第2話2014年5月 朝のこと

「ねえ、波瑠。」

うっすらと引き戻される意識のなかに心地好い音がきこえる。少しかすれて低い声、私の名前を呼ぶやわらかい、春の。

「ほら、いいお天気だよ」

まぶしい。

もう意識ははっきりしているけど、起きる気にはなれない。

ひさしぶりの二人揃っての休みなのだから、どこかへ行こうと前から約束していて、

それで昨日は春の家に仕事のあと直行してそのままとまったのだった。

ああ、でももう少しゆっくりしようよ。外側へでかけたことばをわたしは静かにのみこ

んで、ちょっとだけ目を開ける。

窓の外を眩しそうに、まるでそこに神様がいるみたいな必死さで春は見つめていた。

「どうしたの、何を見てるの」

春は、こちらを振り向くと一瞬で本当に嬉しそうな顔してみせる。

ああ、このくしゃっとした笑いかた。

私はこれに弱いのだった。

「なんでもないよ。おはよう、波瑠ちゃん」

「ん、おはよう」

私も少し笑ってぐーっと体を伸ばしてみる。なんでもないような朝の景色。

春の部屋は朝陽がほんとうによく差し込む。



春がいる。

朝の太陽に照らされた、春のにおいで満ちた春の部屋に、春が。


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