第040話「狂気からの帰還」

想像以上に大きな音がして、…


僕は、全身を震わせて、必死に痛みを切り離そうと、…身構えるが、



男の声:「動くな!」


誰かが、…大勢の人間の足音が、…

雪崩込んで来た?


ドタドタと、床を蹴る音、



男の声:「居ません!」

男の声:「探せ、未だ遠くに入っていない筈だ、」





誰かが、僕に覆い被さって来る、



シオン:「うううぅ!」

ホノカ:「大丈夫! …もう、大丈夫だから、」


柔らかな温もりが、僕をしっかりと包み込む、



ホノカ:「目隠しを外すよ、」


開き切った瞳孔に、一気に光が飛び込んで来る、…


僕を拘束していたベルトが、一つずつ、外されて、…

猿轡が、解かれて、…


指に枷られた、金属製の治具のネジが、緩められて行く、



シオン:「はぁ、はぁ、…」


指は、?

巨大なニッパの刃が食い込んだ小指の第2関節から、強か出血している、でも、


指は、ちゃんと、付いていた、…



シオン:「痛っ!」


ちゃんと動くか知りたくて、曲げようとした途端に、鈍痛が走る!



ホノカ:「ごめんね、もっと早く、来て上げられれば良かったね、…」


「新橋さん」が、グッタリと自由になった僕の上半身を、もう一度しっかりと、…受け止めた、







僕が監禁されていたのは、大阪と奈良の県境の山の中にある、廃墟となったレストランだった、…


犯人達は警官隊の到着に気付いて、一瞬早く逃走、現在も未だ見つかっていない、


と言う事は、

もしも、後ほんの少しでも、警察の到着が遅かったら、…


僕の指は切断されていた、と言う事か、



僕はそのまま近くの緊急病院に搬送されて、

怪我の手当と、血液採取、幾つかの検査を受ける、


個室タイプの病室で、刑事から質問を受け、


それで、暫く一人きりで天井を眺めていると、…

「新橋さん」が、開け放したままのドアをノックした、



ホノカ:「どう?…少しは落ち着いたかな?」


そんな訳が無い、

揺り返しの様に、緊張と、不安と、後悔が、何度も何度も、反芻する、



シオン:「犯人は?」

ホノカ:「残念だけど、まだ捜査中、」


シオン:「僕を、どうするつもりだったんでしょうか?」

ホノカ:「今は未だ分らない、でも必ず掴まえるから、安心して、」


あの「男の声」の事は、全部刑事に話した、

僕は「アリア」への見せしめの為に、殺されかけた、


でも、…



シオン:「新橋さんは、どうして?」


僕は、重い目蓋の下から、もう一つの疑問を覗き込む、


「新橋・ホノカ」は国家プロジェクトのトップメンバー「山根・コウジ」のボディガード、セキュリティポリス、


「山根さん」と一緒に大阪の府知事選応援イベントの為に大阪を訪れている事は知っていた、でも、それがどうして、僕の誘拐事件に関わってくるんだ?



ホノカ:「連絡があったの、」


「新橋さん」は、警察手帳と一緒になっているスマートフォンを、僕に見せる、


LINEのトークに書かれた、メッセージ



トーク:「助けて下さい、」

トーク:「シオンに危険が迫っています、」


そして添付された、

僕が、救急車に乗り込む写真、


後は只管ひたすら、3つ揃いの数字の羅列が続く、…



ホノカ:「シオン君のIDからLINEに送られて来たの、」


ホノカ:「この数字、最初は何の事だか分らなかった、…偶々詳しい人が居て、「山根さん」って人なんだけど、これは自動運転自動車の位置情報と同じフォーマットだって、…つまり、犯人の車の走行経路を示していたの、」


ホノカ:「貴方が悪戯でこんな事をする訳が無い事は分っていたけれど、府警を説得するのに、少し手間取っちゃった、怖い想いさせてゴメンね、」


そう言って「新橋さん」が、もう一度、僕を抱きしめる、


再び、柔らかな温もりが、胸の中にポッカリと開いた空洞を、…

少しずつ、少しずつ、満たして行く、




ホノカ:「でも、幾つか謎は残ってるの、…まず、一体誰が、このメッセージを送って来たのか、と言う事、」


それは多分、推測の域を出ないのだけれど、「アリア」に間違いなかった、


僕は、「アリア」の所為で殺されかけて、「アリア」のお陰で九死に一生を得たのだ、



ホノカ:「後一つ、犯人が使っていた車は、自動運転自動車じゃ無い、普通の車だったの、どうやって正確な位置情報を掴んでいたのか、…コレも未だ分っていない、」







その後、見舞いに訪れた家族と「ナギト」達も引き上げて、

僕は又、一人きりになる、


消灯時刻を過ぎた薄暗い病室内に、ふと視線を感じて、…見上げた天井に「小さな監視カメラ」、



シオン:「もしかして、今も見てるのか?」


まさか、カメラが返事する訳も無し、…



しかし一度キッチリと、やって良い事と悪い事を言い聞かせる必要は有りそうだ、


四六時中覗かれ続けているのは、幾らなんでも容認しかねる、…


僕だって、健康な男子なんだ、

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