エピ008「涙の理由」

次の日、「早美都」と先輩は相変わらず休みだったが、結構あっけらかんとした「相田」が部活にやってきた。



宗次朗:「昨日は、どうしたんだ? 急に、あんな事になるから、その、心配したぞ。」

相田:「ありがと、」


相田:「私ね、振られちゃった。結局撮影合宿も行かなかったの。泣きのGWだったな、いやぁ、なんか損した気分。」


宗次朗:「振られた、相田が?」

相田:「それは、一応、褒め言葉と思って良いのか?」


「相田」は、誰かに打ち明けたくて、辛いのを我慢して、此処までやってきたのだろう。

「相田」の顔は、折角の美人が台無しになる位、しおれていた。



相田:「彼、ほおっておけない子が居るんだってさ、彼女の私の事は、ずっと放りっぱなしだったくせに、よく言うよね。」

相田:「何が、いけなかったのかな? 私、しつこくしたかな? 重かったかな?」


健気を振る舞う「相田」の長い睫毛は、今にも涙で崩れ出しそうだった。


これまで、あんなに嬉しそうに楽しそうに惚気ていたのは、もしかしたら希望的観測に縋る、不安の裏返しだったのだろうか? こんな心変わりが、たった一日二日で起こるとは、考えられない。 もしかしたら相田は、ずっと、一人で不安に耐えてきたのかも知れない。どうして、そんなにも、


いや、何を言っているんだ? 俺は、知っているじゃないか。


人は、どんな不利な状況も、どんな悪い噂も、自分と思い合う相手との間の「運命的な絆」をひっくり返す事など不可能だと、夢見てしまう、勘違いしてしまう、思考停止してしまう。


だからやはり、恋愛なんか、俺は信じられないのだ。



宗次朗:「それは、ただの、生物的な男と女の感じ方の違いに過ぎない。 男は手に入れる事に必死になり、女は逃がさない事に躍起になる。」

宗次朗:「相田の彼は、一度手に入れてしまった相田の事よりも、まだ自分のモノになっていない別の誰かを欲しがったんだ、例え相田の方がどんなに上等な女だったとしてもだ、」


宗次朗:「つまり、これは全くお前の所為では無くて、これは生物的なごく普通の反応だって事だ、」

宗次朗:「だから、恋愛に運命を重ねて絶望を感じる事なんて、馬鹿げてる。」


宗次朗:「イチイチ気にするな。」


相田:「そんなの、…無理に決まってるじゃない。」

相田:「こんなに好きだったのに、こんなに好きなのに、…なんで、アンタに言われなきゃなんないのよ。 そんな事、わかってるわよ! そんなこと、言ったって、…」


とうとう、「相田」はなりふり構わずに大声を上げて、泣き出してしまった。



宗次朗:「まあ、待っててやるから、泣きたいだけ泣けば良い、」


「相田」は机に突っ伏したまんま、15分位は喚き、5分位泣きジャックリし、それから、漸くストレス物質を出し切ったのか、それとも飽きたのか、…


一度大きな溜息を吐いて、うつ伏した格好の侭で、…呟いた。



相田:「どうして、優しくしてくれるの?」

宗次朗:「まあ、失恋がきついのは、俺も知ってるからな、」


相田:「下心とか、無いよね。」


今度は俺が溜息を吐く。



宗次朗:「ねえよ、そんだけ毒づけるんなら、もう平気だな。」

相田:「平気な訳無いじゃない、なんか奢って。」



宗次朗:「もう諦めるんだな、遠くの美人より近くのブスって言うだろう、」

相田:「それって、私の事美人だって、言ってくれてるの?」


今泣いた「相田」が、一寸だけぐしゃぐしゃの顔を晒して、照れくさそうにちょっとだけ笑った、


勿論だからと言って、俺と「相田」が良い関係に発展する事など、有り得ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る