エピ034「確認される運命」

「円先輩」は、自分のコートをクローゼットにかけて、…恥ずかしそうに、頬っぺたを真っ赤にしながら、上目遣いする。



宗次朗:「先輩、何で、こんな所に、…入ったんでしたっけ?」


思い出してみるに、、


俺達は一旦駅から外に出て、無言の侭の「円先輩」に付いて行く形で、学校とは反対側の繁華街へ向かい、

「ちょっと、良いかな、」と、

「円先輩」はスイーツバイキングのノボリが掛けられた、結構上品そうなホテルの前で立ち止まり、

そのまま何も言わずにフロントへ、俺は暫くボーッと見慣れないロビーの風景を眺めていた、気がする、

「こっちだって、」と、

それから「円先輩」は俺に声をかけて、何が何だか良く判らない内にエレベータに、

最上階にレストランが有るんだ、等と、箱内の案内板を見ている内に、エレベータは5階で停まり、

まるで極普通の事の様に「円先輩」は廊下を進んで、俺は黙って付いて行き、

まるで極当然の事の様に「円先輩」はカードキーをかざして、507号室のドアを解錠、


で、今に至る。



涼子:「ゴメンね、怖かった?…よね、」

涼子:「でも私、絶対宗ちゃんの嫌がる事、しないから、…安心して、」


涼子:「宗ちゃんに、私の事、もっと、ちゃんと、知ってもらいたかったの。」


「円先輩」は俺の学生鞄を取って、それから俺の手を誘って、部屋に一つだけのベッドの上に、座らせた。



涼子:「それに、もしかしたら私、泣いちゃうかも知れないから。」

宗次朗:「あ、…」


「円先輩」は、すっと視線を逸らしながら、俺の隣に、腰掛ける。







それから、暫し、沈黙の刻が流れ、…



涼子:「暑いね、此の部屋、…暑く無い?」

涼子:「上着、脱ぐ?」


一体全体一切合切、実際、俺の思考回路はオーバーヒート状態で、…


「3こ上の綺麗なお姉さんと、二人きりでホテルの部屋?…」

「コレ、なんてギャルゲー??…」

「分岐点ちゃんとセーブ出来てたっけ???…」


ミタイに良い感じで、…パニック状態、



言われるが侭に動くゲームのキャラクター同然に、俺は制服のブレザーを脱いで、それを「円先輩」に手渡した。







それから、暫し、沈黙の刻が流れ、…



涼子:「知ってるよね、きっと、…私の「噂」、」


とうとう、「円先輩」は、口火を切る、…



涼子:「…あれ、…本当の、事だから。」

宗次朗:「あ、…」


ソレを、自分から告白する「円先輩」の気持ちが、…分らない。

俺に、何を伝えたいのだろう?

俺は、何を言ってあげれば良いのだろう?



涼子:「好きだったの、…彼の事、」

涼子:「彼に迷惑をかけるかも知れない事は、分ってた、」

涼子:「でも、抑えられなかった、…自分の気持ち、」


宗次朗:「好き、…?」


「円先輩」が、俺の手に触れて、…握りしめる。



涼子:「宗ちゃんは、誰かを好きになった事有る?」



多分、…有る。

中学の時、同級生の「西野敦子」の事を一方的に好きになって、本人が疎ましく思っている事にも気付かずにしつこくつきまとい、卒業式の日に全校生徒に知れ渡る様な方法で告白して、強引に、無理矢理に、「絆」を結ぼうとして、…泣かせてしまった。


それは「西野敦子」にとっては、只の迷惑でしかなかったのだが、…その時の俺に取っては、不可避で「運命的」な出来事だったのだ。


だから「円先輩」の言う「どうしても抑えられない気持ち」の事を知っているかと問われれば、俺はきっと、…知っている。



涼子:「彼とは、もう、ずっと会ってない、」

涼子:「今になってみると、どうしてあんなに好きだったのかも、思い出せないんだ、」

涼子:「不思議だけど、…」




それも、判る。

俺も、今にして思えば、何故、アレ程迄に盲目的に「西野敦子」の事が好きだったのか、思い出せない。

いや、実は、判っているに違いないのだ、…


俺と「西野敦子」との間には、「運命」、…しか、無かったのだ。


「運命」とは、同時並行的に進行する事象の関連を「意味づけ」したモノだ。


例えば、「鉛筆」と「消しゴム」が一つになった「消しゴム付き鉛筆」の発明は「運命」と言っても良いかも知れない。 しかし全ての「運命」が「消しゴム付き鉛筆」の様に、世の中に利益をもたらすとは、限らない。


例えば、俺の「父」と「母」が出逢ったのは「運命」かも知れない、そうして俺がこの世に生を受けた。

例えば、俺が日本の神奈川県に生まれて、暮らして、数少ない友人と巡り会えたのは「運命」かも知れない。


でも、世界の辺境で、戦争や飢餓に苦しんでいる子供の「運命」は、尊いと言えるのか?

或は、携帯電話の無い時代に生まれてしまった人間の「運命」は、間違いだったと言えるのか?


「運命」と「価値」とは、別物なのである。


もっと言えば、「運命」とは、与えられた「デフォルト設定」ミタイな物に過ぎないと言う事だ。


俺は「父」と「母」の間に、21世紀の日本に「運命」的に出現したのではなくて、「父」と「母」の間に生まれたのが「俺」なのだ。 つまり、「運命」を感じると言う事は、単に、「デフォルト設定」を読み返しているだけに過ぎない、と言う事だ。


ギャルゲーで言えば、「運命」とは、予め用意された「フラグ」に過ぎない。

そこから、正しく「何か」を始めなければ、イベントはハッピーエンドに向って、進行しない。


だから、俺と「西野敦子」の「フラグ」は、折れてしまったのだ。


では、俺は、どうすれば良かったのだろうか?…いや、

そんな済んでしまった事なんかよりも、…今、


俺は、何をしなければ、ならないのだろうか?







今、俺と「円先輩」の間には「運命」が出現していて、きっと、…俺達の選択を、待っている。



宗次朗:「すず姉ちゃんは、…俺の事、…好きなの?」


俺は恐る恐る、現状の「問題」を、再確認する、…



涼子:「…好き、」


「すず姉ちゃん」は俯いたままで、コクリと頷く、…




人は、小癪なくらい、簡単に、人を好きになる。

何しろ「運命」を確認したくらいで、もう、好きになる。


いや、正確には、好きになるから「何か」が始まるのだとも言える。


好きになると言うのは、お互いを探り合う気持ち、

何処迄 相手パートナーが信頼出来るのか、何処迄 相手パートナーに背中を任せられるのか、を探り合う行為。


だから、時には失敗する事が有っても良い。

だから、「何故、俺の事を「好き」になったの?」なんて聞く必要等、さらさら無い。

だから、こんなのは未だ、「恋愛」でもなんでも、…無い。




宗次朗:「すず姉ちゃんは、俺と、…どうしたいの?」


「すず姉ちゃん」が、俺の手を痛い程キツく、…握りしめた、







涼子:「…えっち、したい。」

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