は決して楽ではない。桁違いのアイテム獲得量を誇るカイリならばともかく、一般プレイヤーが回復アイテムだけでヒーラーを偽装するなんて、単独では不可能なことだ。

「他にはギルドを隠れ蓑にしているって可能性もあるな。ヒーラーが在籍しているってだけで、結構な恩恵を受けることができる。ギルドメンバーで口裏を合わせれば偽装は可能だ」

 過去に≪鉄の旅団≫もヒーラー在籍のギルドから資金提供の依頼があったように、ヒーラーが在籍しているというだけでこの世界では幅を利かせることができる。それだけでなく、加入を希望するプレイヤーから金貨やレアなアイテムを受け取ることも少なくない。

 たとえ偽者であっても、ヒーラーが在籍しているというだけで恩恵を受けることは可能だ。

「なるほど、組織的に隠ぺいを行えば、ヒーラーを偽装することは可能ってことね」

「そういうことだ」

 本物のヒーラーであり、偽者がいるという状況に唯一気付いていたカイリは、ヒーラーがどのように偽装を行っているかにも考えを巡らせていた。勿論、これが合っている確証はないが、最も可能性が高いことは事実だ。

「まぁ、少なくともアンリが偽者ってことはないだろう。偽者だったら俺達と同行するなんてあり得ないし、アイテムを使う素振りもなかったからな。これで偽者だったら尊敬するぜ、そのときは是非≪鉄の旅団≫に加入してその知略を振るってくれ!」

 無邪気に笑いながらカイリは言う。アンリ本人を含め、大半の者は冗談だと思っているようだが、カイリをよく知る二人は本気で言っていることが分かり、小さくため息をつく。

「まぁ、この話はここらで切り上げて、さっさとダンジョン出ようぜ。……というかそろそろ出ないと、俺のことを聞いた連中がダンジョン前に集まってきそうだ」

 そう、カイリがヒールを使った後に戦闘不能になったプレイヤーも何人かいる。それはつまり、カイリのヒールを見てからダンジョンの外に出たということだ。

 そのプレイヤー達が外でカイリのことを話せば、事の真相を確かめにダンジョン前にこぞって集まるだろう。

 カイリなら適当にあしらって逃げることも可能だろうが、面倒なだけの面倒事を嫌うカイリにしてみれば、そういった事態を極力避けたいと思うのは当然のことだ。

「そうね、長いことダンジョンの中に籠っていても仕方ないものね」

 話がまとまり、カイリ達は脱出コマンドを使ってダンジョンを出る。コマンドを発動すると、ダンジョン入口に転移することができるのだが、幸運なことにダンジョンの入り口にはまだ誰も来てはいなかった。

「わりぃ紗姫、シア、俺は先に帰るから! んじゃ!!」

 そう言ってフィールド転移を使うカイリ。既に見えなくなったカイリの後姿を、紗姫は複雑そうな表情で見つめていた。

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