第5話 音は響く2

「浮凪?」

針を抜いてしばらく経っても反応のない浮凪に刻杜は近づく。

刻杜の呼びかけに反応したように、浮凪はゆっくり顔を上げた。

でも顔を上げた浮凪の目には光が無い。

「っ!刻杜!離れろ!」

マスターが叫ぶ。しかし一歩遅かった。

シュと空気を切り裂く音が聞こえる。刻杜の腕が少し切られてしまった。

「刻杜、めあどこに行ったか知らない?さっきから姿が見えないんだ。」

「浮凪、メアはもういないんだよ。」

刻杜の腕からは血が流れている。思ったより傷は深かったようだ。

めあは浮凪の妹だ。でも彼女は数年前のあの事故で…。

「嘘だ!めあはまた迷子になっているだけなんだ!ちゃんと声が聞こえてるんだ!

「やっぱりか…。マスター!浮凪の刀奪ってくれない?ちょっと準備に時間がかかるから。できるだけ時間稼ぎつつ刀奪ってくれない?」

「難しいこと言ってくれるな!稼げたとしても3分が限界だ。」

「わかりました。」

マスターは正面から浮凪に向かっていく。

刻杜がカバンから出した白い錠剤。それは浮凪の記憶に蓋をかぶせる薬だ。それ以外にも薬を取り出した。

浮凪には思い出してはならない記憶がある。あの薬のせいで蓋が外れかけてしまった。だからまた蓋をする必要がある。そろそろ3分経つ。

「刻杜!まだなのか?こっちはもう奪ったぞ」

マスターは浮凪の手にあった刀を持っている。さすがマスターだ。だが、マスターの服がボロボロになっていた。

「浮凪、ちょっとは我慢してね。」

刻杜は浮凪に近づくと薬を四つ無理やり口に入れた。

浮凪は抵抗するが、さっきの薬の副作用がではじめたのかだんだん抵抗が弱くなっていった。

「マスター、水下さい。」

マスターが持ってきた水を浮凪の口に流し込む。水と一緒に薬も胃袋へ落ちていく。

薬が効くまでに少し時間がかかる。そして蓋をする薬のほかに睡眠薬も飲ませた。一度眠ればしばらくは起きないだろう。

「刻杜…?愛逢は?」

少しづつ浮凪の体から力抜けていく。

「大丈夫、今は寝なよ。」

浮凪の瞳が閉じられる。

静かに息を吐く刻杜。ゆっくり浮凪の体を横たえる。奥からマスターが毛布をもって来た。そのマスターの腕には刀傷がたくさんあった。

「すまねぇ、まさかこうなるとはな…。」

「でも、今の浮凪にはこれでいいのかもしれなかったし。」

今の浮凪には何も考えない時間が必要だ。

「マスター、しばらく奥の部屋借りますね。」

刻杜は浮凪を抱えた。

「ああ、好きなように使え。」

「ありがとうございます。マスター。」

眠っている浮凪の顔色は少し悪い。

浮凪をベットに寝かせた刻杜は何かを決めた顔をしていた。

そして、静かに部屋を出た。

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