エピ046「ロール・プレイング」

神奈川県、鎌倉山、 某「相田」家、勝手口前、


俺は塀の上の監視カメラがリモートコントロールで俺の事を睨み付けるのを、ぼーっと眺めていた、


やがて、長い塀の途中の扉が開いて、上女中の「立花さん」が現れる。



立花:「いらっしゃいませ、京本様、」


なんか、何時も玄関から入らないのには、…理由が有るのだろうか?



立花:「お嬢様に付きまとう輩が多くて、正面玄関には専門の警備のモノが控えております故、…」


一体、掴まったらどんな事を、…されるのだろう?




俺は、空き教室で「相田」と密会しているのがバレて「騒ぎ」になって以来、学校で「相田」と接触する事は極力避けていた。 今回は「他の誰かに聞かれたく無い話が有る」と言う事で、…わざわざ「相田」家まで呼び出されて来た訳だが、…


勝手口から程近い「相田美咲」の部屋(一戸建て)の前で、…「立花さん」が立ち止まる。



立花:「奥様から、是非夕食をご一緒にと、言付かっております、…」


宗次朗:「いえ、そんなに遅くなる予定は無いので、どうかお気遣いなく、…」


「立花さん」、目力コエ―、…



立花:「それでは後程、お迎えに上がります。」


「立花さん」、問答無用―、…




呼び鈴を押して、可愛らしい私服の「相田美咲」お嬢様バージョン、が玄関口に現れた。



立花:「それでは、直ぐに、お茶をお持ちいたします。」


相田:「ありがとうございます。」


それで「立花さん」が去って、たった3秒で外面が崩れて、…もぞもぞと、炬燵布団に潜り込んで、そのままミノムシの様に寝っ転がる、「相田美咲」。



宗次朗:「未だ炬燵片付けてないのか?」

相田:「あったかくて気持ち良いの、何か止められないんだよね、」


宗次朗:「いや、暑い、の間違いだろ? 明らかに、…」

相田:「アタシは一年中冷え性なの、」


宗次朗:「何なら腰のマッサージでもしてやろうか?」

相田:「とか言っちゃって、女子の身体に触りたいだけだろ?…このスケベ、」


俺は、小学生用の学習机の椅子に腰かけて、…何ともなしに此処其処の引き出しを開けては、何か面白いモノでも出てこないかと覗き込むが、…勉強道具しか入っていない。



相田:「日記でも入ってるとか思った?…ちゃんと片付けたわよ。」


…って、付けてるんだ、日記!



宗次朗:「それで、何の用なんだ?」


相田:「決まってるじゃない、GWの予定の確認よ、」


俺は「相田」に手招きされて、炬燵テーブルの「相田」の左90度隣に、胡坐をかいて座る。


それで「相田」がプリントアウトした予定表を手渡した。



宗次朗:「これ位なら、学校で渡してくれれば良かったんじゃないのか?」


相田:「アタシがアンタに何か渡したら、それだけでまた変な噂が広まるだしょ、…学校の帰りも何か変な連中に見張られてるミタイし、」


宗次朗:「まるでスター様だな、…」


俺はペラペラと、プリントを捲る。…それにしても、持ち物欄に、水着?…なんで水着?



宗次朗:「実は、俺からも相談が有るんだ。」



今日、俺がわざわざ「相田」の家まで訪ねて来たのには、それなりの訳が有った。 …そう、多分俺は、また「相田」を失望させる事になる。



相田:「なに?」


宗次朗:「実は、俺GWの旅行、行けなくなった。」


相田:「え?」


「アカリ先生」からの依頼で、俺はGWの間中、「鐘森麗美」の絵のモデルを引き受ける事になった。

当然、ヌードモデルなんて事は言わないし、出来れば「アカリ先生」のウィット・トンダ・ジョークである事を、今でも祈っている。


兎に角、余分を省いて、俺はこれ迄の経緯を「相田」に説明した。


一学期中に何かしらの絵画コンクールで賞を獲れなければ、恐らく「鐘森」は学校を追い出される事になる。



相田:「ふーん、そうか、…まあ、解ったわ、」


宗次朗:「悪い、…」


相田:「でもさ、それって、本当にあの子にとって良い事なのかな、…うちの学校に残るって事、」

相田:「今の侭じゃ、あの子も、無理してて、辛いんでしょ。」


「相田」は、三つ編みのお団子に束ねていた髪を解いて、毛先を弄りながら、…俺から目を逸らす。



宗次朗:「鐘森は、残りたいって、思ってる。」

相田:「ふーん、それで、アンタは、あの子を…助けてあげるんだ。」


俺は、テーブルの上に放置された、「相田」の髪留めピンを指で弄びながら、…「相田」の顔が見れない。



宗次朗:「俺は、何か、…誰も鐘森の気持ちとか都合とかお構いなしに、勝手に騒いで、勝手に「面倒見きれなくなったから放り出す」ミタイナ、まるで「モノ」ミタイナ扱いをされているのは、…何か、おかしいと思うんだ。」


