第036話「危険なランデブー」

GW初日、

僕は久しぶりの大阪の地を踏みしめていた、


新幹線で新大阪へ、其処から東海道本線に乗り換えて大阪駅へ、僕の実家は更にそこから環状線、学研都市線と乗り継いだ「放出はなてん」と言う街に在るのだが、…大学の同窓会が梅田近辺と言う事もあって、僕は大阪駅近くのビジネスホテルに宿泊する事にした、



マドカ:「わあ、見てみて! ガソリン車が走ってる、」


何故此処に「戸塚さん」が居るのかと言うと、…


同期の皆に「親戚と一緒に鳥取に行く」と言ったのは実はバーベキューパーティを断る為の口実で、だからと言ってずっと家に隠れて籠もりっきりなのは詰まらないし、僕だけ大阪で美味い料理を食べるのは狡い、…と言う事が理由らしい、



ナギト:「それにしても暑いな、此れが普通なのか?」


何故此処に「ナギト」が居るのかと言うと、…


バーベキューパーティを仕切っている同期会幹事の「浜岡クン」とはソリが合わないし、「戸塚さん」と僕を二人きりにするのは(僕が)危険だし、僕だけ大阪で美味い料理を食べるのは狡い、…と言う事が理由らしい、







僕達は、ホテルにチェックインを済ませて荷物を片した後、地下鉄で難波へ下り、そこからトボトボと道頓堀迄歩く、ナニハトモアレ本場のたこ焼きを食べたい、と言う事になった、


相変わらず長蛇の列の屋台に並び、久し振り正真正銘本物のたこ焼きを口に頬張る、



マドカ:「あち、あひ、…」


大きいから一口で入りきらないし、一口噛むと、しかもカリカリの皮の中のとろとろアツアツの中身が口の中に迸って、…



マドカ:「これは危険だわ、」

ナギト:「確かに美味いけど、危険だな、」


僕達は「舟」に乗せたたこ焼きと爪楊枝を手に持ちながら、プラプラと道頓堀界隈を散歩する、…賑やかな巨大看板が、畏敬を持って崇め奉られる、…二人とも写真を撮りまくっている、



マドカ:「それにしても、人と車が共存してる町って、何だか今となっては変な感じね、」


僕から見れば、街中を殆ど車が走っていない「試験導入地域」の方が奇妙に見える、







それから、僕達は大阪城観光へと向う、

地下鉄で大阪ビジネスパークへ、其処から大阪城公園を横切って、…



凄い人集り? メーデー?には一寸早い筈だが、…

ちょこっと覗くと、どうやら府知事選の街頭演説?らしい、


大きな垂れ幕には、第6世代自動運転自動車導入の件が掲げられている、


そう言えば関東でも且つて、自動運転自動車導入に当たって、「運送業の雇用が無くなる」、「タクシーやバスの運転手の仕事が機械に奪われるのではないか」、と言う議論があった、


大阪でも2年後の導入を控えてインフラの工事が進む中、自動運転受け入れ側と閉め出し側の論争は未だ続いており、コレが今回の府知事選の大きなテーマの一つになっているのだ、



ナギト:「うちの田舎じゃ、大歓迎だけどな、」

シオン:「秋田だっけ、」


ナギト:「ああ、それも結構引っ込んだ所だから、車を運転出来ない高齢者が町に出掛けたり、町の小売店から直接自宅へ物を運んだり、導入を望む声は都会とは比べ物にならないぜ、」


自動運転自動車は、そう言う意味でも、一台一台の個の有り方よりも、社会全体の輸送流通システムとしてのあり方の方が重要だと習った事が有る、


別の言い方をすれば、自宅前が停留所で線路の要らない電車、昔且つて有った各家々の前迄野菜や豆腐を売りに来た行商のルネサンス、…まさに、人の移動の概念を根本的にシフトさせるモノ、とも言える、


