あさひ色TOPIC

奈名瀬朋也

1章 小学生編 -千草色-

プロローグ 『夏の小旅行』なんてのがきっと似合いだろう

夏の小旅行-終点-

 彼女は夏がぴったりな少女だった。



 首筋を伝い、背を濡らす汗が留まる所を知らない。

 熱い空気がこもる玄関は、戸を開けてもなお暑い。

 涼しい風が吹き込むどころか、熱された空気が追い打ちのように家の中に入り込む。

 そんな夏に。


 俺――千草ちぐさトキの目の前には一人の少女が立っていた。

 彼女は俺の従妹で、小学五年生の女の子で、向坂浅緋こうさかあさひという。

 浅緋は、傘かと思う程の大きな麦わら帽を被り、黒い長髪を頭の片側で束ねている。

 身にまとうノースリーブの白いワンピースは首元が開けていて、それが実に涼しげだった。

 まだ幼さの残る凛とした顔立ちに麦わら帽子の影が落ち、重そうに膨らんだカバンを両手で持つ姿は、まるで映画のワンシーンを切り取ったようで、一枚の写真のようでもある。

 もし、タイトルを付けるのであれば『夏の小旅行』なんてのがきっと似合いだろう。


 だが、その雰囲気とは裏腹に、彼女はこれからどこかに旅行にいく訳じゃなかった。

 むしろ、もう終着点に着いたと言っていい。


「あの……お邪魔、します」


 何故なら浅緋は、今この瞬間。家に――ここに引っ越してきたのだから。



 そして、しばらくした後――


「もうっ! うっざいからやめてってばあっ」


 ――開かれた玄関戸の外から阻まれることなくセミの鳴き声が響く室内に、浅緋の絶叫が生まれて消えていった。


 ここから、俺達のマイナスの一緒暮らしが始まる。

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