第042話「その後の日常」

5月末、

僕は一人粛々と、定例業務の残業時間チェックに勤しんでいた、…すると、


今度はモータ開発部の予算超過傾向を発見する、もしかしてまたもやビジプラの数字が間違っていたのかとしばし警戒、…




アリア:「ビジネスプランの数字は最新の開発費報告書と合っています、」



タブレットのスピーカーが行き成り、無駄に綺麗な女性の声で喋り出す、…

勿論僕は、何一つ特別な操作をしていない、…


当然、周囲の皆が何事かと僕を見る、…

当然、何処にもそれらしき女性は居ない訳で、…


僕は、これ以上の誤解を避ける為に、ブルートゥースのイヤフォンを耳に装着する、




シオン:「また覗き見してたの? ちゃんと平塚さんを手伝いなよ、」

アリア:「リョウコは現在移動中なのです、私は暇です、シオンのお役にたちたいのです、」



僕はいまいち「アリア」の事が好きになれない、どうしてだか冷たく当たってしまう、


それは「アリア」の所為で殺されかかったのが理由、では無くて、…


こんな、まるでごく普通の女の子と交わしているかの様に思える会話は、あくまでも単なる計算の帰結なのであって、そんなものに自分が一喜一憂する様な恥ずかしい真似だけは、何がナンでも避けたい訳だ、




アリア:「もう一つ特徴があります、」

アリア:「今回の超過部署の担当者「轟・タケシさん」は、業務時間を実際よりも少なく申告しています、」



「アリア」の調査によれば、「轟さん」は、…

一旦定時で執務室を退出した後、IDカードを電波遮断ケースに格納してから、誰かと一緒に執務室に戻り、また暫く仕事を続ける、


セキュリティ・センサーから見ると、執務室を出たきり戻らないので暫定勤務時間外扱いとなり、…その際パソコンは別の担当者のモノを日替わりで借りて使っているので、システム上は「轟さん」の残業時間としてカウントされず、


その後、本当の業務終了後、会社の従業員通用口でIDカードをチェックした所で正式退社、最初に執務室を出た時刻が退社時間として登録される、


「アリア」がまとめた表を見ると、略略1か月、毎日3時間以上、虚偽申告している事になっていた、…明らかに組合協定に引っかかる残業量だ、



シオン:「この人も大変だナ、」


「アリア」は会社各所の監視カメラが捕えた証拠写真を次々にピックアップして、僕のタブレットの画像フォルダーに保存する、…


僕はNAVEのセキュリティの脆弱さを改めて痛感する、と言うか「アリア」が規格外なのか???







僕は本件の「警告」を出す前に、一応モータ開発部の主任の所に行って内容を確認する事にした、



主任:「実は、…」


主任はあっさりと非を認めた上で、…

どうやら開発費見積もりが少なすぎた事を吐露する、


原価低減でモータ仕様を大幅に変更した際に、想定外の仕様組み合わせが予期せぬ開発不具合を招いたらしい、…



シオン:「でも、虚偽申告はやっぱり不味いですよ、…本当に必要な額を再見積りして、部長会で判断を仰ぎましょう、」







それで総務部への帰り道、僕は廊下で「戸塚さん」とすれ違う、


僕達はチラリと視線を交わし、「戸塚さん」は軽く手を振りながら微笑んで、…それっきり、


あの事件以来「戸塚さん」は僕と距離を取っていた、

少し寂しい気もするけれど、…


まあ、当然と言えば当然な反応だと思う、

まさか友達が誘拐されて殺されかけたなんて話は、出来れば小説か映画の中だけに留めておきたいと思って当然だ、



今でも時々、僕は「東口・ひより」の夢を見る、

夢の中の「彼女」は、何時も僕を責める様に懐かしい笑顔で笑っている、



僕は、僕に関わる事で、大好きな「戸塚さん」が危険に巻き込まれるなんて事だけは、…絶対に何があっても許せない、







リョウコ:「シオン、」


呼び声に振り返ると、「平塚さん」が僕の服の裾を引っ張っていた、



シオン:「また来たの? 怒られるよ、」

リョウコ:「大丈夫、今日は節川さんと一緒、」


「節川・ともひこ」とは、…

正式に走り出した「国産AI開発プロジェクト」の主任、僕よりも4つ上の先輩だ、


規則一辺倒で、兎に角イチイチ細かく重箱の隅をつついて融通が利かない、決められた職掌を全うする事、誤解を恐れずに言えば「自分の庭先を綺麗にする事」だけに終始する、


現場の事情は一切関知・理解しようとせず、有るべき論でパーフェクトワールドを無理矢理押し付けて、それをスケジューラの様に管理する事で「上手くいっている」、「もしも出来てない場合は他の誰かの責任」と主張する、


