2

いつものように僕は川べりにある小さなサッカーコートの脇で、小学生たちが飽きることなくボールを蹴るのを見るともなく見ていた。

 「なぜ人間は球体に興味を抱くの。」彼女は大学の文学部で哲学を専攻していた。その気にさえなればどこへだって進むことができたが、「人はすべからく疑問を持つべし」という彼女の信念はいつまでも曲がることなくついに22歳を迎えるに至ったのだ。

 「つまりさ、完全なんだ。どこから見ても同じ形、円だ。自然じゃないんだよ。自然にはそんなかたちなんてありゃしない。いつだっていびつで、曲がっている。人間だってそうさ。でも、結果として、球体じゃないんだ。たまごだってそうだろ。完全な人間なんてどこにもいない。アインシュタインだって、そう言ってる。」

 「そうかしら。でも、地球はまるいんじゃないの?」

 「厳密には球体ではないけれど、たしかにほとんどまるい。川底の石とおなじさ。いろんなものに削られて、だんだん丸くなっていくんだ。人間だってそうかもしれない。」

 「あなたはいつも簡単にものごとを答えてしまうのね。」彼女が難しそうな顔をしているときは決まって僕の答えに納得していないときだ。そういうときは何時間も平気で考えて込んでいるので、僕はいつもあきらめてビールを飲むことにしている。

 「まだ夏の日差しが残ってる。日焼けするよ。ビールを飲みにいこう。」

 「日焼けでもビールでもどちらにせよ、赤くなるじゃない。」冗談めかしてはいるが、依然難しそうな顔をしている彼女は、それでもさっきよりはいくぶん明るくなっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る