第038話「絶望へと続くプレリュード」

再び「難波」へ向う「ナギト」達と「東梅田」の駅で別れ、

僕は「東通り」を奥に入った、一軒のお洒落な居酒屋の前に立つ、


スマホで店の名前を再度チェック、…



シオン:「本当に此処で合ってるよな、」


処で僕は、此の店に辿り着く迄に3回、色々な男性方から声を掛けられていた、



店員さん:「いらっしゃいませー」


バニーガール姿の女性が登場、



バニーA:「お一人様ですか?」

シオン:「えと、三田研の同窓会か、葛西の名前で予約入ってると思うんですが、」


僕は、是見よがしな胸の谷間から、目を逸らす、…



バニーA:「はい、お連れ様ですね、ご案内します、」


僕の前に立って颯爽と歩いて行くバニーガールのお姉さん、

僕は、お尻に付いた白いフワフワの尻尾がヒョコヒョコ揺れているのから、目を逸らす、…



カーテンで仕切られた奥の一画に、4卓で20人程座れる貸し切りスペースが出来ていた、



葛西:「あ、にの先輩! いらっしゃい!」

三田教授:「おう、よう来たな、まあ座れや、」


一番手前に座っていた「葛西」が元気よく手を振りながら、飛び出して来た、

「先生」は、ナンだかもう出来上がってる?


懐かしい顔ぶれがチラリと僕を一瞥する、…でもまあ、それっきり、

まあ、そんなに皆と仲良くしていた訳じゃないし、…



葛西:「お久しぶりです!」

シオン:「元気?…そうやな、」


葛西:「えー、そんな事無いですぅ、先輩おらんから欲求不満です、」


「葛西」は僕が院2の時の直属の後輩、所謂「弟子」だった、…



シオン:「葛西も今じゃ研究室の最年長か、あの葛西がなぁ、…」

葛西:「にの先輩、取り敢えずお金下さい、」


僕は財布から今日の会費と「葛西」に立て替えてもらっていた「先生」へのプレゼント代、合計10000円を取り出して「葛西」に手渡す、



葛西:「今日は遅うまでおれるんですか?」

シオン:「一次会で帰るよ、…皆も、僕がおらん方が気兼ねせんでええやろ、」


僕は研究室で友達を作る気なんかなかったし、週間成果報告会ではいつも細かい突っ込みを入れていたから、どちらかと言えばウルサガタの面倒臭い人間だと思われていた、



葛西:「そんな事ないですよ、にの先輩が「場の雰囲気台無しにする」の、私結構好きなんですけどぉ、…」


何のフォローにもなってない、…



シオン:「ちょっと、先生に挨拶して来る、」

葛西:「あ、先輩、飲み物、何時もの(黒ビール)でええですか?」



三田:「よう、久し振りやな、どこ入ったんやっけ?」

シオン:「ご無沙汰してます、NAVEです、」


三田:「大手やな、で、調子はどう? うまい事いってんの?」

シオン:「今は、開発総務でビジネスプランを担当してます、」


一瞬、テーブルを囲んだ、先輩や、同期や、何時も僕にコテンパンな質問攻めに遭っていた後輩達の視線が、僕の背中に突き刺さる、…


もしも「特命プロジェクト」の件が無かったら、僕はこれほど迄素直に報告する事が出来ただろうか?