そして、僕は、

急に柔らかな何かに包まれて、行成り、…身動きを封じられた、


何事?…



ホノカ:「ああ、これを運命と言わずして、何と呼べば良いのだろう?」


甘いバニラの匂い共、僕に食らい付いて、全身の自由を奪う、…



シオン:「新橋さん、何故、此処に?」

ホノカ:「ほら、彼処の隅っこ、…」


「新橋さん」の指差す先に、…「山根さん」、どうやら自動運転導入側候補者の応援に来ているらしい、



シオン:「護衛してなくて、…良いんですか?」

ホノカ:「大丈夫、大丈夫、キット、」


要所要所の間接が極められていて、痛くは無いのだけれど、ビクともしない、…「戸塚さん」を凌ぐ巨大な胸の塊が、モロに僕の背中に密着している、



ホノカ:「ソレよりもどうしてシオン君は此処に?」


「戸塚さん」と「ナギト」の開いた口が、…



マドカ:「あの、この方は、二宮クンのお知り合い?」

ホノカ:「ん、この人達?だーれ??」



それで、簡単な自己紹介と此処迄の経緯、

何故か、僕はアナコンダに巻き付かれた侭の格好、



ホノカ:「いいなあ、お姉さんも行きたいなぁ、…でも流石に一緒に飲みに行くのは無理そうだなぁ、」


シオン:「って、…仕事して下さい、」

ホノカ:「シオン君ツレナイからなぁ、LINE全然返事くれないしなぁ、」


シオン:「って、…いい加減放して下さい、」


ワザと、ワザとそんな風に、グリグリ、…



マドカ:「あのぉ、…写真撮ってもいいですか?」

ホノカ:「勿論!それで私にも送ってくれる?」


シオン:「どうすんだよ、そんな写真!」


マドカ:「どうって、何かの時の武器にする、」

ホノカ:「お姉さんは違うよ、一人で晩酌する時に愛でるだけぇ、」


マドカ:「じゃあ、もっとくっ付いてくれますか、」

ホノカ:「よーし、もう、チュウしちゃおう!」

シオン:「ひいぃ〜!」


首筋に、消えない傷痕、…


それで「新橋さん」と「戸塚さん」は、道端の隅っこで、何やらひそひそ話、



ナギト:「お前、変な女に絡まれる才能に恵まれてるのな、」

シオン:「もういや、…」







そして、大阪城の見学も無事終了、

僕は其処から実家に顔を出すからと、一旦解散の筈が、…


何故だか「ナギト」と「戸塚さん」も付いて来る、



シオン:「来ても何も面白いもの無いよ、」

ナギト:「一寸見てみるだけだって、」

マドカ:「いや、駅の名前の読み方からして面白いでしょう、何でこれ(放出)で「はなてん」なの?」


僕達は駅前商店街を抜けて、住宅街へ入り、…

やがて、車一台通れるか通れないかの細い道を進んだ枝道のドンツキに、…見慣れた僕の家が有った、


猫の額程の庭付き一戸建て、

お袋が世話をしている観葉植物のプランターが、処狭しと玄関口を占領している、


それで、ドアを開けると、



シオン:「ただいまぁ」

アリエル:「えと、このお方達はどなたでございましょうか?」


観葉植物にも負けじとケバい化粧と派手な服装、身長は170以上あるから明らかに僕よりも高い、…僕の妹、



ナギト:「初めまして、会社の友人の川崎と言います、シオンのお姉さんですか?」

シオン:「妹!」


マドカ:「戸塚です、初めまして、」

アリエル:「一応、コレの妹をやってます、…アリエルです、」


それで「アリエル」、「ナギト」と「戸塚さん」を暫し見比べて、…「ああ!」と合点が行った様に掌をポン!



シオン:「お前絶対なんか勘違いしてっから、」

ナギト:「シオンて、関西弁、喋れるんだな、…」


僕達は、取り敢えずリビングダイニングへ、



シオン:「お母さんは?」

アリエル:「急に兄貴が帰って来る言うから、お父さんと二人で「やおせん(業務用スーパー)」に河豚ふぐ買いに行った、」


マドカ:「ねえ、シオンって名前も変だなって思ってたんだけど、アリエルさんとか、もしかしてご両親のどちらか、外国の方?」


「戸塚さん」、ジロジロと部屋の中を見回しながら、僕の耳元に囁く、



アリエル:「なんも無いですけどゆっくりしてって下さいね、今お茶出します、…あ、お兄さん、ビールの方が良かったですか?」


ナギト:「いえ、おかまいなく、」



シオン:「オヤジが日ユ同祖論信者でさ、子供の名前にヘブライの町の名前を付けたんだ、」


アリエル:「お陰で小学校の時はえらい揶揄からかわれましたわ、「アリエル、そんなん有り得るんかい」とか、…」







それで、何時の間にか「ナギト」と「戸塚さん」は僕の家族と一緒に鍋を突いていた、


二宮父:「いや、ほんまベッピンさんやな、」

マドカ:「有り難うございます、」


いやオヤジ、それもう10回くらい言ってるよね、完全酔ってるよね、



二宮父:「此の侭、ウチの子になってくれたら最高やのになぁ、」

マドカ:「えー、良いんですか? 二宮クン!お父さんの許可貰っちゃったぁ、…」


当然何言ってるか分らない酔っぱらいの戯れ言はスルー、



二宮母:「ほんと、この子は小さい頃から人付き合いが苦手で、…東京で一人暮らしする言うた時は、ホンマどうなるもんやか心配しましたわ、それがまあ、こんな立派なお友達が出来て、…」


二宮母:「シオン、ほんま良かったなあ、」

シオン:「泣くな、みっともない!」


アリエル:「なあなあ、後でゆっくり、川崎さんにウチの事紹介してくれへん?」

シオン:「あかん、お前にナギトは勿体ない、」







それで、懐かしい僕の部屋で、…家探しが始まる、



ナギト:「本当、勉強道具しか置いてないんだナ、」

マドカ:「二宮少年はどんなおかずを使ってたのかな?」

シオン:「そんなモノは無いよ、有っても残しとく訳ないだろ、」


二宮母:「マドカちゃん、お風呂入れるよ、」

マドカ:「あ、でも、…良いんですか?」


何で此の家の人間は、初対面の女子を行成り下の名前で呼べるんだ?



二宮母:「ええに決まってるやん、泊まっていきいな、」

マドカ:「でも、ご迷惑じゃないですか?」


シオン:「二人ともちゃんとホテル予約してるって、」

母:「アホ言いナや、今から梅田迄出て行ってみいな、面倒臭いやんか、ウチで泊まって行ったらゆっくり出来るやろ、」


シオン:「こんな狭い家に、二人も泊まれる訳無いやろ、」

アリエル:「マドカさん、ウチの部屋で一緒に寝よ、」


マドカ:「ええ、良いんですかぁ、…じゃあ、お言葉に甘えて、」


「戸塚さん」の目が、…嬉しそうにギラついている、…



父:「よし!そしたら、飲み直そか、君、まだいけるやろ、」

ナギト:「はあ、それじゃあ、頂きます、」


何で「ナギト」迄、ちょっと嬉しそうになってるんだよ?

何か変じゃないかぁ??



アリエル:「なあなあ、お兄ちゃん、後で一寸ええかな、あの、ナギトさんの事、」


って、未だかつて体験した事の無いおぞましさで「アリエル」がコッソリと僕に囁く、、…って大体、お兄ちゃん? お兄ちゃんだと?? 一体コイツは、何処の世界の妹なんだ??







アリエル:「兄貴、マドカさんと結婚して、それでナギトさんはウチに頂戴、」


何だか朝起きると、妹が「戸塚さん」に籠絡されたらしい、


僕は懐かしい洗面台で、パジャマ姿の妹と並びながら、歯を磨く、



シオン:「先ずは大学に受かってから、それからおとぎ話を聞いたる、」



「二宮・アリエル」当年とって18歳、並んで映った鏡の中、僕よりも背が高い、…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る