第14話 金髪の魔法双剣士
カイリと紗姫のデートから数日経って、ついに≪鉄の旅団≫の入団試験が行われることになった。試験場所となる平原には、既に腕自慢達が大勢集まっている。
この中のいったい何人が≪鉄の旅団≫に入団できるのか、それとも誰一人として入団できないのか? 今はまだ誰にも分からないが、すぐに皆が知ることになる。
カイリは集まった腕自慢達を瞬く間に薙ぎ倒し、その力を周囲に見せつけた。
百人以上はいたであろう挑戦者達だったが、僅か十人程度と戦っただけで大半の者達の戦意を打ち砕いた。
(さてと、これでちょっとは面白くなるかな……)
多くの者達が戦意を失い、カイリの思考も回り出した。そう、ここからが本番だ。
うっすらと笑みを浮かべるカイリの目の前に、一人の少女が立ちふさがる。僅かな風にもなびく、美しく艶やかな金髪の少女。
剣を二本携えた双剣士、細長い耳から察するにエルフだろう。エルフは魔法特化型の種族で、基本的な戦闘力は低い。が、剣士スキルは全職種中で最も攻撃のバリエーションが豊富であり、魔法とのコンビネーションによって恐ろしいまでの戦闘力を発揮させることができる。
尤もスキルと魔法のコンビネーションを完璧に使いこなせる者は稀である。が、それをいったらカイリの戦闘スタイルは稀なんてレベルじゃない、正真正銘無二のものだ。
ならば稀程度ならば完璧にこなすことができる者が目の前にいたとして、何も不思議なことはない。
そもそもカイリの戦いぶりを目にして、戦意を失うことなく挑もうというのだ。並の使い手であるはずがない。
カイリと金髪の少女、二人が互いに剣を構える。
開始の合図はない、勝負は既に始まっている。先に動いたのはカイリだ、超スピードで間合いを詰めて斬撃を繰り出す。
並の相手ならば躱すことも防ぐこともできず、勝負は付いていただろう。が、金髪の少女はカイリの一撃を左手に持った剣で受け、さらに右手の剣で反撃を繰り出した。
カイリは少女が繰り出した攻撃を紙一重で躱し、バックステップで少女から距離を取る。
しかしそれだけでは終わらず、少女はカイリ向かって魔法を放つ。それも無詠唱で。エルフの固有スキル≪詠唱省略≫、魔法の詠唱速度を速めることができ、一定レベル以下の魔法であれば無詠唱で発動させることができるパッシブスキルだ。
カイリは放たれた魔法を、身体をひねらせて躱す。カイリでなければ躱すことはできず、直撃を受けていただろう。それほどに見事な、そして速い攻撃だった。
(なるほど、速いな……)
カイリが心の中でそう呟く。近距離~中距離戦闘での最高速度はカイリの方が圧倒的に上だが、オールレンジでの平均的な速度ならば金髪の少女の方が上だろう。
(まぁ、俺にはあまり関係ないか)
そう、相手の戦闘スタイルが何であれ、カイリのやることは変わらない。相対する者の攻撃を全て躱し、攻撃を加えるだけだ。
カイリは姿勢を低くし、全霊を込めて地面を蹴る。『消えた』、多くの者がそう感じた。そしてカイリによる高速の斬撃が繰り出される。
だが、少女はその攻撃を手にした剣で捌く。超高速型のカイリによる攻撃の間隔は恐ろしく短い。
通常なら捌くことなど到底できることではないのだが、金髪の少女は双剣を巧みに操り、ときには魔法を使ってカイリの連続攻撃を捌ききる。
攻撃が全く当たらない。カイリにとって、こんな経験は初めてのことだ。
(相手にすると、ここまで嫌なものなんだな……)
金髪の少女の戦闘スタイルは、カイリとは別の方向に同一だ。相手の攻撃を全て回避するカイリに対し、攻撃の全てを捌く金髪の少女。
攻撃を全く当てさせてくれない相手と初めて相対し、カイリはその面倒くささを実感した。そして同時に、どうやってこの状況を打破するべきかを考える。
(さて、どうする? 防御できない速度で攻撃するか、防御できない威力で攻撃するか)
超高速型のカイリならば、前者を選択するのが自然であり、そちらを選択すればほぼ確実に勝つことができる。
金髪の少女が防御に徹しているのは、そうせざる得ないからだ。反撃をしようものなら、瞬く間に押し切られてしまう。だからカイリが今以上の速度を出せば、例えば≪神速≫を発動させれば金髪の少女に対応する術はない。
だが……、
(やっぱ、それじゃあつまらないよな)
この戦いは負けたからといって、何かペナルティがあるわけじゃない。入団試験なのだから、カイリが負ければ金髪の少女は≪鉄の旅団≫のメンバーにはなる。
そして彼女ほどの実力者ならば、入団するのに何の問題もない。
(ならやっぱり……)
カイリは左手の剣を力強く握りしめ、発動させるスキルを攻撃力の高いものに切り替える。
カイリのステータスならば、攻撃力の高いスキルでも素早く発動させることができる。が、攻撃力の高いスキルはその分大振りになり、攻撃時の隙が大きくなる傾向がある。
≪神速≫で攻撃速度を高めればその欠点をある程度補うことも可能だが、通常状態で使うにはいくらかリスクがある。だからカイリは普段、この手のスキルはあまり使わないのだが……。
