第031話「驚愕の部長秘書ネットワーク」

月曜日午後、

僕は先々週末の間違った「警告」で迷惑をかけた第2プロジェクトマネジメントグループと電装開発部に謝罪しに行く事にした、



第2プロマネ課長:「総務が使ってるデータは公式承認値なんだろうけど、現場は日々もっとフレキシブルに動いている訳、此れからはそう言う現場の実態を知っておいてくれると助かるよ、ほんと実際、…少なくともさ、警告メールを一斉送信する前に、一言担当者に相談に来てくんないかな、」


シオン:「気を付けます、」



帰り際、チラリと「ナギト」の様子を覗く、…何だかパソコンの画面に向って四苦八苦しているらしい、



シオン:「やあ、何やってるの?」

ナギト:「よう、お疲れ、…これか?」


画面には、見覚えの有る「第6世代自動運転小型車」の各部別開発費の表が映っていた、



ナギト:「実はさ、開発提案を通す時に、各部が見積もって来た元々の開発費をウチで少し目減らせているんだ、それで、その差異を部別に纏めて、各部の開発費が減っている事を説明しに行く、その準備、…」


シオン:「各部の見積もり値で提案してるんじゃないの?」


ナギト:「それだと、ガイドに合わなくって提案が通らないんだってさ、…各部からはすげえ「文句」言われるらしいけど、そう言う仕事は新人に回ってくる訳だ、」


シオン:「ふーん、何だか何処も苦労してるんだね、」


そこへ、何故だか部長秘書の「三国さん」がやって来る、



三国:「貴方が二宮クン? …部長会の話聞いたわよ、何だか大変だったみたいね、」


シオン:「はあ、ご迷惑かけて済みません、」

三国:「良いの良いの、イチイチ気にしない、誰にだって間違いはあるよ、」


本当は僕の間違いじゃ無いのにな、…とは思わない様にしている、


それで、何故だか丁度会議から戻って来たプロジェクトマネージメント部の「牧村部長」に声を掛けられる、



牧村:「よう、君か、えっと総務部の、…」

シオン:「二宮シオンです、」


当然、僕は緊張してしまう訳で、…普段は斜に構えがちな「ナギト」も見た目に分り易く焦っている、…何しろ新人が部長と話をするなんて、滅多に有る事じゃない、



牧村:「どうした、また警告か?」

シオン:「違います、違います!」


シオン:「今日は、ご迷惑かけたので、課長さんにご挨拶と謝りに、…」

牧村:「殊勝な奴だナぁ、」


「牧村部長」、意外に和やか?



牧村:「今月から配属だって? こき使われてるなぁ、…まあ、それだけ期待されてるって事だ、頑張りな、」


シオン:「有り難うございます、」

牧村:「時に、君は麻雀はするのか?」


「三国さん」が「クスリ」と可愛らしく笑う、



シオン:「済みません、やった事が無いです、」

三国:「簡単だよ、教えてあげよっか?」


牧村:「三国さんは点数数えられないけどな、」


「三国さん」が「へへへ」と可愛らしく舌を出す、



牧村:「GW前日に保養所泊まり込みの麻雀合宿が有るんだけど、もし予定空いてれば君も来いよ、」


三国:「私と車体開発部の吉沢さん(部長秘書)も行くんだけど、おじさんとおじいさんばっかりで、相手するの疲れるのよねぇ、二宮クン参加してくれると嬉しいんだけどなぁ、」


牧村:「因に私はおじさんとおじいさんのどっち?」

三国:「そりゃあ、勿論、……」







電装開発部へ挨拶に言った帰り道、

今度は「白岩部長」に掴まる、



白岩:「君はゴルフやるのか?」

シオン:「いえ、やった事ないです、」


白岩:「丁度良い、GWに開発部門コンペが有るんだけどさ、この機会に是非始めると良いよ、」

横田:「行こうよ、私も誘われてるの、」


と、何故だか僕の二の腕をブンブン振り回す部長秘書の「横田さん」



シオン:「でも、…」


何故だか、電装開発部男性社員の視線が、…怖い、



シオン:「クラブとか、持ってないですし、」

白岩:「私の古い奴が余ってるから貸してあげるよ、」


シオン:「ゴルフクラブ、持った事も無いんですよ、」

白岩:「誰にでも最初はあるんだ、大丈夫、未だ今週末土日あるし「打ちっ放し」行って練習すれば間に合うよ、」


横田:「分った、私が一緒に行って教えてあげる、」


と、何故だか僕の二の腕をブンブン振り回す部長秘書の「横田さん」

何故だか、電装開発部男性社員の視線が、…怖い、



白岩:「うーん、横田さんは真直ぐに飛ばないけどな、」

横田:「初心者同士、傷をなめ合おうよ、ね、…お願い、」


何故だか半泣きになってる「横田さん」、…一体ゴルフコンペで何が行われているんだ??