この一ヶ月で、総務部の重要性も、僕がどれ程矮小な人間であるかも、身を以て知った筈なのに、…改めて僕は、相変わらず自分がどんなに見栄と虚勢に塗れた人間であるかを、実感する、



三田:「ふーん、院卒で総務って珍しいな、やっぱ大手は厳しいんかな、」

シオン:「会社のビジネスとか、未だ未だ判らない事ばかりで苦労してます、」


三田:「せやけど勿体ないな、いっぺんNAVEの人事に口利いたろか?」

シオン:「有り難うございます、でも未だ研究の道が閉ざされた訳や無いんで、これも良い勉強やと思ってます、」


三田:「そうか、まあ、君がソレでええんやったら、かまへんのやけどな、」

シオン:「はい、…先生は、一応おめでとうございます、でいいんですか?」


三田:「どやろな、俺は正直海外とか苦手なんやけどな、ロスの姉妹校の客員教授として2年間の赴任になった、…半分は君のお蔭やで、覚えてるか「学部の時の秋の学会」、」


シオン:「えと、どれでしたっけ?」


なんせ、学部(大学4回生)の時は、国内外合わせて年に10回以上学会発表していた、



三田:「ほら、「正義の問題」に盾突いた論文あったやろ、君が「オタフク風邪」で急に出席でけへん様になってしもて、共同研究者の俺が代理で発表した「名古屋の学会」や、」


そう言えば、そんな事有ったな、…



三田:「あの時のネタが今結構注目されとってな、共同研究テーマにして3か月毎の交換留学始める事になったんや、その現地サポートで俺も呼ばれたっちゅう話や、」


「正義の問題」とは、自動運転自動車が歩行者、対向車、ドライバー、同乗者、その内の誰かを傷つけなければならない様な運転シーンに遭遇した場合、機械である自動運転自動車が選択した行動による結果=人的被害を、一体誰が補償するのか、と言う問題である、


一般的には、歩行者と車が共存する走行区域の運転速度を極めて低く設定する事で、事故回避行動を取りやすくし、万が一の場合の物理的被害も少なくすると言う方策がとられているが、…


学部の時の研究で、僕は自車と対向車の「協働」によって更に人的な被害を縮小する可能性を提案した、


つまり、最弱者である歩行者の安全を第一優先に、自車と接触事故を起こす可能性のある歩行者が付近に居る場合、付近を走行中の別車両からの情報で歩行者の位置情報を共有し、更に場合によっては別車両=対向車が自車の進路妨害する事で歩行者との接近接触を回避すると言う結構過激な内容だった、


自動運転自動車同士はお互いの位置をセンサーで確認し合えるので、余程の事が無い限り接触事故を起こすことは無い、その自動車自身が歩行者の盾になるというコンセプトである、



三田:「それが今、一種の「競技」になっててな、様々なロジックがシミュレーションとか実車を使ったコンテストで試される様になってんねん、」


へえ、…

って、それって大学4回生の時の名古屋の学会?だったんだ?

僕、おたふくかぜで出れなかったんだっけ、


あれ、…

確か「榊原さん」は、僕の事をその学会で知ったって、言ってなかったっけ?


何か勘違いしてるのかな?







葛西:「にの先輩って未だに一人なんですか?」

シオン:「未だって、就職してから未だ一年ちょっとしか経ってないよ、」


結局僕は、唯一僕の事を相手にしてくれる「葛西」の隣で黒ビール片手に居酒屋メニューを突いていた、…



葛西:「嫁欲しくないですか? 先輩のドギツイつっこみにも耐え、小姑の様に陰惨な苛めも大きな器で受け入れてくれる美人の嫁、…料理はイマイチやけど、掃除、洗濯、部屋の片づけは完璧です、あらゆる種類の夜のご奉仕もフルスペックでお応えできます、」


シオン:「遠慮しとく、…どうしたん? もしかして就職上手くいって無いの?」

葛西:「此の侭だと、学校に残る事になってしまいそうで、」


22歳女子、泣き上戸、…



シオン:「ウチの研究って、ナカナカ就職先無いよな、…」

葛西:「だから雇って!」


シオン:「頑張れ!」






そこに、携帯に電話の着信、…非通知?


もしかして「ナギト」か「戸塚さん」が道に迷って困ってるとか?



