第017話「カスケードの本質」
部長席からトボトボと自席に戻ると、
「国府津さん」と「平塚さん」は、ビジプラグループの島(注、チームメンバーの机周り)の真ん中に有る「会議テーブル」で何やら打ち合わせしているらしい、…いや、雑談?
国府津:「お帰り、どうだった?」
稲毛:「ご想像通り宿題満載、来週の部長会で報告です、石立さんは木曜に話を聞かせろって言ってます、」
「稲毛課長」テーブルに片手をついて、溜息、
国府津:「まあ、誰が行っても同じだったろうな、良い経験だったろ?」
シオン:「はあ、まあ、…」
もしかして、それで僕を「捨て駒」にした、と言う事なのだろうか?
稲毛:「他人事みたいに言わないで下さい、どうするんですか?」
国府津:「私に聞かれても困るな、…検討するのは主担当の仕事だろ、期待の新人二宮クンのお手並み拝見だ、」
稲毛:「そんなの無理に決まっているでしょう? 課長命令です、この件は国府津さんがキッチリ纏めて下さい、お願いしますよ、」
国府津:「あらら、安い課長パワーだな、」
それで「稲毛さん」も去って行く、後は担当に任せた、…と言う事らしい、
国府津:「さてと二宮クン、整理しよう、…一体何が問題だ?」
シオン:「え、と、ビジネスプランのプロセスの問題ですか?」
「国府津さん」は深刻さの欠片も無いニヤケ顏で、僕の事を値踏みする、
国府津:「なるほど君は頭良いな、」
国府津:「でも、完璧なプロセスなんてこの世には存在しない、だからプロセスを改善したって今よりも楽になるかも知れないけれど、根本的に今の問題が解決した事にはならない、」
…???
国府津:「では質問を変えようか、今、何が不味い事になっている?」
シオン:「お金が、無い事?」
国府津:「本当に君は頭がいいな、その通りだ、」
国府津:「それでは次の質問、どうすれば良い?」
シオン:「このプロジェクトは重要だから、何か他のプロジェクトを止めて、15億円使わない様にする、」
これは、今朝の「藤沢さん」の受売りだ、…
国府津:「「開発のアウトプットは減らさない」と言うのが前提条件だ、そうだったろう?」
シオン:「はい、確かにそう言われました、」
国府津:「じゃあ、プロジェクトは止められないなぁ、」
何だろう、このイラッと来る感じ、…
シオン:「じゃあ、どうすれば良いんですか?」
国府津:「あらら、もう降参かな?…もっと自分事だと思って考えてみなよ、」
それは「国府津さん」の方こそ、じゃないのか?
開発部門台で頭を抱えている此の問題を何だと思っているのだろう? 大体この人一週間も遅れて出社して来て、自分のビジプラグループの問題なのに、…「大変だね」みたいな他人顔で禅問答ミタイな質問を繰り返して、もしかして全部僕に押し付けようとしているのか?
国府津:「そんな怖い顔しない、」
「国府津さん」は相変わらずニヤケ顏で、僕の顔を覗き込む、
国府津:「…しょうが無いからヒントを上げよう、」
国府津:「今月、君は15万円の新型の高性能カメラレンズが買いたいとする、支払いは12ヶ月分割払い、でも君が今年使えるお小遣いは、計画済みのデートやレジャーで一杯一杯だ、どの計画も重要だから止められない、さて、どうする?」
シオン:「節約、ですか?」
国府津:「まあ、半分正解かな、」
シオン:「でも、節約って、…どうすれば良いんですか?」
国府津:「月々1万2千円節約しようとしたら、君ならどうするんだ?」
シオン:「贅沢を止めるとか、光熱費を必要最小限に絞るとか、…ですか、」
国府津:「まあ、そう言うのもあるな、…所謂、リソース・マネジメントって言う奴だな、…リデュース、リユース、リサイクル、ってね、」
シオン:「でも、そんな検討は僕には無理です、実際の開発に携わっている訳でもないし、開発費の内訳がどうやって決まって居るのかも知らない、」
大体配属されて一週間しか経ってない新人に、出来る訳無いだろう!
