第023話「アフターファイブの過ごし方」

それで僕は、半ば追い出される様にして会社を後にする、…


何だか妙な「やり残し感」に後ろ髪をひかれるが、

とにかく久しぶりに夕方明るい内にカンパニーバスの停留所に立っていた、


時計を見ると未だ5時過ぎだった、

流石にこの時間から帰る人も少なくて、人影は疎らだ、…


処がふと見ると、車体開発部の先輩(確か中島さん)と「戸塚さん」が何やら楽しそうに会話しながらトボトボ従業員駐車場の方に歩いて行く、


デートだろうか、まあ、僕には関係ないけれど、



リョウコ:「シオン、」


呼び声に振り返ると、…「平塚さん」が僕のシャツの裾を引っ張っている、



シオン:「平塚さんお疲れ、」

リョウコ:「お腹すいた、」


今日は「ナギト」の方が帰りが遅いらしい、…と言うか、何時までも僕も「平塚さん」も、「ナギト」に晩御飯を食べさせてもらっているのは不味いだろう、(注、材料費はちゃんと払ってます)


何か考えないとイケナイなとは思いつつも、僕には料理なんてさっぱり出来ないし、



シオン:「平塚さん晩御飯どうするの?…今日ナギト遅いミタイだよ、」


リョウコ:「コンビニ、」

シオン:「一緒に買いに行く?」


「平塚さん」こっくりと頷く、





やがて自動運転バスが停留所に停まって、…僕と「平塚さん」は一番後ろの席に座る、

バスはユルユルと新子安駅を経由して横浜駅へと向かう、



女性社員A:「見てみて、あの二人、…何だか可愛く無い?」


ふと気が付くと、

乗り合わせた数人の女性社員が、僕達の方を見てニヤニヤひそひそ話をしている、


もしかしたら恋人同士だとか、そんな風に誤解されたのかも知れないけれど、…何故だろうか「平塚さん」だとそんな事も気にならないから不思議だ、



僕達は横浜駅東口のコミュータ乗り場前でバスを降りて、…



シオン:「折角だから何処か寄って行く? そう言えば平塚さん全然食器持ってないでしょ、コップとか箸とか、」


リョウコ:「行く、」


そうは言っても、そう言うのって何処へ行けば売ってるんだろう?

横浜駅周辺のデパートは何だか高そうな気もするし、…僕はそもそも地方から出て来たから横浜周辺の事は余り詳しくはない、



シオン:「何処かいい店知ってる?」


「平塚さん」フルフルと首を横に振る、


こういう時はスマホで検索、…ダイヤモンド地下街に安い店が有るらしい、





地下のJR中央改札口前を潜って、西口側の地下街へ、

雑踏の中を歩き回る事10分、漸くお目当ての店を探し当てる、で…



シオン:「こんなのどう?」


デフォルメされた鶏のイラストが描かれたマグカップ、


「平塚さん」碌に確かめもしないでコクリと頷く、…もしかして何でも良いのかな?


小さめの箸と、ちょっと赤ちゃん用っぽい持ち手の付いたフォークスプーンも悪戯心に選んでみる、


流石に怒るかな?と思いきや、…再び無反応で承諾、



シオン:「後、他に何か欲しいものある?」

リョウコ:「もう一個ずつ、同じ物を買う、」


お客さん用だろうか?


後、魚のイラストの描かれたお皿と、同じ柄の御茶碗も2個ずつ選んで、

何だか御飯事おままごと用の食器みたいだな、…



シオン:「これ以上は重くなるし、今日は此れ位で良いかな、」


「平塚さん」こっくりと頷く、



全部で1200円、…なんか安い?

割れない様に一つ一つ紙包装してもらって、大きめの紙袋に詰めて、



シオン:「重いから寮まで持ってってあげるよ、」


それからお店を出た所で「平塚さん」が僕の袖を引っ張った、

どうやら視線の先には、…漫画屋さん?


