エピ045「揺れる???」

授業中だと言うのに、俄かに教室が騒然とする!


突然、後ろ側のドアが開いて、…血相を変えて、じっと、救いを求める様に俺の事を見る「鐘森麗美」?


「国分」は、ゆっくりと「鐘森」の元迄歩いて行って、



国分(現国教師):「どうしたの?」


物腰の柔らかい「国分」の問いかけに、「鐘森」は真っ赤になって俯いて、…俺を、指差した。



国分:「京本、ちょっと良いかな、」


男子:「おいおいおい、…あんま見せつけんなよなア、…!」


男子生徒達は幼稚に囃し立て、女子生徒達はハイハイまたね、と生温かい眼差し、…



宗次朗:「俺、一寸、醍醐先生の所へ連れて行ってきます。」


国分:「済まないな、」


ところが、暫く歩いた処で、「鐘森」は廊下で立ち止まって、しまう。



宗次朗:「どうした?」

鐘森:「怒、…る?」


宗次朗:「怒んないよ。」


もしかしたら、「鐘森」が喋ってるのを聞いたの、…実は初めてかも知れない。


そりゃ、喋れない訳じゃ無いんだから喋るだろうが、それにしても会って3週間目で漸くって、…凄い人見知りだな、



鐘森:「嫌、…い、」


「鐘森」は俯いたままで、じっと、俺の顔を、…睨みつけてる??



宗次朗:「え、鐘森、俺の事嫌いなの?」

鐘森:「違う、…そう、じろう、…が、…麗美のこと、…」


「鐘森」は、まるで最後の審判でも受けるかの様に脅えた表情で、俺の顔を、…見つめる、



宗次朗:「嫌いじゃない。 でも、…困った奴だナ。」

鐘森:「嫌いじゃ、…ない。…でも、困る?」


「鐘森」は、判決文の内容が理解出来なかった被告人の様に不安そうな表情で、俺の顔を、…見つめる、



宗次朗:「俺はこれでも「先輩」なんだからな、…呼び捨ては、駄目だろう?」

鐘森:「せ、ん、ぱい。…」




「アカリ先生」は、午後の授業中の筈だが、…チラリと覗いた美術教室には何故か姿が見えない、生徒達はワイガヤと、…銘々の作品作りに取り組んでいる。


宗次朗:「どこ行ったのかな?」

鐘森:「どこ、…かな?」


アカリ:「誰を探しているの?」


すぐ後ろに立っていた。







「アカリ先生」に連れて来られた特別教室、


アカリ:「実は今週から、鐘森さんは此処で他の生徒達とは違った、特別のカリキュラムを受ける事になっていたの。」


教室の中には、おじさんが一人、机に俯して、…まるで漫画の様に、頭を抱えていた。


しかも「ぶつぶつ」と、独り言を呟いている。



アカリ:「中村さん、」


中村:「ああー! 醍醐先生! どうしましょう! また逃げられてしまいました、…! もうおしまいですー! …あ、」



「鐘森」が俺の後ろに、身体を隠す。


アカリ:「この人が、プロジェクトの実行委員会から派遣されてきた特別授業の先生、」


中村:「先生って言っても、教員免許持ってるだけで、実際に教えた事なんて無いんですよ! それなのに、みんな自分がやりたくないもんだから、全部僕に押し付けて、…それなのに、夏休み迄に目に見える成果を出せだなんて、無茶苦茶ですよー!」



アカリ:「この人は、大変そうにするのが、趣味みたい、」

宗次朗:「変わった趣味ですね、」


どうやらここ最近の「鐘森」の逃亡は、この特別教師に対する苦手意識が原因らしい。



宗次朗:「でも、なんでそんなに焦ってるんですか?」


中村:「鐘森麗美さんは新英才教育カリキュラムのモデルケースなんです、特別な予算が組まれている分、定期的に成果を出さなけりゃならない、その締切が刻一刻と迫っているんだよー!」


宗次朗:「でも、こいつ、見てる限りそんなに天才っぽくないですよ、」

鐘森:「…こいつ、…」


「鐘森」は、俺の袖に隠れて、ぽっと、頬を赤らめる?



