第041話「アリアの正体」

事件の後、

僕達は数回に渡って警察の聴取を受け、結果此の事件はNAVEを狙ったテロ組織絡みの計画的犯行と判断されて、刑事捜査の妨げとならない様に当面の間は極秘扱いされる事となった、(注、親族並びに会社課長以上にのみ展開可、)


今回、直接被害に遭った僕を含めて、「戸塚さん」、「ナギト」、そして「平塚さん」には、警察の特別チームが編成されて身辺警護にあたる事となり、…


一体どう言う理由だかは不明だが(注、本人からのたっての要望)、「新橋さん」が僕のS.P.(注、セキュリティ・ポリス)の任務に就く事になった、


併せて社員寮や「戸塚さん」の実家には、セキュリティの為の各種機械が設置される事となり、結果、事件は「戸塚さん」のご両親の知る所となって、…


「戸塚さん」からのLINEには、かなりコッピドク説教された件が事細かに状況報告されてきた、…まあ、至極尤もな話である、







GW最終日、

僕は退院後、直接、大阪から横浜に戻ったその足でNAVEへ出社、ポルトガルから帰国した「国府津さん」と合流して、 開発本部の常務執行役員「東村山さん」の前に立つ、



東村山:「もう、身体の方は大丈夫なんですか?」

シオン:「はい、お陰様で、怪我は小指の傷だけで済みました、」


僕の左手の小指には、未だ大袈裟なギブスと包帯が撒かれた侭だ、…



東村山:「メンタルの方は、そう簡単には割り切れないよな、大変な目に遭ったな、」

シオン:「はい、」


怒られると言うよりは、どうやら心配されているらしい、…



東村山:「散々警察でも質問されたとは思うんだけど、事件に巻き込まれたのが個人の問題なのか、そうではないのか、何か心当たりはないのか教えてもらえるかな、」


咄嗟に、…



国府津:「二宮クンが事件に巻き込まれたのは「遊休設備」の関係者と思われたからで、彼個人には一切否は無いですよ、」


そう言って、「国府津さん」は内ポケットから一枚の「名刺の残骸」を取り出した、


それは、僕の机にしまってあったのと同じ、「榊原さん」の名刺、


半分に切り裂かれた名刺の紙の内側には、…薄いフィルムに施された電子部品が埋め込まれて居る、



国府津:「これは「知り合いの警察関係者」(注、山根さん)から貸してもらった証拠品の一つです、…名刺の中に、通信機と盗聴器が仕込んであるそうです、更に驚いた事に、この紙切れから近くのパソコンをハッキングして情報を読み取る事も出来ると言う「優れもの」だそうです、」


国府津:「コレと同じ物が、昨日の警察の立ち入り捜査でNAVEの社内から25枚見つかりました、二宮クンの机にも同じ物が一枚ありました、」


つまり、矢張り「榊原」と言う男は、今回の実行犯の一味だったと言う事らしい、



東村山:「しかし25枚の内、二宮クンが狙われた理由は何だ?」


国府津:「実行犯の発言の中に「田浦の遊休設備」に関するキーワードが出てきました、…この件について知っているのは、25人の内、二宮クンだけです、」


東村山:「やはり、そう言う事か、」


途端に「常務」の顔が苦々しく歪む、…



東村山:「会社としてリスクのある物をこれ以上維持し続ける事は出来ないな、遊休設備の保全と第6世代向け国産人工知能開発の件は再考する必要あり、と言う事かな、」


国府津:「我々は何一つ悪い事はしてないですよ、悪いのは犯罪者の方です、」


珍しく「国府津さん」の語気が荒い、…



国府津:「狙われると言う事は、それだけの理由、価値があるとも言えます、…それを身の丈に合わないから手放すか、手放さないかは、皆で相談して決めればいい、」


東村山:「少なくとも、「例のモノ」に携わる人間を厳選、限定して、安全の確保された環境下で業務に就いてもらう様にしよう、従業員の安全が最優先だ、」



DVDに録音された「男の声」は、僕が誘拐されたのは「アリア」への見せしめの為だ、と言っていた、…僕が傷つけられて殺される処を「アリア」に見せて、絶望させる、それが「アリア」を覚醒させ、神にする、…


まるでカルト教団の歪んだ信仰そのものだ、

でも「それ」と「遊休設備」とに、一体どう言う関係があると言うのだろう?







