第029話「国産AI(人工知能)」

国府津:「まあ、半分は「供給元会社」が開発費を日本に吹っかけたいって言うのが本当の理由じゃないの? よく有る話じゃん、初期費用めっちゃ安くして買わせといて、後からメンテナンス費用高くてやってられないって奴、…容易に想像できた事だろう、あの時も俺は言ったぜ、」


山根=イケメン:「上で決めてきた事をひっくり返すのは簡単じゃないんだよ、…お前だって結局駄目だったじゃん、」


それで「国府津さん」はまるで悪戯小僧の様に、厭らしくニッコリと笑う、…




国府津:「そこでだ、…国産AIを復活させないか? そうすればイチイチ「彼ら」にお伺い立てなくても良いし、初期投資の3倍以上する追加料金も払わなくて済む、」


山根:「ガラパゴスで上手くいかないのは、散々議論を尽くしただろう?」




国府津:「金の問題じゃないって、「彼ら」にとっても競合が有った方が良いんじゃないのか?… もっとハッキリ言えば、AIだって世界に一人きり自分のコピーしかいないってのは、可哀想な事だと思うんだよ、そう思わない?」


山根:「また訳の分からない事を言いだしたな、」


僕は「山根さん」に激しく同意する、…



そこで「山根さん」はグラスに入った水割りを一気に半分、飲み下し、



国府津:「それに「彼ら」にデータを吸い上げられなくても済むという特典も付いてくる、」

山根:「分ってるよ、」



データ吸い上げ、…

現AIは、実は日本の警察だけでなく、サービス改善の目的で、各種走行データや搭乗者データをAI提供元会社にも自動配信する仕組みになっている、…別の言い方をすれば他国から監視されているとも言える訳だ、


一部の要人・警察・政府関係者が未だに「旧車」を使っている理由は此処に有るが、旧車を使っている時点で、その車が「特別」である事は一目瞭然にばれてしまう訳だ、




山根:「それで、幾ら欲しいんだ、」

国府津:「話が早いな、」


山根:「その話だけ聞きに来たんだよ、言っただろ、コッチは忙しいんだ、」

国府津:「20億、」


確か、足りないのは12億じゃ無かったっけ、…



山根:「馬鹿も休み休み言え、」

国府津:「標準AIの第6世代更新費用よりは安いだろう?」


山根:「そんなはした金でどうやってまともなAIを開発できる訳が無いだろうって言ってるんだよ、今から1年半で20億ポッチでどうやって「そんなモノ」が出来上がる保証は何処にある?」


国府津:「相変わらずお前、日本語滅茶苦茶だな、」

山根:「うるせえ、」


国府津:「実は実走できる車はもう出来てる、中央統合制御の部分はこれから追加だけどな、」


山根:「お前、もしかして、」

国府津:「やっぱりお前、話が早いな、…そうだよ、国産AI開発、アングラで続けてたんだ、」



国産AI、…

数年前、本格的な中央統合制御型自動運転自動車交通網を導入するに当たり、効率化と中央統合制御の目的でAIの企画統合が決定された、


国家プロジェクトに参加していた幾つかのグループから候補案があがり、結果は総開発費と製造原価のコンペで「世界標準AI」が勝利し、それまで研究開発を続けていた幾つもの国産AIは再び冬の時代を迎える事になった、


超巨大なGPUとサーバー群は、これまた超巨大な冷却設備と一体化されており、その大きさはビルディング一個分に相当するモノ迄有る、


研究成果はデータ化されて引き継がれたが、年間数億にも及ぶ巨額な維持費を賄う事はどのグループにも困難となり、現在では他用途への転用が進んでいるらしい、




山根:「どうやって? 金は何処から?」


国府津:「まあ、色々やってだ、…要するに涙ぐましい企業努力って奴だ、しかしそろそろきつくなってきてさ、ここらで正式に「御上」に認めてもらわないと不味い状態な訳、」


国府津:「因みにどういう風に不味いかと言うと「某支援者」に設備ごと買い上げられる事になる、…買うって言う奴がいるんだから、捨てるって話は無いものな、」


山根:「脅しか?」

国府津:「いやあ、皆が幸せになる道は無いかなって、」


「山根さん」は前髪を搔き上げて、一瞬で険しくなった視線で「国府津さん」を睨みつけた、



山根:「それはNAVEの公式発言と言う事か?」

国府津:「此処は飲み屋だぜ、偶々旧い知り合いと会って、一寸日頃の愚痴をこぼしたってだけだよ、」





「新橋さん」が手を振りながら、「山根さん」とデカい公用車に乗り込んで、帰って行く、


僕は、別れ際どさくさ紛れにキスされた頬っぺたに、指先で触れてみる、


全く何なんだ、あの女性、…所謂あれが「痴女」って奴なのか?



シオン:「あの人達は何なんですか?」


国府津:「山根・コウジ、国家プロジェクト推進メンバーの上から数えて片手の指に入る人間だよ、…因みに一番上は総理大臣な、」


そんな重要人物とタメ口で話する「国府津さん」って、一体何者なんだろう?



僕達はトボトボと店に引き返しながら、…



シオン:「どうして僕を連れて来たんですか?」

国府津:「この先、この話担当してもらうから、まあ顔つなぎだよ、」


何だか「国府津さん」は、国家レベルの案件に、僕を巻き込もうとしているらしい、…それはとても胸躍る、有り難い事なのだけれど、



シオン:「僕は、交通情報工学は勉強しましたけど、人工知能の事はよく解りません、」


国府津:「心配しなくても大丈夫だよ、ウチにはもうエキスパートがいるから、…実は、君は、彼女からの指名なんだ、」


彼女?…



シオン:「彼女?って、誰なんですか?」

国府津:「君もよく知っている人間だよ、もう友達になったんだろう?」


国府津:「平塚・リョウコ、…彼女が、国産AIの主任研究員だよ、」

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