地下街の一画、幾つかのブロックに分かれた大きな本屋の一つに、漫画専門店がある、



シオン:「本屋に行きたいの?」


「平塚さん」こっくりと頷く、



所狭しと陳列された漫画を立ち読みするでもなくじーっと眺める「平塚さん」、


そう言えば、僕は漫画なんて中学生の頃以来、読んだ事が無い、

別に、誰かに禁止されていた訳では無いのだけれど、…


僕は、そうしてまた、トラウマになった「怖い記憶」を思い出す、





中学2年生の頃、僕には一人の友達がいた、


同じクラスの女子で、真面目で、恥ずかしがり屋の優等生だった、…彼女の名前は「東口・ヒヨリ」、確かそんな名前だった、


僕達は、よくテレビや漫画の話をした、

教室で話をしていると冷やかされるので、何時も帰り道の児童公園で漫画の貸し借りをした、



ヒヨリ:「5巻貸してあげるよ、明日持って来るね、」


それが何の漫画だったかは、もう覚えていない、



それなのにその日に限って僕は先生に用事を言いつけられて、約束の時間に1時間も遅れて、もう暗くなってから公園に辿り着いた、


まあ、当然と言うか、既に彼女の姿は公園には無かった、…



彼女が発見されたのは、1か月後、自宅から300km離れた山の中だった、

斜面に引っかかっていた毛布とビニール袋の中で、彼女は既に人の形を留めてはいなかった、



警察の捜査で、近所の主婦の目撃情報から例の公園に彼女がいた事、高速道路のサービスエリアの監視カメラに身元不明の女と一緒に歩く「ヒヨリ」の姿が映っていた事が明らかになった、テレビのニュースやワイドショーでも「女子中学生連れ去り事件」として取り上げられたが、犯人は未だに捕まっていない、



それ以来、僕は漫画なんか読まなきゃ良かったと捻くれてしまったんだっけ、


僕の所為で彼女は怖い目に遭ってしまった、


僕が約束しなければ、僕が彼女と漫画の貸し借りなんかしなければ、僕と友達じゃなかったら、きっと彼女は酷い目に遭わずに済んだのに、


もしも犯人の車に彼女が乗っている事が直ぐに分る様な仕掛けがされて居れば、そもそも嫌がる彼女を無理矢理乗せたりした場合、車が発進出来ない様になっていたら、


僕がそれを実現しなければならない、だってそれが僕に出来る唯一の償いだから、



今の第5世代自動運転自動車では、略狙い通りの事が出来る様になった、後は、同じ仕組みの自動車を日本中、世界中で走らせる事が出来る様にする、それが僕の悲願だった、





ふと見ると、「平塚さん」が一冊の本を手に取ってじっと眺めている、


その漫画の事は何故だか覚えていた、もう10年以上昔の漫画だ、…確か主人公の青年が、何度も転生を繰り返しながら「世界を滅ぼしてリセットさせようとする天使たち」と戦う、そんな内容だった、主人公はちっとも格好良くないのに何故だか5人の美少女超能力使いにちやほやされている、当時流行った「ハーレム魔法少女モノ」の一つだ、確かヒロインの名前は、…


「アリア」、…


その時突然、誰かが僕の肩を叩いた!

振り返るとほっぺたに、人差し指が、…


突き刺さる、



マドカ:「ちょっとぉ、二人だけで遊んでて狡くない? 私も混ぜなさいよ、」

シオン:「って、戸塚さん、中島さんと出かけたんじゃ無かったの?」


マドカ:「シートベルトを装着しなくても発信できるバグがあったって話したら、中島さんの車でも時々起るって言うから、見せてもらいに行ったのよ、…結局自慢の改造車に私を乗せてドライブしたかっただけみたいだけど、」


マドカ:「それよりも二宮クン、自分の彼女が他の男に連れ去られようとしているのに見て見ぬふりって、一体どう言う神経かしら?」


シオン:「だってそれは、偽の彼女だから、」

マドカ:「二宮クンの冷たい性格は解っていたつもりだけど、今日改めて思い知ったわ、」


シオン:「それより、何で此処に居るの? デートは抜け出して来たの?」

マドカ:「人の話聞いてないの? 私は無理矢理乗りたくも無い「ラブ◯テル仕様のワゴン車」に乗せられてきたのよ、…横浜に用事があるからって直ぐに降ろしてもらったわよ、」


マドカ:「どさくさデートとか有り得ないわ、私と付き合いたいなら少なくとも部長以上に昇進してから誘いに来る事ね、」


シオン:「まあ、僕には永遠に無理そうだな、」

マドカ:「意気地なし、」



マドカ:「それで、貴方達は何をしてる訳?」

シオン:「平塚さんの食器を買い物して、漫画を見てたところ、」


マドカ:「そう言えばリョウコの所、碌な服も揃ってなかったわね、解ったわ、今から買いに行くわよ、」


シオン:「それより、お腹が空いたんだけど、」

マドカ:「良いから付いて来なさい、」


で、「戸塚さん」は無理矢理「平塚さん」の手を引っ張って、…連行する、



何だか漸く、一段落した実感がこみ上げて来た、でも、…


何で僕らの居場所が分かったんだ??

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます