エピ012「相田の気持ち」

そしてドアが開いて、


とっくに帰ったはずの、相田が顔を覗かせた。


玄関に入って来るや否や、



相田:「私は、良いと思う。うん、ありだと思うよ。」


って、お前は腐女子か?


「早美」都は、驚いて、顔を上げた。

少し困った顔の「相田」が、少し顔を赤めながら、…



相田:「人が、人を好きになる気持ちは、悪くない。全然悪くない。」

相田:「でもさ、こいつは駄目、だって「恋愛絶対否定主義者」なんだよ、誰に告白されたって、誰とも付き合わないって、」


相田:「実はさ、あたしも、こいつに告ったんだよね、一瞬で振られたけどさ。」


早美都が、信じられないモノを見た様な顔で、俺と、相田の顔を見比べる。



宗次朗:「ああ、それは本当だ。」

宗次朗:「二人とも、どうかしてるぜ、「絶対恋愛否定主義者」を舐めるなってんだ。」


早美都:「僕、二人は付き合ってるって、思ってた。」

宗次朗:「有り得ないな、言っただろう、俺は、誰とも恋愛しない。恋愛なんてものは、資源の無駄以外の何物でもないからな。」


相田:「ほらね、こんなつまんない奴、幾ら口説いたって駄目だって、」


相田:「だけど、早美都君が、こいつをずっと好きでいるのは、全然悪くない。」

相田:「私も、今でもこの馬鹿の事、…す、きだし。」


相田:「なんか、ほっとけないんだよね、危なっかしいって言うか。」


ほっておいてください。



相田:「でも私は、諦めない。隙あらばこいつを陥落するよ、」

相田:「早美都君はどうする?」


早美都:「良いの?」

相田:「こいつには一生わかんないだろうけどさ、恋愛って、自由じゃん。」



その内に「早美都」も心変わりするかもしれない

今日の自分の気持ちを、黒歴史の様に思い出すかもしれない

だから、心が傷つかない様に、今の「早美都」の気持ちをイケナイモノだと決めつけない様に、

一回日常へと引き戻した「相田」のやり方は、

優しくて、恐らくそんなに間違ってはいない。


多分「相田」は、最初からこうするつもりだったのだろう。



「早美都」の家からの帰り道、ずっと無言だった二人の沈黙に耐えきれなくなって「相田」が大きな溜息を吐いた



相田:「はぁあ、」

宗次朗:「この、嘘吐きめ、」


相田:「何が?」

宗次朗:「俺の事、好きだとか、適当な事言いやがって。」


相田:「良いじゃない。アンタに迷惑かけてないでしょ。」

宗次朗:「無暗に、人を勘違いさせる様な事を言うんじゃねえよ。」


相田:「あら、とても「失恋王」のセリフとは。思えませんなぁ、」


多くの場合、嘘とは相手を傷つけない為のテクニックだ。


人は、誰だって本当の自分を曝け出したりはしない。

本当の自分の事を受け入れられるのは、自分以外に居ない事くらい知っている。

だから、相手にとって優しい自分を演出する事は、誰に咎められる謂れのある様な事では無い。


神様が見ているかって?


いや、かくいう神様自身が、人を嘘吐きに作ったのだ。

人間の遺伝子マップには、自分自身すら偽って、子孫繁栄の為にあらゆるリスクを乗り越える仕組みが、ぎっちり埋め込まれているのだから。

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