カイリの構えが大きなものに変わり、そのまま剣を振るう。剣を受けた金髪の少女は、カイリの放った一撃を受けて体勢を崩す。突如攻撃が強力なものに変わったのだから当然だ。
最初は突然の攻撃の変化に対応できなかった金髪の少女だったが、次第にその攻撃にも慣れてきたのか、体勢を崩されることなく受け止めるようになる。
そしてそれは、反撃の準備が整ったということでもある。さっきまでのカイリには大きな隙はなかったが、今は僅かながら隙が垣間見えるようになった。
金髪の少女はカイリの攻撃を受けながら、鋭い眼光で反撃のチャンスをうかがう。カイリ自身もそれを理解しているはずなのに、そのスタイルを変えようとはしない。
連続で放たれる攻撃の中、金髪の少女は確かな隙を見つけ表情を変える。剣士戦闘スキル≪バースト・クエイク≫、高威力ながら隙の大きな攻撃であり、少女がそこに目を付けるのは当然といえる。
このスキルは再使用時間も長く乱発されることはなく、その特性から使用頻度が低い。それでも連続攻撃の中に何度か組み込まれている。
次にこのスキルが発動されるとき、それが金髪の少女の反撃のときとなる。そしてカイリが≪バースト・クエイク≫の構えをとる。
それを目にした金髪の少女もまた攻撃の構えをとる。発動させるのは≪レイ・スラッシュ≫、最速の攻撃スキルだ。
超高速型のカイリといえど、スキルの速度性能が違いすぎる。このタイミングならば金髪の少女の攻撃のほうが、紙一重の差で先に届く……はずだった。
金髪の少女の攻撃は確かにカイリに向かって放たれた。しかし、その攻撃はカイリに届くことなく空を切った。
そしてその直後、カイリによって放たれた≪レイ・ブレイド≫が金髪の少女の身体を貫く。少女は何が起きたのか理解することができず、次の行動に移ることができない。
そのままカイリの連続攻撃をその身に受け、半分以上のHPを削られて地面に伏した。
金髪の少女は放心しながらカイリに視線を向ける。
このゲームの攻撃系スキルは基本的に、一度発動させたら途中でキャンセルさせることはできない。方法自体はいくつかあるが、戦闘中に狙ったタイミングでそれを行うことは不可能といっていい。
だというのにカイリはそれをやってみせたのだ、金髪の少女が混乱するのも無理はない。
「俺の勝ちだ」
そう言ってカイリは金髪の少女に背を向ける。
「ま、待って!」
金髪の少女の声にカイリが足を止める。
「さっき、いったい何をしたの? 攻撃スキルのキャンセルなんて……」
「別にスキルをキャンセルさせたわけじゃない。というか、発動すらさせてなかったからな」
多くのギャラリーはは『わけが分からない』といった様子だったが、何人かはカイリのやったことを理解した。そしてその中には金髪の少女、そして紗姫も含まれている。
カイリがやったことは単純明快、スキルを発動させずに≪バースト・クエイク≫の構えだけをとり、金髪の少女の攻撃を誘ったのだ。『戦闘中にスキルのキャンセルはできない』という先入観を利用した作戦だ。
観衆からはギリギリの勝負をしていたようにも見えるだろうが、その実カイリの完勝だ。余力を残した状態で、先の先までも読んで勝ってみせた。
「完敗、噂通り……いえ、それ以上ね」
「そりゃどうも」
地面にへたり込んでいた金髪の少女は立ち上がり、カイリに背を向けて歩き出す。負けたのだからもう何も言わずに去る、ということなのだろう。
「そうだ、名前を聞いてもいいか?」
カイリの問いかけに金髪の少女は立ち止まり、しかし振り返ることはせずに小さく言葉を発する。
「エルメイル」
そう言ってエルメイルは再び歩き出す。
カイリは確信した。目の前のこの少女は、近い将来この世界にその名を轟かせる使い手になると。
(次に会うときは勝てないかもな)
そんなことを思いながら、カイリはエルメイルを見送る。『負ける』と思わないところがまたカイリらしい。
その後も何人ものプレイヤー達を相手にするが、エルメイルほどカイリを追い詰める者はいなかった。結局カイリは向かってくる者達を全て返り討ちにし、誰一人として≪鉄の旅団≫に新加入することはできなかった。
せめてエルメイルだけでも加入させては、という者もいたが、条件が『カイリに勝利すること』だったのだから仕方がない。条件を満たさないままに加入させては、他の者も納得しない。
結局≪鉄の旅団≫に新メンバーが入ることはなく、今まで通りの体制で運営されることになった。
今までと変わったところがあるとすれば、大量の武器や防具を放出したことで大量の資金を得たことと、カイリの名がさらに広まったこと。そして巨大戦闘系ギルドを傘下に置くことになったことだ。
最大手生産系ギルド≪鉄の旅団≫が戦闘系ギルドである≪煉獄の騎士団≫をどのように使うのか、多くの者達の視線が集まることになった。
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