第026話「秘密の相談」
木曜日の午後、
国府津:「二宮クン、ちょっと良いかな、」
僕は「国府津さん」に呼ばれて、一緒に「石立部長」の元へと出頭する、
「国府津さん」は口頭でサラサラと、昨日迄に纏めた予算の精査結果と、削減案を説明し、12億円足りない事を、いともアッサリと打ち明けた、…半ば開き直り気味に、
石立:「それで、どうするんですか?」
国府津:「コレから検討します、まあ未だ4月ですからナントカなると思いますよ、」
石立:「第三四半期に入ってからやっぱり出来ませんでした、では社長に説明つかないですよ、もう少し具体的な、…」
「石立部長」は其処迄言ってから、何だかやり辛そうに、言葉を濁す、…
国府津:「うーん、ま、そうですね、…」
「国府津さん」は細い目を更に細めながら、…その表情は何やら悪巧みを考えているとしか思えない和やかな笑顔で、
国府津:「で、サードパーティから一つ仕事を取って来ようと思うんですが、」
やっぱり、…と、口にこそ出さないものの、「石立部長」の顔にはありありと不安が浮かび上がる、
石立:「サードパーティ、…それとこれと、どう言う関係があるんですか?」
国府津:「「田浦」に置きっぱなしになっている「遊休資材」の件ですが、」
「石立部長」が一瞬焦って顔色を変え、…それからジロリと僕の顔を睨む、
「遊休資材」?…何の事だろう?
石立:「それは、本当に此処で言っても良い話なんですか?」
国府津:「勿論、関連事項ですから、…」
石立:「二宮クン、悪いけど、ドア閉めてくれる?」
シオン:「はい、」
僕は言われるままに、開けっ放しになっていた会議室のドアを閉める、…何だか秘匿事項なのだろうか? 僕も席を外した方が良いのかな?
国府津:「構わないよ、こっちへ来て、」
国府津:「それで、「アレ」ですが、あの侭放置しておくと、
石立:「まあ、しかし、ビジネスは全てが全部思い通りになるって事は無いよ、」
「アレ」?…何の事だろう?
国府津:「ところで「世界標準AI」の第6世代対応って、結局アメリカの立ち上がりが遅れて、日本がファースト・プロダクションになったでしょう、…なんだかんだ遅れ気味の改造費用、殆ど全部コッチ持ちになりそうって話じゃないですか、」
「石立部長」は半笑いしながら、会議机の上に肘をついて、そのまま崩れおちる、
石立:「大体言いたい事は分って来たけど、そんなの上手く行くの?」
国府津:「石立さんが承認してくれれば、コレから直ぐに相談してみますけど、」
石立:「それで、第6世代AIの開発をウチで請けて、開発費の不足を充当しようって腹?」
そして「国府津さん」は深刻さの欠片も無いニヤケ顏で、疲れ果てた?呆れ果てた?表情の「石立さん」を覗き込む、
国府津:「人聞きが悪いなぁ、順番が逆ですよ、…第6世代対応開発をやれる設備と技術と人材があるから、是非やらせて欲しいって、そう言う話ですよ、それで、ウチの車両プロジェクト使わせて上げて実車開発出来るんだから、NAVE側の大盤振る舞い大サービスって話ですよ、」
石立:「しかしさ、大体こんな話「向こう」が乗って来るとは思えないよ、前回も結局政治的判断で決まっちゃったんじゃなかったっけ?」
国府津:「「世界標準AI」の第6世代立ち上がり迄の暫定版って言っとけば良いんじゃないですか? ウチ、ガラパゴスの国だし、結局「彼ら」は自分達の技術が最終的に世界席巻する事を疑ってないから、些細な事には絡んで来ないんじゃないですか、」
「向こう?」、「彼ら?」、一体何の事を話しているのだろう?
石立:「でもなあ、」
国府津:「なんなら首かけましょうか、」
石立:「国府津さんの首は安いからなぁ、」
国府津:「何せ役職定年済みのアシマネですからね、…年棒だってもうそんなにもらってないしなぁ、」
石立:「仮に話に乗って来たとして、ウチ以外にも手を上げる会社が有るんじゃないですか?」
国府津:「可能性は有りますね、皆、裏ではきっちり開発続けてますから、後はウチの技術競争力次第ですね、」
石立:「何でそんなに楽天的でいられるのか、秘訣を教えて下さいよ、」
「石立部長」大きな溜息を一つ、
国府津:「なんせウチには有能な若者がいますからね、知ってました? 二宮クン、彼交通情報工学学会では知る人ぞ知る第一人者なんですよ、」
石立:「知ってるよ、私だって元は自動運転制御ロジックの開発担当だったんだから、「学会荒らし」の二宮クンの事は良く知ってるよ、」
やっぱり、巷では「学会荒らし」と言われてたんだ、
僕は一寸恥ずかしくなって、…
シオン:「すみません、」
石立:「別に謝らなくて良い、…昔は人工知能研究って浮き沈みが激しくってさ、結局自動運転自動車って、いう丁度良い「外ガワ」が出来て、漸く本格的に軌道に乗った感が有るよな、これからもっと発展すると思うよ、…二宮クンには多いに期待しています、頑張ってね、」
シオン:「ありがとう御座います、」
それで「石立部長」、優しい眼差しでニッコリと僕に、笑いかける、
石立:「君も苦労するな、入社早々、こんな「おじさん」の部下で、」
僕、苦笑い、…
国府津:「二宮クン、そこはフォローしてくんなきゃ、」
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