第3話2016年2月 秋

春が死んで、もうすぐ1年になるのだ。

ということに今朝気がついて、

ふうん、と思った。


自分で決めて自分一人で

そこへ向かってしまうものだから、

私には何の準備も理解も用意されなくて

だから、いまでも、ふうん。


だれかの不在を本当に理解することなんて

到底できないのだ、と私は思う。


春とは2年、恋人だった。

そのうち3ヶ月、私たちはこの家で一緒に暮らした。短い時間たち。

それでも、私たちは家族で親友で恋人で、ふたりでひとつの生き物だった。少なくとも私はそう思っていたしそれは今も変わらない。

それでも、私の気持ちがどんなに変わらなくても、世の中がぐるぐる変わっていくのはいつものことで、1年が過ぎ、たくさんのことが私だけをこの場所にとりのこして変わってしまった。


春の死んだ場所にはもう

花は供えられていないし、春宛の郵便物もめったに送られてこなくなった。


それでも私は、

春と暮らした家で、

春の気配を探して、

春のぶんのごはんをつくって、

春のシャツにアイロンをかけて、

私は一人じゃないみたいに、

二人で暮らした毎日を続けてきた。


そんな1年を通り過ぎて、

この家に新しい季節がやってきたのは、

すっかり日が落ちたころだった。


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