と言う言葉は、…飲み込んだ、
国府津:「やれやれ、いいかい二宮クン、会社は君の限界とか最善なんかに興味は無いよ、…君は、自分の限界で会社の限界を決めては駄目だ、」
国府津:「会社には色んな人材や設備が有る、会社内で利用出来る物は何だって利用する、ソレが会社って言うモノなんだよ、」
それは、正論だ、でも、どうすれば誰が手伝ってくれるって言うんだ? それに、…
シオン:「ソレにしたって、物理的に時間的に限界が有ります、誰かに相談するにしたって、残り3日、一日8時間として24時間しかない、」
国府津:「諦めが早いなぁ、…まず3日は24時間じゃない72時間だろ、今日の残りも加えればまだ80時間位は有るんじゃないか?」
シオン:「それは、そうですけど、僕に、寝食しないで働けって言う事ですか?」
一体この人は、個人の権利を何だと思っているんだ?
国府津:「そうは言ってないけど、…仮に此の仕事を3時間でやり遂げれば、君は残り77時間遊んでいても良いとも言える、時間の使い方を固定概念に縛られては駄目だって事だよ、」
そんな、のらりくらりな「自己啓発本」の受売りみたいな台詞回しで、結局…
シオン:「じゃあ、何をどうすれば良いんですか? いい加減教えて下さいよ、」
シオン:「国府津さんにはどうすれば良いのか分ってるんでしょう? だったらこんな、イチイチ私が分っているかどうか試す様なやり取りは、時間の無駄じゃないですか?」
思わず、大きい声が出た、…あ、皆がコッチを見てる、
国府津:「こういう時、大学ではどうした? 分析や解析が間に合わない時、学会発表は延期したか? 今回は延期は赦されないからな、そう言う場合はどうする?」
それなのに「国府津さん」は相変わらずニヤケ顏で、僕の顔を覗き込む、
シオン:「推測、ですか?」
僕は、出来るだけ声のトーンを抑える様に努力しながら、…
国府津:「まあ、近いけど、まだ50点だな、」
このイラッと来る感じ、…
国府津:「今朝、藤沢さんが言ってただろう、会社の報告とは「提案して判断を仰ぐ場所」だって、…要するに「承認者」がYesかNoか或は他の選択肢か、判断出来る材料を持って行けば良いんだ、」
シオン:「すみません、よく分かりません、」
国府津:「つまり、推測、推量、何でも良いけど、恐らくこの3日で完璧な物が出来る事は無いだろう? だから、ソレを検証するのに協力して欲しいって、一言付け加えればそれで良いんだよ、」
国府津:「何だか上手く行きそうな幾つかの案と、ソレをコレから検証するのに協力して欲しいと言う提案、その後のアクションが年度末の予算見通しに間に合っていると言う計画、まあ、それだけ揃ってれば、来週は凌げるんじゃないかな?」
だから、どうすればその「案」が作れるのか、具体的に教えてくれれば良いのに!
国府津:「さてと、後はもう少し実質的に頼りになるサポーターが必要だな、」
国府津:「藤沢クン、…」
カスミ:「ひゃい!」
突然背後から、吃驚した猫みたいな声が、…
国府津:「聞き耳立ててただろ、相変わらず丸わかりだな、」
カスミ:「スミマセン、ちょっと気になって、」
国府津:「悪いけど今週一週間、手伝ってやってくれないか、」
カスミ:「勿論です、」
それで、「国府津さん」は席を立って、「平塚さん」を促して、荷物を纏めさせている?
国府津:「じゃあ、一寸今日は用事があるんで先に上がらせてもらうね、…何か困ったらメール入れといて、」
それで「国府津さん」は「平塚さん」を連れて外出、…行き先黒板は「直帰」になってる、…って、未だ14時過ぎだぞ!
シオン:「なんか、国府津さんって、何時もあんな風なんですか? 結局全部人任せで、あの人は一体何を手伝ってくれるんですかね、」
なんで、あんな人が、…
カスミ:「まあ、二宮クンにもその内分るよ、」
「藤沢さん」は、一寸困った風に、苦笑いする、
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