中村:「そうなんだよー、絶対何かの間違いなんだよー!」


中村:「そもそもどっかの大学教授の見立てが間違ってたんだよー、それなのに、無理矢理研究テーマに仕立てちゃって、企業から予算まで取って、マスコミにまで引っ張り出したりするからー、今更後に引けなくなっちゃったって訳なんだよー! それで、そのとばっちりを全部僕に押し付けて、尻拭いさせて、それで僕を抹殺しようとするなんて、あんまりだー!」


宗次朗:「間違ってたんなら、そう言えば良いんじゃないんですか?」


宗次朗:「鐘森は普通の女の子でした。って、」

鐘森:「…女の子、…」


「鐘森」は、俺の袖に隠れて、妙な目付きで、俺に、上目遣いする?



中村:「駄目に決まってるよ! そんな事したら、どっかの教授の顔を潰した事になってしまうじゃない! この世界はコネとネゴがキャリアを決めるんだよ、偉い人に逆らったらどんなに頑張りたくてもその機会さえ奪われて、僕はもう、研究者としてはやって行けなくなってしまうんだー、もう、おわったー!」



アカリ:「宗次朗は、それでもいいの?」

宗次朗:「どういう意味ですか?」


アカリ:「もしも鐘森さんが、普通の女の子だっていう事になったら、これまでの特別待遇は無くなって、受験をパスしなかった鐘森さんは、当然退学ということになってしまうのだけど。」


俺はハタと気が付いて、俺の後ろ隠れる「鐘森麗美」の脅える様な表情を、見る。


でも、本当はその方が、「鐘森」にとっても、良い事なのだろうか?



宗次朗:「鐘森、お前は、どうしたい?」


宗次朗:「この学校に残りたいか?…それとも、普通の女の子として生きていきたい?」


「鐘森」は、より一層 頬を赤らめて、俺の袖を、ギュッと握りしめる、


鐘森:「ここ、…居たい、…」


アカリ先生は、さっきから冷めた眼差しで、じっと、そんな「鐘森」の姿を見つめていた。



しかし、…

切っ掛けが何であれ、それが仮令間違いであったとしても尚、今の状況は現実に起こってしまった事であり、それは運命論者のいう所の「必然」に違いないのだ。


だったら、…全部をひっくり返して正直になる必要など何処にもない、何一つ引け目を感じる必要など無い。


だったら、…何を持って「鐘森麗美」がこの学校に残っても良いと、…言えば良い?


今必要なのは、本当の天才的な成果ではない。


そんなモノは、所詮凡人には理解できないからだ。

そもそも人は、自分の知っている事しか評価する事が出来ない。

そもそも凡人が、自分の理解を超えた天才を評価する事など出来ないのだ。


「鐘森麗美」が天才なのか凡人なのかは、つまり凡人には判らないと言う事なのである。


ただ一寸、凡人が驚く様な、凡人の理解をちょびっと超えてくる様な、その程度の成果を上げてやれば良い。…例えば、どっかの絵画コンクールで優勝するとか、何かの模試で満点取るとか、それ位の事でも構わない。


どっかの教授の面子が潰れない程度に、「鐘森」がやれる事をやればいい、


しかし、「鐘森」は丸暗記は得意だが、応用が利かない。

試験は、組み合わせで別の解を発想する事が大切なのであって、参考書を一冊全部暗記できるからと言って、必ず解けるものでは無い。


何か、妙案はないのか?




アカリ:「宗次朗、貴方にならできる事が有るけど、やる?」

宗次朗:「俺が力になれるのなら、やります。」


アカリ:「鐘森さんの、絵のモデルになってくれる?」

中村:「そうか、それでコンクールに参加するんですね!」


宗次朗:「それ位なら、お安いご用ですが、」



アカリ:「そう良かった。じゃあ、…ヌードで、よろしく。」

宗次朗:「え?…」

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