第7話 2016年7月 夏

春や冬の真ん中で、どんなに想像力を働かせても思い出せなかったこの季節は、訪れてしまえば驚くほどに圧倒的で何もかもを飲み込んでしまう。


アスファルトの道を歩くとき、異世界の入口のように歪む空気を見ると、この季節の強さを思い出す。


あーちゃんは、わたしの向かいの部屋に暮らしている。

この数ヵ月であーちゃんについてわかったことといえば、うすみどりいろがすきなこと、ほうじ茶が好きで緑茶が苦手なこと、嫌なことがあると少しだけ動きがゆっくりになること、そして、春の幼馴染みであるということ。


あーちゃんが突然やってきて2ヶ月と少しがたったころ、つまり1ヶ月くらいまえに始めてわたしたちは春について話をした。

始めて会った日にはるにあいにきた、とあーちゃんは言ったので、春の知り合いなのだろうと思ってはいたけれどきちんとそれを確認したのは、その時が始めてだった。

というよりも、あーちゃんとは、マンションの中で会ったとき挨拶やお天気の話をするくらいでまともに話すこと自体それが最初だった。

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