第5話 根暗少女のコイゴコロ

「東武高校っていったら1ブロック隣だから結構遠いけど、あいつ何で行くつもりなんだ?」


 リニアを使うと時間かかるけど、と続けながら栞が流星に尋ねた。カワゴエ・スクール・フロートは一つのメガフロートではなく、いくつかのフロートがブロックとなり隣接しており、それをブリッジで繋げている構造になっている。そしてそのブロック間はブリッジを利用して移動する必要があるのだ。すると流星は


「あいつは意外なんだけどな、趣味の一つがバイクなんだよ。うちの高校の立地的にリニアを使うよりバイクで行けば速いからな。その辺は大丈夫だろうよ。」


流星が軽く答える。


「バイク?」


「そうホバーバイク、ゴリゴリのアメリカンタイプのな。」


「あーでも、あいつ体はでかいしいつものフワフワしてる性格を知らなければ似合ってるのかもな」


二人がそんな会話をしていると、部室の扉が開いた。


「やっほー、調子はどう?さっきなんかデバイスに通信入ってたけどどうしたの?」


 晴奈が耳の後ろにあるデバイスを触りながら部室にやってきた。


「よう晴奈。あぁ、東武高校で暴走生物が現れたらしくてな、消防も出払っちゃってるし警察は人間がらみじゃないと動かないしで武也が出動したんだ。」


「はぁ?タケヤ君が?あんまり動けるタイプじゃないのに……」


流星の返答に晴奈が驚いたように答えた。


「やっぱり晴奈さんもそう思うよな?」


あまりにも落ち着いている流星を訝しみながら栞が言った。


 その様子を察したのか流星は


「俺はな、武也を信じてるのさ。あいつはやるときはやる男だってな!」


と言った。女性陣二人はあきれるように


「相変わらずイタいなあんたは。」


「たかが植物駆除ぐらいでおおげさよ」


と口々に言った。続けて晴奈が


「でも誰かが手伝いに行った方がいいんじゃない?被害が広がってたら除草剤だけじゃ足りないだろうし。誰かに連絡した?」


と二人に聞いた。


「あ、やっべ忘れてた武也からも頼まれたのに」


流星がうっかりしたように答えた。


「うーん…今から行くんじゃアタシのの能力使ってもかなり時間かかっちゃうだろうしリニアでも時間は同じくらいかかっちゃうからなぁ……」


晴奈が考え込んでいる。すると


「あ、あいつがいるじゃん。玲子!あいつは根暗だから中央図書館で本でも読んでるんじゃないか?図書館は東武高校の近くだし!」


栞が思いついたように言った。


「根暗ってシオリちゃんねぇ……でもレイコちゃんかぁ。彼女の能力はだから植物駆除にも使いやすいし良いかもしれないね。でも本当に図書館にいるかな?一応連絡してみよっか」


晴奈がデバイスから通話を選んで連絡をし始めた。このデバイスというのは、通信やインターネットに使用する機械で、耳の後ろに取り付けて使用する。脳とリンクし、視覚と聴覚が接続されることによって感覚的な操作を可能にしている。従来の電話と違い、通話をするときも声を発する必要がなく、脳内で喋ってるように考えるだけで相手とのコミュニケーションが可能になっている。


『・・・・・・もしもしレイコちゃん?いまどこにいるかな?』


『あ、晴奈先輩こんにちは。今私は図書館で本を読んでいますが……どうかなさいましたか?』


『ホント?ちょうどよかった!東武高校のところで出動依頼が出たんだけど色々あってタケヤ君が出動したのね。それで私たちみたいに学校にいる人が応援に出ると時間がかかりすぎちゃうから近くに部員がいれば頼もうと思って連絡したんだけど、どうかな?忙しい?』


『たた、武也先輩が?じゃあさっきの通信はそれだったんですか……私は…そう、本は逃げないので平気です。大丈夫です……応援に向かわせていただきます。それで、鎮圧対象は動物ですか?植物ですか?』


『んーとね、植物みたい。ツタ系のが高校の外壁に取り付いて浸食し始めちゃってるらしい。』


『わかりました……今から向かいます』


ブツリと通信の切れる音がした。晴奈が横に目をやると流星と栞の二人が心配そうな顔で見ていた。


「どうやらレイコちゃんは本当に図書館にいたみたいだったね。応援に出てくれるってさ。」


晴奈が二人に言うと


「よーしこれで一安心だな。そんなことをしているうちに俺は報告書も書きあがったぞ!これで問題はすべて解決だ!!」


「やっぱりアタシの見立ては間違いじゃなかったようだな。」


と安堵した様に口々にそう言った。


 応援を頼まれた氷見玲子ひみれいこは読んでいた本を閉じて思案した。


(武也先輩……私が行きますよ……フフッ)


玲子は昔から人との交流があまり得意でなく、一人でいることが多かった。そんなときに武也がこの地域防衛部へと誘った。その一件がきっかけで武也に恋心を抱き始めていた。実際は特殊行為能力者を調べて片っ端から声をかけていただけなのだが、人との交流が少なかったゆえにそのことにも気付けておらず、彼女は武也が自分を心配して声をかけてくれたのだと思い込んでいる。そんな勘違いした思いを抱きながら彼女は武也の応援に向かっていった。


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