シオン:「ちょっと、ごめん、」


僕は電波状態の良い場所を探して、店の外へ出る、

それで、「ナギト」の携帯に電話してみるが、…



アナウンス:「…電波の届かない所にいるか、電源が、…」


繋がらない、

「戸塚さん」の携帯も同じ状況、…


ま、子供じゃないし、本当に困ったら、又掛けて来るだろう、



それ以外に僕に電話をかけて来る人が居るとすれば、…

「平塚さん」、…はポルトガルに出張中だし、

「アリエル」?…でも何の急用がある?

「新橋さん」?…電話番号教えてない、


「アリア」??



僕は、改めて「アリア」からのメールを読み返してみる、


〜〜〜


件名:「お疲れ様です」

本文:「私は遊園地に行った事が無いのでよく分からないのですが、何だか大変そうですね、私に何か力になれる事は有りませんか?」


〜〜〜


本当に、僕の居場所がわかるのだろうか?

だとしたら、「アリア」とは一体、何者なんだ?


〜〜〜


Re:Re:Re:Re:「…私は直接シオンと会ってお話しする事が出来ないのです、」

Re:Re:Re:Re:Re:Re:「私は、シオンとは異なる世界に住んでいるから、」


〜〜〜


異世界の住人? 遠隔透視能力?

そんな事が、有り得る訳が無い、


有り得るとすれば、…

監視カメラを使った盗撮か?




物音:「どさり、」


生ゴミの詰まった大きなゴミ袋を収集ボックスに投げ入れた様な音がして、…


細い脇道にそれた路地に、地べたに女の人が座り込んでいる?


酔っぱらいだろうか?

いや、何だか、…様子がおかしい



シオン:「大丈夫ですか?」


僕は、駆けつけて行って、…その女性に声を掛ける、




女性:「ハイ、ダイジョブデス、スミマセン、」


凄く痩せた、…片言の日本語を喋る、東洋系の女性?

目が虚ろで、確かに泥酔している様に見える、が、腰の辺り、真っ黒に沁みた、…血?



シオン:「どうしたんですか?」

女性:「イマ、クルマブツカッタ、ニゲタ、」


ひき逃げ?


時を待たずして、警邏中の警察官が駆けつける、



警官:「どうしましたか?」

シオン:「この女の人が、怪我してるみたいなんです、…クルマにぶつかったって、」


警察官は、女性の怪我の具合を調べ、…

無線で何か連絡している、



警官:「貴方は何か見ましたか? 相手の車とか、」

シオン:「いえ、何も、」


警官:「一寸、調書を作りたいので、ご協力願えますか、」

シオン:「あ、じゃあ、ちょっと荷物を取ってきます、」


警官:「いえ、此の侭、直ぐに終りますから、」


それで、奇跡の手際で少し離れた大通りに救急車が到着し、…ストレッチャーを押した背の高い救急隊員が、走って来る、



警官:「大丈夫ですか?」

女性:「ダイジョブ、ワタシナニモワルイコト、シテマセン、」


ナンだか、逮捕されるのかと勘違いしたのか、怪我をした女性が、必死に僕のベルトを掴む、



警官:「しょうが無いな、スミマセン、貴方、ちょっと一緒に救急車迄、行ってもらえますか?」


シオン:「ハイ、」


それで、救急隊員と警官にストレッチャに乗せられた女性は、僕の腰のベルトを掴んだまま、救急車へ、…



警官:「此の侭、一旦一緒に乗っちゃって下さい、」


ストレッチャは、女性を乗せた侭、救急車の後部ハッチから中へ、…僕も一緒に、救急車の車内へ、…



それで、



女性:「初めまして、漸くお会い出来ましたね、…」


行成り、ストレッチャーからガバっと起き上がった女性が、…僕の首筋に、「何か」を突刺した、


それで、意識が朦朧として来て、…


直ぐに、救急車の後部ハッチが閉じられて、…


その侭、車は、床に突っ伏して意識を失いつつ有る僕を乗せた侭、走り出す、…

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