第15話 次なるダンジョンへ

 このゲームが開始されて二ヶ月、ゲームフィールドも大分攻略されてきた。ボスモンスターも四体まで発見、討伐された。

 カイリが所属する≪鉄の旅団≫も≪煉獄の騎士団≫を従えたことで勢いを増し、四体全てのモンスター討伐に成功している。カイリは四体との戦闘全てで功労者として選出され、トッププレイヤーとしての風格を漂わせている。

 そして今日、≪鉄の旅団≫は五体目のボスモンスター討伐に乗り出す。今回討伐に乗り出すボスはダンジョンボスであるのだが、まだその実体が明らかになっていない。

 何故なら今回のボスが登場するダンジョンは、今までのダンジョンとは大きく異なっていたのだから。

 今までのダンジョンは、入場制限が十人~二十人程度だった。それに対して今回は最大で五十人、それだけでなく初回の入場で二十五人以上でなければ入場すらできないという設定になっていた。

 エンカウントするモンスターが強力ならばそれも納得できるが、特別強力なモンスターが現れるということもなかった。

 ならば何故そんな設定になっていたのか、その理由として考えられたのがボスだ。今まで以上に強力であり、多くの人数を投入しなければ討伐することができないボスがいるという結論に至ったのだ。

 だからボスの部屋が発見された後も、準備が整うまでずっと放置され続けてきた。そしてその準備がようやく整い、ついに討伐に乗り出すことになった。

「カイリ、準備はいい?」

「あぁ。しかし酷いもんだよな、五十人分も枠があるのに、≪鉄の旅団≫と≪煉獄の騎士団≫を合わせて三人しか参加できないなんて。しかも大量の武器と防具を用意しているのにだぜ」

「仕方ないですよ、どんなボスがいるのか分からないんですから。本来ならカイリさん一人だけに参加要請がきても不思議じゃないですし」

 そう、カイリはトッププレイヤーとしてその名を轟かせているが、≪鉄の旅団≫と≪煉獄の騎士団≫のいずれにも、カイリ以外にはトッププレイヤーと呼べる者はいない。

 状況から考えれば、正体不明のボスモンスターと戦う仲間としては力不足もいいところだ。

「そんなことをしたら、参加も援助も突っぱねるって思われたんでしょうね。前科だらけだから」

「前科ってなんだよ?」

「心当たりならあるでしょ? いくらでも」

 リザードラゴン討伐に限らず、以後の三回のボス討伐でも、カイリは幾度となく厄介事をギルドに持ち込んでいた。その度にシアや紗姫が苦労を背負い込む羽目になっていた。

 ただ、カイリが厄介事を持ち込むのは、決まってギルドやギルドメンバーを低く見られたときであり、二人ともどうしても怒ることができなかった。

 しかし迷惑していることには変わりなく、たまにこうして皮肉られている。

 カイリ自身もそうされても仕方ないと理解しているのか、それ以上言い返すこともなく視線を逸らした。

「それより、何でまた私がパーティメンバーに入ってるんですか? ボスがどんなモンスターなのか分からないんですよ」

 上目使いの紗姫がカイリに抗議する。ギルド内では既に見慣れた光景だ。

 戦闘に自信を持てない紗姫にとって、今回のボス討伐への参加は不安なのだが、カイリが真っ先にメンバーに指定しての参戦となった。

「だからだよ。不測の事態が起きたとき、妖狐の能力は役に立つ」

 妖狐は全種族中でも、最も特殊な攻撃スキルを有している。特殊なモンスターと相対したとき、その能力は必要だ。

「こういうときは『君のことが好きだから、片時も離れたくない』くらい言ってくださいよ」

 唇をほんの少しだけ尖らせて、紗姫が小さく呟いた。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな呟きだったが、カイリにはしっかりと聞こえていた。

「なんだ、そんなこと言ってほしかったのか?」

「べ、別に言ってほしかったわけじゃないですけど、どうせならそれくらい言ってくれてもいいんじゃないですか、ってことですよ」

「じゃあ、次に機会があったら言うことにするよ」

 顔を真っ赤にして慌てふためく紗姫と、それを笑いながら見つめるカイリ。そしてその後ろで頬を膨らませるシア。

「ちょっとカイリ! 私の紗姫を口説くな!」

「はいはい、おっかないな、全く」

「はははは……」

 これから未知の敵と戦うというのにどこか軽いノリの三人。≪鉄の旅団≫にしてみればごくごく当たり前の日常風景であるが、この世界ではすごく珍しい景色だ。

 願わくばこの光景が、当たり前のものになってもらいたい。三人はそう思いながら歩みを進めた。

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