第一楽章
うん?ここは何処だ。昨日は確か、色々あって‥‥ベッドで寝たはずだ。なのに何故、”私”はこの様なところに来ているのだ?ベッドで寝てからが一切思い出せない。
其処は白や黒という色さえ存在せず只々其処にあるというだけの様に感じられた。
何なんだここは?考えれば考えるほどドツボに嵌っている気がする。意識が朦朧としてきた。なん‥‥だよ‥‥‥こ‥‥れ‥‥‥
気がつけばベッドの上に眠っていた。
なんだ朝か今何時だ?
時計は8時を指し示す。
あれは夢か?いや、夢というには余りにも鮮明であの空間は自分自身である様な親近感の様なものを感じた。考えても仕方ないか。
そう結論付け朝ごはんの支度にとりかかる。
そんなに食べたいものも無いし適当なに有りあわせで作るか。‥‥‥‥
この後は特に変わった事もなく。又、あの夢を見るという事もなく時間は進みあの夢の事を忘れていた頃の事だった。
もう転生してからかれこれ1カ月近く経つのか、今日は転生後初めての変化と言っても過言では無い。高校の入学式だ。急がないと‥‥。
着なれない制服を初めて着て入学式の用意を急ぐ。
行ってきます。
自分以外誰も住んでいないはずの家にしばしの別れを告げ、通学路を急いで歩く。
間に合うだろうか?入学式そうそう時間ギリギリとかは嫌だな。
こんな事を思いながら、予定していた時間より15分程早く着いてしまった。
入学式まで後結構有るぞ?トイレでも行っておこうかな…
そう思い、近くにいた男子生徒に声をかける。
すいません、トイレは何処に有るでしょうか?
「トイレなら体育館の廊下の突き当たりにありますよ。」
男子生徒に礼を言い立ち去る。
確か廊下の突き当たりだったよな‥‥‥ここか。かなりキレイなトイレだな。
トイレは清潔に保たれており比較的明るい内装をしていた。
用を足そうとすると隣にいた新入生と思しき男子生徒に声をかけられた。
「なぁ、お前、隣の君だよ君!」
なんだ?何か用でもあるのかと思い返事を返してみる。
「なんだって、愛想悪りぃな、同じ新入生かと思って声をかけてやったのによ。」
そうか、それはすまない。形式上謝ってみた。
「なんだ?今度は皮肉かよ。声かけて損したかもな、まぁそんな事は無いだろうがよ。そんなこより、俺の名前は櫻井浩太、同じ新入生同士よろしくな。」
こちらこそよろしく。俺の名前は白崎暮斗だ。好きに呼んでくれて構わない。
「お前はちゃんと人が名乗ったら名乗り返すんだな。最近少ないよなそんなやつ。俺は好感が持てるぜ。」
そういやお前の事俺はなんて呼べばいい?
「そんなの適当にすればいいものを、櫻井って呼ばれるのもアレだし袖触れ合うも多少の縁ってなここでの初めての友達だから浩太でいいぜ。」
そうか、じゃあ俺も暮斗でいいぞ。浩太
「ハハッ、言うじゃねーか。この野郎。」
俺と浩太は談笑しながら入学式の席に着いた。
「これより第52回谷城高校入学式を始めます。‥‥‥。」
つまらないな‥‥。入学式で特に変わった事も起きないだろう‥‥。寝ようかな。いや、入学式そうそう寝るというのもな‥。仕方ない、ちゃんと聞いておくか。
特に変わった事もなく入学式は進行していった。
「入学生代表からの挨拶です。新入生代表三島和美さん。」
「はい!‥‥‥。麗らかな春の日差しの中‥‥‥。」
テンプレの様な代表挨拶が続く。徐々に眠たくなってきた‥‥‥。
うん?ここは何処だ?さっきまで入学式に出ていた筈なのだが‥。言い表しにくい既視感と親近感を感じる。こんな気色悪いところに来た様な事あったか?百歩譲って既視感はわかるとしても親近感はなんだ?訳がわからない‥。考えるほどドツボに嵌っている気がする。意識が朦朧としてきた‥‥。なんなんだ‥‥‥いったい?
「‥‥‥以上をもちまして第52回谷城高等学校入学式を終わります。」
はっ‥。気づいたら寝てしまっていた様だ。丁度式も終わりの様だ‥‥。帰るか。然し、あの夢は何なんだろうな?前にも見たのか?憶えていないな。
「おーい、暮斗これから暇か?」
何だ?浩太か、暇だがどうした?
「親睦を深める為にもこれから食事でもどうかと思ってな。」
近くでジャンクフードでも食べに行くのか?俺は構わんが。
「おっ、そうと決まればすぐ行こうぜ多分混むだろうからな。」
そうだな。
相槌を打ちつつ立ち上がり直ぐに移動する準備をし歩き出す。そして、数分後のこと。
「まさかもうこんなに混んでるとはな‥‥。」
それほどまでに店は繁盛していた。
「席が満席でテイクアウトするしか無いってのは正直驚いたけどな。」
俺たちは今店の近くの公園で食べ物を広げていた。さすがに悪いやつじゃ無いだろうが今日初めて出会った人間を部屋に上げるのは少々拒まれた。だが、約束を反故にする事も拒まれた。だから、最終的にはこういう形に落ち着き、談笑するに至った。他愛ない話は続く。そんな矢先、何か日常では決して感じることの無い様なナマグサさが鼻をくすぐった。
なぁ、浩太‥‥。と言いかけた時。
「お前は直ぐに真っ直ぐ家に帰れ。」
浩太が冷え切った調子で言い切った。
どうしたんだ?急に、それと何なんだこのナマグサい臭いは?
「いいから直ぐに帰れ!」
切羽詰まった様子でいう浩太に言葉を詰まらせた。
「おやおやぁ?あなたは誰ですかぁ?」
妙なナマグサさを感じる方から歩いてきたのは、全身黒ずくめの尋常ならざる雰囲気を纏う25、6の男だった。
お前こそだれだ?
「これはこれはぁ、失礼しました。私の名前は赤羽宗次郎ですぅ。以後お見知り置きをぉ。と言っても、ここから生きて帰れればの話ですがねぇ。」
どういう意味だ?
「そのままの意味ですよぉ!」
赤羽は浩太に尋常ならざる速度で襲いかかった。
浩太!俺はとっさに叫ぶしか出来なかった。
「おやぁ?なかなかどうしてヤル様ですねぇ。」
「けっ、この程度でヤられるかよ。」
然し、其処には謎の光を体に灯した浩太が無傷で赤羽の拳を掴んでいた。
何なんだよこれ‥‥‥。俺は心では理解していた。多分これが【世界】とやらが言っていた。
『ゲーム』
だという事を。
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