第6話 音は響く3
「マスター、一人でもできる依頼ってない?…あ。」
部屋から出ると数人の客がいた。その中に一つ見知った顔があった。
「あ、刻杜ー久しぶり!」
この人は、浮凪達がこの町に来てから初めてかかわった人、
「お久しぶりです。未咲さん。ここに来るなんて珍しいですね。」
刻杜は未咲の隣に座る。
「そろそろお金が無くなってね。マスターに依頼貰いにね。で、浮凪はどこにいるの?あんたがいるんなら浮凪もいるでしょ?」
少し顔をそらす刻杜。その様子から何かを感じ取った。
「浮凪は今、眠っています。」
「また思い出しそうになったの?」
ここに来てから何回か今日みたいなことになったことがある。未咲さんはその時には知り合いになっていたから、知っている。
「そんなとこです。未咲さん、一つお願いがあるんです。浮凪が目覚めるまでの間僕とチーム、組んでくれませんか?」
未咲は思わずグラスを落としそうになる。
「え?それ本気で言ってるの?」
「未咲さんも知っていますね、昨日のこと。今僕たちは追われている身です。」
「昨日…、クルトB35地区のことね。」
「これから僕たちはコルドに向かおうとしています。それでお金が必要なんですが、僕一人だと限界があります。だからチーム組んでくれますか?報酬はきちんと分けます。」
未咲は少し考える。
「いいよ。あんたたちも大変だね。マスター、報酬いいの出して。」
「ありがとうございます。未咲さん。」
マスターが数枚の依頼書を出す。
「ん―…。まずはこれからやろっか。刻杜。」
未咲が選んだのは、とある組織の殲滅だ。それなりに報酬もいい。
「わかりました。マスター、浮凪お願いしますね。」
「ああ、任せろ。」
「目標あれだね。こ…、白狐って呼んだほうがいい?」
未咲は深くフードをかぶり、刻杜は面をつけている。
「はい、その方がいいです。こっちもなんて呼べば?」
「未咲のままでいいよ。私はあんたたちみたく隠したりしてないからね。」
「未咲さんは、なんで戦いますか?近接なら援護しますよ。」
刻杜は近接も中距離、遠距離どこのポジションでもできる。
「私、中距離だから、近距離お願いね。でも白のパーカーって目立つね。まぁあんまり関係ないか。」
未咲は服からナイフを出す。
「投ナイフですか。じゃあ僕は刀でいいか。」
刻杜が使う刀は〘太刀 鶯丸〙
二人の準備が整った。
「よし、行こう」
未咲の言葉を合図に刻杜が飛び出す。そしてまず一人斬る。
刻杜に気を取られていると、ナイフが飛んでくる。
未咲のナイフは確実に急所に刺さる。
刻杜は、血を浴びながら斬る。肉が斬れ、血が噴き出る。真っ白な刻杜の面は次第に赤く染まっていった。
ただ相手もやられてばかりではない。銃弾の雨が降る。しかしその銃弾は一発も刻杜には当たらない。
眼がいいやつには、どんな物量も効果はない。
「そんなんで、僕が殺せるわけないだろ?なめんなよっと!」
相手の懐に忍び込む。
ザシュ…!
「白狐!後ろ!」
未咲が叫ぶ。刻杜は反応するが、先ほど浮凪に斬られた腕が痛み、判断が遅れてしまった。
刻杜の手から刀が飛ぶ。
「お前がいくら強かろうと武器がなけりゃこっちのもんだ!」
相手がナイフを振り上げる。
「そんな獲物で、狐が狩れるとでも?馬鹿じゃないの?」
刻杜の腕がかすかに光る。そこからナイフが飛び出した。そのナイフは動脈めがけて飛んで行った。
ナイフは動脈を切った。
ドサ
これが最後の敵だった。
「刻杜!大丈夫?」
未咲が刻杜の飛ばされた刀をもって走ってきた。
「未咲さん、僕は大丈夫ですよ。刀拾ってくれたんですね。」
「驚いたな、前あった時にはその技能はなかったでしょ?」
未咲が言っているのは、武器を腕にしまえること。
「ああ、これはいつだったかな。覚えてないな。たぶん実験の副産物だったと思うんだけど…」
「実験⁉何のよ!」
「んー、確かナキスチアに人為的にアルダを埋め込むとかなんとかだった気がしますね。」
本来アルダが無いナキスチアにアルダを埋め込むと言う事は、死を招くと言うことだが、一部の研究者はまだこの実験を続けている。もしこの実験が成功したら普通にアルダがある者よりも強い力を持った兵士になる。定期的にクルトに訪れては被験者を探している。被験者になれば多額の報酬がもらえる。特に技能持ちはさらに報酬がある。
浮凪達が未咲と別れてからしばらくしてから、浮凪達は被験者になった。
研究者たちにとって浮凪と刻杜は待ち望んでいた被験者だった。リンガに拒絶反応と言ってもいい反応をする二人は、報酬の上乗せで別の実験にも協力した。そして実験の副産物で様々な能力を得たが、さらにリンガに対する拒絶が強くなってしまったのだ。
「あいつ…まだ実験してたのか。」
「未咲さん?どうかしましたか?」
未咲の言葉は刻杜の耳には届かなかった。
「昏に行こうか。マスターに報告しないとね」
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