第7話 2人の大ピンチ

 中に突入した2人は、とんでもない光景を目にした。例のツタが体育館中に張り巡らされていたのだ。いや、それは予想の範疇だろう。驚くべきなのはその張り巡らされたツタに人間が捕まっているのだ。制服やジャージを着ているということは、この高校の生徒なのだろう。武也がそこまで判断していると体育館のステージ上から高笑いが聞こえてきた。

「フフフ、アーハッハッハ!公僕の諸君、出動ご苦労。申しわけないが人質を取らせてもらったよ……って誰だお前ら!?警察とか消防じゃないのか!?」

ステージ上には細身で顔色の悪い少年が驚いたような顔をしてこっちを見ていた。そして顔を赤くした。どうやら警察消防がきたと勘違いして考えていたセリフを言ったのだろう。その光景を見た武也は

「もうしわけありません。消防はほかの事案ですべて出払ってしまっているうえに、警察はこの一件を暴走生物によるものと断定して出動していないんです。私たちは隣ブロックの川越自由高校・地域防衛部の部員です。私達も暴走生物の発生と聞き、鎮圧のためにここに赴いた次第です。」

と丁寧に説明した。流星ならば細身の彼の言葉に呼応して「おうおう!てめぇがこの事件の犯人か!俺が直々に正義の鉄槌を食らわしてやる!覚悟しろ!!」とでもいう場面だろうが武也はまず状況がハッキリしていないこの状態で容疑者を興奮させることは得策でないと判断し、落ち着いて言葉を選んで喋った。相手の反応を伺っていると

「あいつ……やりすぎないように言ったのに……まあよい。貴様らも私のプランツの餌食となれ!人質は多い方がいいからな!」

犯人と思しき細身の男は何かボソボソと呟くとすぐに落ち着きを取り戻し、特殊行為能力を使用し二人を攻撃した。玲子は氷結能力を自分と武也を包み込むように使用しツタから身を守った。とりあえずこの能力があれば犯人に捕まることはないだろう。しかし、問題は人質を取られていることだ。人質を取るということは何かしらの目的があるということだ。

「私は蔵馬武也といいます。先ほども言ったように川自の生徒です。あなたがどなたか存じ上げませんが、この事件を起こした目的は何なんでしょうか?場合によっては穏便に協力することもできますが?」

こう投げかけた。すると

「丁寧なごあいさつどうもありがとう。クラマくん、私はキバヤシ、この状況を起こした目的はズバリ、この学校、この社会の粛清にある!私をコケにして、見下したこの学校の奴等になぁ!!」

 キバヤシと名乗った少年は芝居がかった口調でこう言った。どうやらイジメか何かを受けていたようだ。武也の記憶では確か、東武高校は「」をスローガンに掲げていた。健常人間というのは特殊行為能力者ではない人のことを指す。能力を持たない識者、学者、評論家などが特殊行為能力者を卑下して使い始めた言葉とされている。これを基にした「健常人間至上主義」は日本の本土ではいまだに根強い支持層のいる思想である。能力者の頭脳によって作られたメガフロート上に存在する高校としてはかなり異端である。

 アンゴルニウムが体に定着しやすいかどうか(能力が発現しやすいか)は髪色で判断されることが多い。キバヤシの髪色は茶、古来の日本人にはあまり存在しないが、この時代では普通といえる髪色だ。一方玲子は、深い藍色の髪を持っているし、晴奈はオレンジ色だ。こういったノストラダムス以前の時代ではありえない髪色を持つ人は能力の発現確率も高い。しかし武也や流星の髪色は真っ黒で、能力がもっとも発現しにくいとされている。おそらくキバヤシは元々能力をもたない上、「健常人間至上主義者」だったからこの学校に入ったのだ。しかし入学後に能力が発現してしまい、校内で迫害を受けるようになったのだろう。

「キバヤシさんの気持ちはわからないでもありません。でもそれなら転校でもしたら良かったじゃないですか。たとえば私たちの川自なんかは能力者も多いですよ。今からでも遅くありません。人質の生徒の拘束を解きましょう。警察も分かってくれるはずです。」

武也はとりあえず説得の方向に持っていこうとした。しかし、それがいけなかった。彼はまだ、だったのだ。

「うう、うるさいうるさいうるさい!!俺は本当はこんなバケモノなんかじゃないんだ!!もっと、全うで美しいなんだ!!俺を、バケモノ呼ばわりするなああああああああああああああ!!!」

先ほどの数十倍の無数のツタが二人に襲い掛かってきた。玲子は気力を振り絞り能力を使い続ける。

「ふぅっ!くぅ!」

能力を使用することは、かなりの体力と気力を消耗する。元々活動派ではなく、どちらかというと武也と同じ裏方の仕事をしていた玲子には、怒りに身を任せたこの攻撃はとても耐えきれるものではなかった。しばらくはツタを抑え込めていたがついに気力を使い果たし、失神してしまった。

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