シオン:「疲れた、…」

国府津:「どうした若いのに、先週の深夜残業疲れが今頃時間差で出たのか?」


総務に帰って来て、机に突っ伏す僕に「国府津さん」が微妙な視線を投げかける、



シオン:「いえ、そうじゃないんですけど、」


僕は、部長さん達から麻雀とゴルフに誘われた事を上司に報告する、



国府津:「部長秘書ネットワークって奴だな、侮り難し、…」

国府津:「まあ、行けばいいじゃん、部長に顔売っとくのも仕事の内だよ、」


シオン:「国府津さんは行かないんですか?」

国府津:「私はそう言うのはパスだナ、…自分のやりたくない事に時間と金を費やすのは主義に反する、」


シオン:「国府津さんの趣味ってナンなんですか?」

国府津:「内緒、…」


シオン:「ああ、何とか言って断れないかなぁ、」

国府津:「なんならGW中も仕事上げようか?」


シオン:「いや、それは良いです、…遠慮します、」


僕は、両掌を晒して「お手上げ」のポーズ、



シオン:「でも何だか、部長さん達、一対一で話すると皆さん優しいんですね、」

国府津:「だから言っただろう、部長だって鬼じゃないって、」


国府津:「いや、寧ろ良き先輩、仲間だって事だ、」


シオン:「もしかして、国府津さんはこうなる事が分ってて、ワザと僕を部長会に参加させたんですか?」


国府津:「うーん、そう言う事は感づいても口に出さない方がお行儀が良いと思うぞ、…私だって、誰にでも同じ様にしてやれる訳じゃないしな、」


珍しく僕が「国府津さん」に向ける殊勝な視線に、…



国府津:「まあ、二宮君に恩を売って何かを企んでいる訳じゃないから心配しなくても良いよ、…私はこれでも本当に君の事を「買って」いるんだよ、」


それはとても嬉しい言葉だけれど、どうしたって違和感は拭えない、本心からの言葉だとは、信じられない、だって会って一週間しか経っていない僕の事を、どれ程知っていると言うのだろうか?


僕はまた「モチベーションを上げる為のテクニック」なんじゃないかと勘ぐってしまう、



国府津:「なあ二宮君、この世で一番悲しい人間関係って、一体何だと思う?」


そしてまた、「国府津節」な禅問答が始まった?



シオン:「憎しみ会う、傷つけ合う関係ですか?」

国府津:「違うな、一番悲しいのは、お互いに其処に居るのに気付かない、そう言う関係だよ、」


国府津:「憎んだり恨んだり嫌ったり出来るのは、相手が実在する人間だって認識しているからだ、でも、…気付いてもらえなければ嫌われる事も出来ない、」


国府津:「困っている、苦しんでいる、悲しそうにしている、時々は楽しそうにしている、世の中には沢山の人達が居る、でも、その事を誰かに気付いてもらえるのは、信じられないくらい幸運な事なんだ、そうは思わないかい?」


国府津:「道端で途方に暮れている女の子だって、誰からも声を掛けてもらえなければ、只の石ころと同じな訳だ、」


僕は、初めて「彼女」と出会った時の事を、思い出す、…



シオン:「それって、もしかして、平塚さんの事ですか?」

国府津:「ゴメンよ、ちょっとプライバシーに踏み込み過ぎたかな、」


「国府津さん」は頭を掻きながら苦笑い、



国府津:「でも、部長や役員だって同じさ、社員は皆仲間だ、仲良くしたい、決して叱ったり嫌われる様な小言を言いたい訳じゃない、でも、それも、相手の事を知らなければ、始まらない、」


国府津:「何百人も居る部下を、社員を、全て同じ様に導いてあげる事は難しい、逆も同じ事だ、社内報とイントラネットのインタビュー記事、全員大会での僅かな質疑応答で、部長や役員の事を、自分と同じ人間、仲間だと思ってくれている社員は、一体どれ位居るのかな?」


国府津:「上司だって、気付いてもらいたいんだよ、…その為には、声を掛けなければ、何も始まらない、」


国府津:「きっと君になら、ソレが出来る、」


「国府津さん」は何時ものニヤケ顏で僕の事を値踏みする様に、…きっと僕の内側の本性を覗こうとしている、


もしかするとコレ迄もずっと、そうだったのだろうか?



国府津:「勿論悪目立ちはイカンが、頑張っている事を見てもらう事は、お互いにとって、良い事って事さ、」

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