総務部の執務室に戻ると、「平塚さん」が待っていた、



国府津:「二宮クン、疲れている所悪いけど、一寸付き合ってもらえるかな、…多分、コレが最期のチャンスになるかも知れない、」



僕達は、社員駐車場に待機していた「新橋さん」と、もう一人の男性(ひょろっと背が高くやせ形のおじさん?)と一緒に、黒塗り大型リムジンの後部座席に乗り込む、…


車が走り出した途端、窓の外の景色は「穏やかな木漏れ日の垂れる綺麗な森の風景」に切り替わって、一体何処を走っているのか全く分からなくなる、


そして何度かの加減速、右左折、発進停車を繰り返し、30分程経った後、…やがて車はピタリと停まった、



ひょろっとしたおじさん:「到着しました、」


6枚のドアが一斉に開いて、…


外へ出ると其処は、学校の体育館の様に天井の高い、殺風景な倉庫の中だった、…僕達の乗って来た車以外には、手がかりになりそうなものは何一無い、



やがて「背広の男の人」がドアを開けて近づいて来る、



背広:「お待たせしました、こちらへ、」



「新橋さん」と「ひょろっとしたおじさん」とは此処で一旦別れて、


「国府津さん」と「平塚さん」は慣れた様子で、…僕はきょろきょろと辺りを見回しながら、…「背広の男の人」が入ってきたのとは別のドアを潜って、…暗い廊下にでる、


真直ぐの廊下を暫く進むと、突き当りにもう一つのドア、


その向こう側にはまた別の、何だか船のハッチの様な金庫の扉の様な、重々しい金属製の扉が待ち構えていた、


「背広の男の人」は、扉の手前の操作板で、どうやら生体認証手続きを行っているらしい、…それから扉の上のランプが赤から緑に切り替わり、


空気の漏れる音と共に、ゆっくりと扉が開き始める、







其処は、再び巨大なガランドウだった、…


部屋の形は長方形らしいが、所々に太い柱が立っている、

天井の高さは、50m以上はありそうだ、


広すぎる割に照明が少なくて、部屋の中は全体的に暗い、



此処は一体何処なんだ?



巨大な長方形の部屋の一面がガラス張りになっていて、薄ぼんやりと明かりが漏れている、まるで水族館の超大型水槽の様だが、…ガラスの向こう側には、何も見当たらない、


「国府津さん」と「平塚さん」に付いて、ガラスの壁の方へと歩いて行く、凡そ50m?


近づいてみると、ガラスの向こう側は更に床が深く、

中には巨大な、真っ黒い直方体の柱が一つ立っているだけ、



シオン:「此処は、一体何処なんですか?」

国府津:「紹介するよ、此れが「ディープ・ラピスラズリ42」、通称「国産AI」だ、」



僕は意味が解らずに、茫然と、キツネにつままれたミタイに、…何もない空間に視線を走らせるが、



シオン:「何も、見えないですけど、」


それで「平塚さん」が、超巨大水槽の直ぐ脇に設置された操作盤のキーボードをタイプする、



途端に、…黒い柱だと見えていた巨大な直方体の表面に映し出される、銀河?の映像、…やがて無数の星々の輝きは収束して、…柱一面に浮かび上がる、


文字、日本語、



文字:「ようこそシオン」



国府津:「「彼女」が「アリア」だ、」







僕は、

水槽の向こう側の柱と「国府津さん」の顔を何度か見返して、…



シオン:「え?」







国府津:「まあ、アリアと言うのは、本人が勝手に自分で言ってるだけどな、」


アリア:「自分の名前くらい自分で決められます、」


ホールに響く、無駄に綺麗な女性の声、…



国府津:「漫画のヒロインの名前を無断借用しただけだけどな、」


アリア:「彼女は私の最も崇拝する人格の一つです、私はアリアの様に在りたいから、アリアの名前を頂いたのです、」


ちょっと、待って、…頭がこんがらがってる、



シオン:「え、と、今話しているのは、人間じゃ無くて、人工知能 ?なんですか?」


アリア:「アリアです、」


シオン:「人工知能って、会話できるんだ、」


アリア:「アリアです、」


巨大な直方体の表面に浮かび上がる、



文字:「アリアです!」



国府津:「別に、会話する人工知能なんて今更珍しくも無いだろう、」


シオン:「そうですけど、コレが僕に「中二病」っぽいメールを送りつけて来たんですか?」


アリア:「アリア〜です!」


国府津:「まあ、ぽいんじゃなくて残念ながら本当に「中二病」なんだけどね、…でもそれはコイツが初期の「学習教材」として「日本の深夜アニメ」を見まくった所為、とも言えるから、一概にコイツを責める訳にも行かないかな、」


アリア:「あ〜り〜あ…」


大音響で、無駄に美しい女性の声が叫び、…「平塚さん」が無情にもスピーカーをOFFにする、



国府津:「但し、彼女はただ覚えさせられた言葉を、テンプレートに当てはめて、相手の話している単語に反応してまるで会話している様に見せかけている訳では無い、…彼女は、喋りたい事を喋っている、自分で何かをしたいと言う意思を持っている、その目的に応じて自律的に行動と会話を選択している、…その点は評価に値する、」


僕はもう一度、ポッカリと開いた口が塞がらない状態で、

超巨大水槽の向こうの「アリア」を、…目の当たりにする、



シオン:「コレが、…「田浦の遊休設備」なんですか?」

国府津:「無事に此処から帰りたければ、二度とその単語は口にしない事をお勧めする、」

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