エピ036「初めての体験」

ベッドの上で、俺と「すず姉ちゃん」は添い寝して、

「すず姉ちゃん」が、俺の頭をまるで赤ん坊の様に胸に抱いて、優しく髪の毛を撫ぜてくれて、俺はセーター越しの柔らかな胸の甘い匂いを嗅ぎながら、


二人は、不思議な刻を、過ごしていた。


あれから、一体、どれ位経ったのだろう、…



涼子:「ゴメンね、私、一人で突っ走ってたみたいだね。」

涼子:「学校で、宗ちゃんを見て、ナンか、「運命」的な物を、錯覚してたのかも、」

涼子:「宗ちゃんと、相田さんが仲良くしているのを見て、何だか、凄く、羨ましかったのかも、」

涼子:「きっと、一人で、勝手に、寂しがっていて、一緒に居てくれる誰かを、求めていたのかも、」


涼子:「さっき、宗ちゃんに言われて、…私が、この先宗ちゃんの事を、好きじゃなくなる日が来るかもって言われて、」

涼子:「私、何で、宗ちゃんの事を、好きになったのかを考えて、判んなくなっちゃった。」

涼子:「こんなんじゃ、きっと、何時か宗ちゃんを傷つけるよね。」

涼子:「なんて私、自分勝手なんだろうって、ちょっと、悲しくなっちゃった。」


涼子:「宗ちゃんが、人を好きになる事に、臆病になってる事、知ってたのに、…ごめんね。」


「すず姉ちゃん」が、俺の頭を、ぎゅっと、抱きしめて、…

俺は、女性の乳房に埋もれて、全身に張り詰めていた辛い物が全部吸い取られて行くのを、実感する。



涼子:「実はさ、今日、駅で会ったのは偶然じゃないの。本当はずっと、待ってたの。」

涼子:「宗ちゃんに会いたくて、…待ち伏せしてたの。」

涼子:「でも、もう、そう言う事は止めるから、安心して。」

涼子:「もう、宗ちゃんに纏わり付いたり、しないから。」



俺は、「すず姉ちゃん」の腕の間から顔を上げて、

ちょっと、困った風に、俺の事を見詰めている「すず姉ちゃん」の顔を見る。


何だか、無性に恥ずかしい、…でも、何物にも代え難く、心地よい。


女の人に、甘える事が、こんなにも癒される事なのだと、初めて知った。

女の子が、本当に、自分とは違う生き物なのだと、初めて知った。







そうして何時の間にか、

俺は、「すず姉ちゃん」になら「弱音」を打ち明けても構わない、そんな「特別」を、感じ始めていた。



宗次朗:「すず姉ちゃん、俺、…」

涼子:「うん、」


宗次朗:「すず姉ちゃんに、何もしてあげられない自分が、嫌だ。」

涼子:「うん、」


宗次朗:「誰の事も、信じられない自分が、嫌だ。」

涼子:「うん、」


宗次朗:「裏切られて傷つく事ばかり気にして逃げ回ってる自分が、嫌だ。」

涼子:「うん、」


宗次朗:「俺、誰かを、好きになりたい。」

涼子:「うん、」


宗次朗:「誰かを、好きにならない振りをするのは、もう、嫌だ。」

涼子:「うん、」


宗次朗:「俺、どうすれば、良いのかな?」


どうすれば、正解なんだろう。

どうなれば、Good Jobなんだろう。


ただ一人の伴侶に出逢えたら?

異性とセックスしたら?

何をなし得たら、俺の人生に悔いは無かったと、言い放てるのだろう?


そもそも俺は、何に、怯えているのだろう?

異性と出会い、知り合い、触れ合い、探り合い、その途中で、心変わりする事なんて、幾らでも有る、上手く行かない事だって、幾らでも有る、


そんな事は理屈では判っている筈なのに、


何故、たった一つの失敗で、こんなにも、苦しむのだろう。

心とは、何故、こんなにも脆い物なんだろう。




涼子:「私も、知りたいんだ。」

涼子:「どうして、人を好きになるのか。」

涼子:「どんな風に、好きになれば、正解なのか。」


涼子:「本当に、私は、人が好きなのか。」

涼子:「本当に、私は、宗ちゃんが好きなのか、…」


涼子:「知りたい。」




俺は、「すず姉ちゃん」の顔を、覗き込む。

俺は、「すず姉ちゃん」の事が、少しだけ、判った気がした。


そうだ、「すず姉ちゃん」も、悩んでいるんだ、藻掻いているんだ、

だから、俺なんかを待ち伏せして、自分の「失恋」を告白して、それで、それでも又、前に進もうとしている。


俺はその、強さに憧れる。







涼子:「ねえ、一緒に、練習しない?」

宗次朗:「練習?」


涼子:「そう、これは練習なの。」

涼子:「宗ちゃんが、誰かを好きになる為の練習。」

涼子:「私が、本当に誰かの事を好きになれるのかの練習。」


涼子:「練習だから、失敗しても良いの。」

涼子:「練習だから、本当じゃなくっても良いの。」


「すず姉ちゃん」は、ベッドの上に腰掛けて、寝転がったままの俺を、優しく見下ろす。



宗次朗:「練習って、何するの?」

涼子:「私が、知っている所迄は、…私が全部、教えてあげる。」


それから「すず姉ちゃん」は、俺に、優しいキスをした。





それから、…

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