本作は、人の想いを込めることができるという特殊な力を持つ「種」を巡る、ハイ・ファンタジーです。
まず評価したいのが、この「種」というギミックを、徹頭徹尾物語の中心に据えてストーリーを展開している点。特殊な設定を打ち出しながら、話が進むにつれて「あの設定どこいったの?」といつの間にか設定の意味が希薄になる――WEB小説ではありがちなことですが、本作ではその心配はありません。
情景、キャラクターはともに温かみを感じさせる筆致で過不足なく描かれています。自然に物語の世界に入っていくことができるでしょう。
完結作ということで、提示された伏線や主人公たちが抱える諸問題は、ラストまでに解消されます。しかし、その過程がやや急ぎ足に感じられたのは残念。
「種」と、それを運ぶ郵便配達員という設定は、個人的にまだまだ多くの可能性を感じるところ。この世界観で紡がれる続編を期待いたします。