相田:「そうね、可哀想かもね。…でも、さ…」


それで、「相田」の声は、どんどん、小さく、なってしまって、…





相田:「なんでアンタが、…一生懸命になってる訳?」





宗次朗:「それは、…同じ部活の、…後輩だから、」


刹那、「相田美咲」は、呼吸を止めて、…



相田:「そうか、そうだよね、…」


それから、「相田美咲」は、顔を上げて微笑んだ。



相田:「じゃあ、旅行の話はもうおしまい、…GW、頑張ってあげな、アンタに何が出来るのか分からないけどさ、」


明らかにテンションの違う、外面の「相田美咲」が、俺に、笑いかける。



宗次朗:「…怒ってんのか?」

相田:「別に、怒る事なんてなんも無いじゃん、…普通だよ。」



宗次朗:「ごめ、…」

相田:「ごめん、この格好疲れる、…私着替えるから、帰って、」


それで、俺は、部屋を追い出された。…確か前にも、似た様な事が有ったな、



それで、俺は、玄関口で、お茶を持ってきた立花さんと遭遇する。



宗次朗:「あ、俺、…もう帰ります。」

立花:「京本さん、ちょっと良いですか?」







巨大な母屋の裏の、「立花さん」達が住み込みしている部屋?一戸建て?の客間に通されて、


俺と「立花さん」は、10畳程の和室の半分は占めようかと思われる、巨大な木のテーブルの差向いに座って、…これってきっと、説教だよね!



立花:「貴方が、お嬢様の事をどう考えておられるのかは、解りません。」


立花:「でも、お嬢様が、貴方の事を特別な方だと考えていらっしゃる事は、傍でお世話させて頂いているだけの私にも、解ります。」


「立花さん」の眼差しは、何時もにも増して、重く、固く、張りつめている様に見える。



立花:「お嬢様は、小さい頃から行儀作法をきつく躾けられた所為もあって、ご自分の想いをつい押し殺してしまう癖が有ります。」


立花:「そんなお嬢様が、奥様や旦那様と貴方について話されている時に、時折照れたり、困った顔をされるのを見るのは、何だかとても、良い変化の様に思うのです。」


立花:「きっと、奥様や、旦那様も、同じ事を感じておられると思います。」


「立花さん」の眼差しからは、本当に心の底から「相田美咲」を気にかけている様子が、ありありと、見てとれる。



立花:「私ごときが差し出がましく口にするべきでない事は重々承知しております、しかし、どうか、…お願いします。」


立花:「お嬢様の事を、大切にしてあげて下さいませ。」


そう言って「立花さん」は、床に額をつけて深々と、頭を下げた。







俺は、帰りの電車の中で考える。


俺が、「アイツ」にとって特別だって?


それが、正しい事の様でいて、正しく無いのは、明白だ。



「アイツ」は元々、俺が恋愛に興味が無いと知って「元彼との関係を修復する手伝い」をさせる為に、俺に近づいたのだ。


それで、それから、色々有って、今では気軽に口を利ける、しょっちゅう喧嘩する迄の間柄にはなったが、…



宗次朗:「何で、アイツが、俺の事を特別に考える理由なんて有るんだ?」



いや、本当は解っている。


「アイツ」に「洗脳」を仕掛けたのは、間違いなく「アイツ」の両親だ。


偽装彼氏とはいえ、両親公認の関係になった時点で、「アイツ」の「洗脳」に何等かの変化が生じた事は、十分に、有り得る事だ。



それにしたって、つまり其処には、「俺でなければならない理由」など無いのは、明白だ。


偶々、今、俺が、その「役」を演じているだけに、過ぎ無いのだから、…







元々、俺なんかが「相田」のスペックに、釣り合う訳など、無い事は、とっくに、…知っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る