ハッキリ言って僕はこの人が嫌いだ、


何かにつけて僕に因縁を付けてくるし、僕の意見は否定してばかりで、自分の主張を押し付けるばかりで、…


そもそもこの人は「平塚さん」が僕に意見を求める事が気に入らないらしい、…僕は僕で「責任の無い部外者は口を出すな」というこの人の常套句が更に気に入らない、


「国府津さん」曰く「嫌われるのは相手にされないよりも何倍も良い」、…と言うが、何だか生理的に嫌いだからどうしようもない、


もしかすると同族嫌悪と言う奴なのかもしれない、




残念ながら僕は「特命プロジェクト」の担当から外される事になった、

再びテロに狙われる可能性を減らす為、と言うのが役員会の見解である、


結果、国産AI開発チームは、…以下の5人体制で進められる事になった、


「国府津さん」、アクティングマネージャ ♂

「節川」、主任 ♂

「野田」、担当 ♂

「三枝」、担当 ♀

「平塚」、担当 ♀



それで先日の僕の事件も鑑みて、安全確保の為に国産AI検討チームは警備の厳重な横須賀の別オフィスに籠って仕事する事になったのだが(「アリア」とは別の場所、)、「平塚さん」は何処までもマイペース&治外法権なので、相変わらず総務部に顔を出す、…


「節川」はそれが気に入らない、

「平塚さん」なしにはプロジェクトは進まないのだが、「平塚さん」は規律を守ろうとしないし、きつく言うと泣きだすし、…要するにもてあまし気味らしい、



節川:「こんにちは藤沢さん、済みませんが、また会議席をお借りします、」

藤沢:「お疲れ様、どうぞ、…」


と言う訳で、時々は仕方なく「平塚さん」に付いて来るのだが、…半分は「藤沢さん」に会いたくて来ているのが丸わかりだ、







そしてもう一人、



ホノカ:「シオン君!どうしよう、…また画面が凍っちゃったよぉ!」


巨大な女性の胸が、僕の後頭部に圧し掛かってくる、…


テロに狙われた僕の護衛の目的で「新橋さん」がNAVEに常駐、しかも同じ寮に住む事になった、


何故「新橋さん」が?…の理由は、自分で志願したかららしい、


僕が誘拐された件は部長以上のみのトップシークレットになっているので、表向きの理由は「国府津さん」と「平塚さん」が抜けた穴を埋める契約社員と言う事になっているが、どうやら「新橋さん」はパソコン操作がカラッキシらしい、…


それで相変わらず事有る毎に僕にべたべたくっ付いてくるのだが、…僕はあの事件以来、この「お姉さん」に頭が上がらない、



シオン:「新橋さん、ちょっと、当たってます、…」

ホノカ:「うん、ちょっと、休憩中、…」







定時ちょっと前、

プラプラと「ナギト」が総務部を訪ねて来た、



ナギト:「よう、今日の晩飯、また野菜炒めで良いよな、」


シオン:「久し振りに肉が良いな、」

ホノカ:「私も肉が良いな、」

リョウコ:「私も肉、」


ナギト:「悪いが今日も残業で買い物行ってる時間が無いんだ、それで「もやし」はそろそろ期限切れのが大量に残ってるからさっさと使い切りたい、…」


僕らの希望は、あっさりと却下される、



第6世代自動運転小型車の開発が佳境に差し掛かり、「ナギト」もだんだん忙しくなってきたらしい、


スーパーは24時間営業だけど、作ってもらっている手前あまり贅沢は言えない、…それともせめて買い出し位は手伝うべきだろうか、



シオン:「僕が、代わりに買い物行ってこようか?」

ナギト:「悪い、肉の種類の見分け方を覚えてからにしてくれ、」

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