第020話「責任の所在地」
次の朝、…
マドカ:「大丈夫なの?」
シオン:「あ、戸塚さん、お早う、」
顔を上げると、同期のアイドルが眉を
シオン:「ちょっと今仕事が忙しくてさ、昨日なんだか眠れなくって、…でも徹夜は慣れてるから平気だよ、ありがとう、」
マドカ:「…って顔してないから聞いてるのよ、」
何故だか「戸塚さん」の語尾が荒い、…
僕、何か「戸塚さん」に怒られる様な事したっけか?
カスミ:「二宮クン、始めようか、」
シオン:「ハイ、…じゃあ、そう言う訳だから、また後でね、」
「藤沢さん」は経理グループの主任業務をこなしつつ、合間の時間で僕の仕事をチェック、作業内容の微調整をして、追加の指示を出してくれる、
そこへ、10時過ぎになって漸く出社した「森さん」が顔を出す、…
森:「昨日は済みませんでした、ちょっと体調が悪くて、電話貰った時は丁度病院に居て、出られませんでした、…」
僕は、部長会での顛末を「森さん」に報告する、
森:「え、そんな事になってるんですか?…やっぱりな、なんか変な気がしたんですよね、」
カスミ:「他人事ミタイに言うけど、今年のビジプラは森さんが積んだんじゃないの?」
「藤沢さん」明らかに機嫌が悪い、
森:「僕は篠田さんの指示で言われた通りにやっただけですよ、」
「篠田さん」とは、昨年度のビジプラのアシマネで「森さん」の上司だった人だが、今年度からは関連会社に出向になっている、
「森さん」は「藤沢さん」が苦手らしく、それっきり「昨日休んだ分溜まっている仕事が忙しいから…」と、姿を眩ましてしまった、
昼休み、売店でサンドイッチを買っていると、…
ナギト:「シオン、お前、結構大変な事になってるぞ、」
シオン:「うん、分ってる、」
「ナギト」は僕の顔を見るなり、僕の額に掌を当てて、…熱を診る、
ナギト:「急に根を詰め過ぎじゃないのか? 適当にやんないと倒れちまうぞ、」
シオン:「ありがと、大丈夫だよ、」
卵サンドにパック詰め野菜サラダ、100%オレンジジュース、
僕はセルフレジで清算を済ませて、お昼ご飯をコンビニ袋に詰める、
ナギト:「お前、先週E-mailで警告出しただろ、…それが昨日の部長会で結局お前のミスだって分って散々陰口叩かれてるぞ、…「総務は信憑性の低いデータで適当な警告出して、現場の仕事の邪魔ばかりしてる、」とか、「新人のくせに部長会で目立とうとして
それは「森さん」に言われた通りやっただけで、…って、それは「森さん」の台詞ソノモノじゃないか、
シオン:「まあ、その通りだから何も言い返せないね、後で謝んなきゃ、」
ナギト:「だって、そんなのお前の所為じゃないだろう? そんなのおかしいだろう、」
目を上げると、「ナギト」が、眉を
僕、何か「ナギト」の気に触る様な事、言ったっけか?
ナギト:「兎に角、ドッカで変な噂聞いても気にすんじゃねえぞ、」
シオン:「分ってる、ありがとう、」
国府津:「どう、調子は?」
午後になって「国府津さん」が、様子を見に現れる、…
カスミ:「今、開発費見積もりのバージョンが旧いままの物が無いかチェックしています、後1時間位で終りそうですが、その後は、中止・延期プロジェクトの残骸がビジプラに埋もれてないかチェックしてみます、」
国府津:「後2日か、まあ、棚ぼた探すのも良いけど、そろそろ具体的な対策案も考えておいた方が良いかもな、」
カスミ:「平塚さんに手伝ってもらっても良いですか?」
国府津:「彼女には、別の仕事をお願いしているからな、今は無理かな、」
僕は、二人の会話を背中で聞きながら、…黙った侭、関連データの検索とダウンロードを続ける、
結局、夜21時を過ぎても、中止延期プロジェクトのチェックは終っていなかった、
中止・延期の決定事項は予算増額でないため、関門会議の網から零れる事が多く、一つ一つ過去の会議の議事録を引っ張り出して確認する等、結構手間を食っていた、
カスミ:「コレ迄に抽出出来たのは、削減見積もりの更新がされていなかった分が1400万と、延期案件の修正漏れが2件で5000万若か、コレは大きかったな、」
それでもまだ、15億の目標に対して、6400万円が積み上がっただけだ、残り1日一寸で、14億3600万の案件を積み上げられる気がしない、…
延々と終わりの見えない作業に、精神的な披露も倍増する、
カスミ:「先月分の実績コストの集計が一通り終ったから、これからは私もコッチの作業を手伝うよ、」
シオン:「スミマセン、僕が遅いばっかで、藤沢さんに迄迷惑かけて、」
カスミ:「そんなに気にしなくて良いよ、まだ慣れてないから仕方ない、…でも、早く作業する癖は付けておいた方が良いよ、常にアウトプットの正確さを損なわない様に気を付けながら、スピードアップを心がけるの、」
シオン:「それって何だか矛盾してませんか?…どうしたって、時間を短縮すれば、相対的に見落としやミスが増えるんじゃ無いですか?」
何で僕は、「藤沢さん」にまで口答えしてるんだろう、…
この人の期待に応えられない自分が、どうしてだか、…
こんなにも遣る瀬無い、
カスミ:「それはその通りだけど、限界迄スピード上げた後の話だよ、慣れてコツが掴めてくれば、無駄な作業が減って未だ未だ効率は上がるわ、」
カスミ:「スピードアップの秘訣は集中力よ、余計な事は一切考えずに兎に角機械的に作業をこなす、でもその為には何が余計で、何は重要かを学習しなければならない、その為には出来るだけ多くの情報に触れる事が大事、そうする事で何処に注目すれば良いかのカンコツが掴めてくる、」
カスミ:「君が今やっている事は、つまりそう言う事なんだよ、」
そうは言われても、…
コレ迄培って来た交通情報工学の知識はすっかり置き去りにされて、まるで無理矢理ビジネスプランのプロフェッショナルになる事を強制されているミタイで、…頭では分っているのに何だか納得いっていない自分が、
何処かに引っかかる、
シオン:「すみません、ちょっとトイレに行って来ても良いですか、」
カスミ:「ああ、少し休憩にしようか、」
用を足した後、横一列に並んだ洗面台の鏡に映った自分の顔を見る、…
自分でも気付かない内に結構、
昨日は眠れなかったから、眠気が目の裏側迄張り付いて来ている様だ、
シオン:「はあ、…」
僕はスマホを取り出して「ナギト」からのメッセージをチェックする、
来ていないか、…
新規メールが一通、届いていた、
差出人は、知らない人だ、
シオン:「アリア?」
女の人?
メアドからするに、NAVEの社員らしいが、誰だろう?
件名:「お疲れ様です」
本文:「お仕事大変そうですね、」
送信時刻は、10分前、…僕達の他に残業している誰かだろうか?
何か、返信した方が良いのかな?
でもちょっと、気味が悪い様な気もする、誰かの悪戯かも知れないし、
僕は、取り敢えずその侭放置する、
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