第033話「コンプライアンスの問題」
木曜日、
僕は「森さん」の指導の下、経理グループから上がって来た昨年度3月の実績コストデータを使って、2028年度全体の予算と実績をまとめていた、
所定のフォーマットに必要データが自動でダウンロードされるので、費目別×プロジェクト別の予実乖離を表にして、詳細分析が必要な問題点が無いかをチェックする、
シオン:「結構、プロジェクト別には凸凹有るんですね、」
森:「まあ、実際計画通りに仕事出来る程開発って簡単じゃないよ、…なんせ、分んない事を検討評価してるんだから、」
それでも実績合計値は何故だか、年度予算目標額の-1% ニヤピンオーバーアチーブメント(予算内で納めた)で目標達成、、って?
シオン:「何でこんなにピッタリなんですか?」
森:「まあ、毎年ナンかしら奇跡が起きてるのさ、…お陰で社長は計画通りのバランスシートを株主に報告できて、会社の収益は順調、って言う事になっている。」
シオン:「もしかして虚偽の報告ですか?」
カスミ:「森さん、適当な事を二宮クンに教えないで下さい、」
行成り、「藤沢さん」が僕達の会話に割り込んで来る、…聞いてたのかな?
森:「別に適当な事は言ってないですよ、事実がそうだって言ってるだけで、」
カスミ:「二宮クン、後でちゃんと教えてあげるから、君も聞いたまま鵜呑みにしない!」
シオン:「すみません、」
それで、
僕は午前中の後半を使って「藤沢さん」から講義を受ける事になったが、結局カナリ珍紛漢紛で、「発生主義会計」に関する今時分厚い紙の教科書と一緒に、週末の宿題を言い渡される事になった、…
それで、
思いがけず講義が長引いて昼休みが無くなった僕は、一人トボトボと昼過ぎの社内売店にお昼ご飯のサンドイッチを買いに行く、その帰り、…
榊原:「二宮さん!」
と、「榊原さん」に呼び止められる、…何度見ても大きい人だ、
シオン:「こんにちは、今日も打ち合わせですか?」
榊原:「まあ、ご用聞きで大体木曜日は、何時もお邪魔させてもらってます、」
それで、持っていたお菓子の箱をガサゴソと確認して、…
榊原:「実は会議の約束がドタキャンになっちゃって、…もし良かったらお土産で持ってきたお菓子、もらってくれませんか? コレから会社に持って帰ると溶けちゃいそうで、」
って、中身はアイスクリーム入りのシュークリームらしい、
シオン:「こんなの貰って、良いんですか?」
榊原:「助けると思って、是非、…」
榊原:「その代わりと言う訳じゃ無いんですけど、一つお願いが有りまして、」
何だか有耶無耶のうちに、僕は結構大きめなシュークリームの箱を受け取る、
榊原:「今度、御社でウチの先行技術開発のプレゼンをやらせて頂きたいんですけど、総務部の稲毛課長にそれとなく感触聞いてみてもらえないですか?」
どうやら「榊原さん」は「稲毛さん」とは、面識が有るらしい、
シオン:「どんな先行開発なんですか?」
榊原:「主に第6世代対応センサー類です、パンフレットあるので、何部か置いて行きますね、」
何だか、貰ってばっかりだと気が引けるし、目上の人からこんなにも頭を下げられるのも気分が穏やかでないし、…
シオン:「解りました、聞いてみます、」
榊原:「ありがとうございます、」
果たして、「山河さん」に手渡した途端、アイスクリーム入りシュークリームはモノの30秒で飢えた部内のメンバーに行き渡って、影も形も無くなった、…
僕は預かって来たパンフレットを「長谷部さん」に見せて、経緯を説明する、
長谷部:「総務部に頼むっていう事は、電装開発部だけじゃなくて、他に興味のある人にも声かけて欲しいっていう事なのかな?」
長谷部:「その人、二宮クンの知り合いの人なの?」
シオン:「元交通情報工学の研究者で、昔私がやった学会発表で一緒になって私の事を知ったミタイです、」
そう言えば貰った名刺が、財布の中に入れっぱなしになっていた、
それを引っ張り出して「長谷部さん」に見せる、
長谷部:「技術営業課、最終的には製品の売り込みに繋げたいんだろうな、」
長谷部:「そうは言っても、サプライヤの選定は開発部門だけでは決められないから、この手の相談には気を付けてな、…接待は基本的にNGだから、今後はお土産も一応断って、」
シオン:「そうなんですか、済みませんでした、」
長谷部:「別に向こうに悪気が無いのは解ってるんだけどね、ウチの方で接待要求がエスカレートすると、本当の会社の利益とか技術力が正当に評価されなくなってしまう事が有るんです、人事評価もそうだけど「目立つ人」が評価されて本当に「実力がある人」が評価されないと言うのは公平じゃないからね、」
で、木曜日の定時後、
帰りかけていた「国府津さん」を追いかけて行って、とうとう捕まえる、
シオン:「あの後もアリアからメールが送られてくるんですけど、どうすれば良いですか? 無視して相手にしない方が良いですか?」
「国府津さん」意外にも困り顔、…余り見た事が無い表情だ、
国府津:「そうか、止めろって言ったんだけどなぁ、」
シオン:「もしかして、国府津さんはアリアが誰なのか知ってるんですか?」
まさかの知り合いって、「国府津さん」だった訳??
国府津:「まあ、そうだな、近い内に二宮クンにも紹介するよ、」
それでも、兎に角、素性の知れた人間である事が解って、僕は一寸ほっとする、
シオン:「因みに、本当に女の人なんですか?」
国府津:「本人がそう言ったの?」
と言う事は、違うのかな??
シオン:「別に性別については何も言ってないですけど、名前とか、メールの口調とかみると、女の人っぽいんですよね、」
国府津:「まあ、会ってみてのお楽しみにしときな、」
それで「国府津さん」、何時もの悪戯っぽいニヤケ顏に戻る、
と、「国府津さん」と別れた直後、メール着信、…一瞬「アリア」かと身構えるが、
差出人は、「葛西・ユリ」
大学の研究室の後輩だ、
件名:「同窓会のお知らせ」
本文:「三田教授が渡米されるに当たり、緊急同窓会を開催したいと思います、
日時4月29日(日)17時開始予定
場所梅田辺り検討中、希望受付中(ただし幹事の独断で決定)
本E-mailの返信にて参加可否を連絡願います、
回答期限4月23日
シルヴプレ」
日にちはGW最初の日曜日だった、…と、此処で僕は良い事を思いつく、
成る程、特に研究室の同窓生に会いたいと言う気持ちは無いのだけれど、これで大阪に帰省する事にすれば、部長さん達から誘われている「麻雀」と「ゴルフ」を回避する事が出来る、
シオン:「久し振りに帰省しようかな、」
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